第27話 私が出す答え①
フェリーで約1時間ほど。アナウンスが鳴り、ついに小豆島についた。
降りて、ゆっくりと息を吸う。うん。いい天気。瀬戸内の穏やかな風が海から吹いてきて、気持ちがいい。東京より温かいから、本格的な春の訪れを感じた。
2度目の小豆島。
ここにくると、やっぱり陽樹くんと翔月くんの顔が頭に浮かぶ。
ボトルメールを拾って、やりとりをしたこと。初めて小豆島に行って、会いに行ったこと。
あの時は、今度は私の地元・鎌倉で会おうということになったけど、いろいろあって、またここに来ることになった。
2人には、たくさんの幸せと思い出をくれた。彼らのお店・『食事処・ウェーヴ』でオリーブソフトクリームを食べたこと、小豆島の海に行ったり、東京の修学旅行で、また再会したこと。
陽樹くんからもらった、Tシャツとタオル、翔月くんからもらった、ピンクの貝殻と温泉のお金。
その1つ1つが、私の大切な宝物になったよ。
だから、私ね――――
※ ※ ※
念のため、Googleマップでお店の行き方を調べ、行くことにした。当たり前だが、初めて行くときよりも緊張しない。身体も軽くて自然と前に進む。 私は、ステップしながら目的地へ向かった。
翔月くんには、今日、小豆島に行くと言ってある。メッセージを送ると、すぐ既読がついて、『ひなこちゃん、受験本当にお疲れ様! お店空けとく!!』と言っていた。修学旅行の日以来会っていないから、会えるのが楽しみだ。
見覚えのある『食事処・ウェーヴ』と書かれた看板を目にし、私はGoogleマップの案内を切る。
なんだか、店の外観が前より少し変わった気がする。前は歴史あるレトロな雰囲気で、風情があるなと感じたが、今はなんだか落ち着いた現代風な見た目になっていた。
観葉植物がたくさん置かれていて、看板の側には『おりーぶしまちゃん』の人形が置いてある。
多分、この外観にしようと言い出したのは、陽樹くんだろう。翔月くんだったら、もっと派手なデザインにしそうだからだ。カラフルで、もしかしたら、店のロゴまでポップにしちゃいそう。ふふっ。
私は、店のドアを握りしめながら、店内へ入った。
カラン、とベルが鳴り、足を踏み出すと、知っている顔がお出迎えをしてくれた。
「ひなこちゃーーーーん!!!! おかえり!!!!」
「わっ!!」
子犬のようにキャンキャン吠える翔月くんは、私の姿が見えた瞬間、勢いよく飛びついた。
まるで、尻尾がついているようだ。上下にブンブンと激しく振っているようにも見える。
「か……づきくん……。 ちょっと……」
『重たいかも』と言おうとすると、彼が察したかのように手を離した。
「ん? あー! ごめんごめん!!」
少し頬が赤くなっている。私も、なんだか恥ずかしくなって、照れ隠しに笑った。
※ ※ ※
「お待たせしました〜!!」
カウンター席で少し待っていると、翔月くんが料理を運んできてくれた。
出てきたのは、緑の細麺と油がのっためんつゆ。私は、これが何かよくわかる。彼らに会って、小豆島のことを少し勉強したからだ。
おそらくこのつゆは、ここでとれたオリーブオイルだろう。さっぱりしていて、春になったばかりなのに、もう夏のことを思い出してしまう。
「オレが作ったオリーブそうめんだよ!! ささっ! 食べて食べて!!」
「ありがとう! じゃあ、お腹もすいたし、食べちゃおっかな! いただきまーす!!」
私は手を合わせ、すぐさま麺を箸で挟む。口に入れた瞬間、ちゅるっと吸い込まれる。
「わぁ! 美味しい!」
「でっしょ〜? だって、オレが作ったんだもん。当然だよね。」
「で……ひなこちゃん。」
「ん?」
彼が私の隣に座り、チラッと顔を覗き込む。お冷の氷が、カラン、となる。
広々とした店内に、2人しかいないなんて、なんだか変な気分。
近距離で、翔月くんと目が合う。子犬のように、目をキラキラと輝かせていた。
「受験、どうだった?」
「……どっちだと思う?」
私が返した言葉に、彼はずっと口をモゴモゴさせていた。多分、私が落ちていたことを考えて、言い出しにくいのだろう。
その様子に、思わずクスッと笑い、今日1番の笑みを浮かべた。
「 受かりました〜!! 第一志望!!」
「ええ!? 本当!? 」
私は激しく頷く。彼の表情が、みるみる明るくなっている様子が分かった。
「やったぁあ!! さすがだね!!! 合格、おめでとう!!」
「うん! ありがとう!!」
翔月くんとその場でハイタッチ。パチン、という音が店中に鳴り響いた。
※ ※ ※
テーブルの上には、私が食べ終わったオリーブそうめんのお皿とつゆが置いてある。
それから、私たちは色々なことを話した。
この数ヶ月間、翔月くんは、学業にお店に頑張っているらしい。勉強が苦手だった翔月くんが、今じゃ自分から毎日やるようになったみたい。私が知らない間に、どんどん成長している。
「じゃあ、春から大学生か…。ひなこちゃんは、オレより先に大人になっちゃうね。寂しいなぁ。」
「まあ、私のほうが年上だからね〜。」
私の言葉に、翔月くんは、『それはそうだけどさ〜』といいながら、ヘラヘラ笑っていた。
なんだか、この感覚久しぶりだな。彼は私と違って、すごく明るいし、周りを楽しませる力があると思う。だから、自然と笑顔になれちゃうんだよね。
初めて会った日は、陽樹くんもいたよね。あの時は、まさか2人でボトルメールのやりとりをしていたなんて驚いちゃったな。
私は、周りを見渡しながら、静かに口を開く。
「………ねえ、今日陽樹くんは?」
「あーー………。 兄ちゃんは……。」
翔月くんはそういいかけて、気まずそうな顔つきになる。
「何かあった?」
「ううん! 別に!」
嘘。彼は表情が顔に出やすい。だって、顔に『何かありました』って書いてあるんだから。目を合わせると、わざとらしく目をそらすから、お察しだった。
「…兄ちゃんは、今日お店に来ないんだ。多分、どこか出かけてるんじゃないかな。」
「陽樹くんがお店にいないなんて、珍しいね。」
「今日は定休日だからっていうのもあるけど。オレも、ひなこちゃんがくるから、顔出せって言ったんだけど……」
「そっ…か……。」
静まった空気の中、私たちは会話を探す。
彼は、陽樹くんに私が来ると話していた。だけど、陽樹くんはそれを知っていて、店に来なかった。きっと、わざとだ。
私が来るから―――。
生唾をゴクン、と飲み込む。私は、覚悟を決めた。
「ねえ、翔月くん。」
「ん?なに?」
キョトンと見つめる翔月くん。その顔が、その姿がずっと大好きだった。
「告白の返事、今、したい。」
「聞いてくれる?」
「もちろん! 何でも聞くよ。……あ。」
「……『ごめん』以外ならね。」
私は、静かに深呼吸した。
もう、何も迷わない。迷いたくないから。
答えは、もう決まっている。
翔月くんに、私、今伝えるね。
大好きだからこそ、ちゃんと、伝えるべきなんだって。
「私ね、翔月くんのこと―――」




