第26話 私のボーイフレンド
最後の試験も無事に終了し、長かった受験生は幕を閉じた。
窓を見上げると、寒かった毎日から一変、近くの木々は桜の蕾を付けているようだった。
そして、今日。その大本命の大学の合格発表である。
発表時間は、午後12時から。アクセス集中防止のため、早めにパソコンを立ち上げた。
発表は、私1人で見たいはずなのに、なぜか私の両サイドには、家族全員がパソコンとにらめっこをしている。
受験番号とパスワードを入力し、その瞬間をみんなで待つ。
私は、生唾をゴクンと開いた。家族からの圧もまた、苦しい。
「ほら!! もう12時になったよ!!!」
母親が、私の肩をポンと叩く。その勢いが強すぎて、今にも壊れそうな心臓がまた強く跳ねた。
私は、静かにうなずき、恐る恐るカーソルを合わせる。
どうか、受かっていますように―――。
カチッっと、クリックをする音。
その一瞬だけで、私のこれからの未来が見えるような気がした。
目をゆっくり開ける。
家族全員何も喋らず、部屋中凍りつく。
見えたのは、『合格』の文字だった。
「う゛わ゛ぁぁぁぁぁあ!!! 合格!!! 受かったよぉ〜〜」
その場で近所に聞こえるくらい、大声をあげる。
家族も震えながら一緒に歓声をあげる。特に母親は、涙を流していた。
体験したこともないエネルギーが、全身からものすごい勢いで流れてきたような感覚。
ずっと行きたかった大本命。明生大学・文学部に合格。最後に報われたという形で、私の桜は綺麗に咲き誇った。
※ ※ ※
数週間後。入学手続きもある程度済ませたので、私は存分に春休みを楽しんだ。
澄空に会った。彼女は国立大を受験したから、最近受験が終わったらしい。どうやら共通テスト利用で慶法大学の合格は貰っているそう。さすがは学級委員。頭が良い。
私の合格のことを話したら、『占い通りね……』といって、静かに喜んでくれた。
…え!? 占いってそんなことまでわかっちゃうの!?
そして、今日。
携帯の電源をつけると、3月24日を示している。そう。今日は、小豆島へ旅行する日だ。
流石に、数日間いないと、家族に不思議がられるので、事前に撮った澄空とのツーショット写真を見せて、彼女と卒業旅行へ行くという嘘をついた。今まで私に友達がいなかったから、家族全員肯定的だった。
もちろん、本当に澄空とも卒業旅行に行く約束もしている。でも、彼女の合否次第できっと予定も変わるだろうから、詳細はまだ白紙のままだ。
初めて、陽樹くんと翔月くんに会ったときは、少ししかいられなかったから、今度はたくさん観光しようと、ホテルも予約済みだ。
行きたい場所は、数え切れないほどいっぱいある。まずは、香川県名物・讃岐うどんも食べることは大前提。あとは、醤油ソフトクリームも食べてみたいな。それから、オリーブ公園と寒霞渓にも行きたい。
高松港から土庄行きのフェリーに揺られると、携帯をスクロールする手が止まる。
うん。ここは、今日、絶対に行きたい。
土庄町にある、エンジェルロード。
実はここに行くのが、今日1番の楽しみだ。小豆島の公式サイトで、潮見表を何度も確認しては、胸が高鳴る。
『干潮時に海の中から現れる砂の道。大切な人と手をつないで渡ると、願いが叶うと言われているロマンティックな場所です。』
香川県の公式サイト・『うどんの県 旅ネット』にかいてある文章をじっと眺める。
大切な人。
人によって、『大切』の種類は違うと思う。家族や友達の澄空、その他今までお世話になった人全員が大切な人だ。
でも、私が今、手をつなぎたい人は―――。
ふいに、『彼』の顔を思い出しては、顔が真っ赤になる。
1人で悶々と座ってるだけじゃ、なんだかもったいないので、売店コーナーや外の景色を眺めることにした。
今日は人が多い。小さい子からお年寄りまで、フェリーを利用する人は様々だった。春休みに入ったのだろうか。
初めて来た時よりも、船内は賑やかに感じた。
※ ※ ※
階段を登る際に、売店コーナーを見つけたので、景色は後で見ようと思った。
「いらっしゃいませぇ。」
お店のおじさんが、ニコニコ笑いながら私の方をみてくる。人当たりよさそう人だった。
売っているのは、軽食、瀬戸内産のお菓子など、気軽に食べる物がたくさん売っていた。
どれもお手軽な値段。せっかくだから、瀬戸内レモンのポテトチップスでも食べよう。
私は商品を会計に持っていく。売店のおじさんが、商品コードを読み取っているのを待っていると、見知った物が目に入った。
思わず、声に出して読んでしまう。
「あっ、おりーぶしまちゃん……」
レジ周りの商品は、しまちゃん関連でいっぱいだ。キーホルダー、ぬいぐるみ、シール、靴下、ボールペン……ありとあらゆるものが売られていた。
「おや? 知っているのですか? このキャラクターのこと。」
おじさんの手が止まった。『食いついたか!』とでもいうように、目をキラキラと輝かせている。
私はそれとは反対に、少し引き気味になる。
「 ……まあ。 可愛くて好きです。」
「へぇ〜〜珍しい。知ってる人なんて、地元の人くらいなのに。小豆島も有名になったもんだ。」
おじさんは、大きく笑いながら話を続ける。
「じゃあ、お嬢さんに質問。おりーぶしまちゃんの隣にいるのキャラの名前は?」
「え…?え、えーーっと……」
おりーぶしまちゃんのぬいぐるみの隣には、ピンク色のかわいらしいキャラクターだった。しまちゃんの女の子版だろうか。
『おりーぶしま子』という単語が浮かんだが、違ったら恥ずかしいので、アイディアが浮かばないふりをし、首をかしげる。
私の様子に、またもおじさんは笑った。
「あっははは! さすがに難しいかぁ。」
「この子はね、『ミモザのりくちゃん』って言ってね、おりーぶしまちゃんのガールフレンドなんだよぉ。」
これは、営業トークなのだろうか。そのテンションの高さに、私は魂の抜けた返事をする。
「ピンクで可愛いでしょぉ。春、小豆島に咲いてる『ミモザの花』がモチーフでねぇ。」
「今…うーーんちょーーっと早いかな。あともう少しで、至る所に見れるはずだよぉ。せっかくだから買っていきなぁ。」
バレないように、ちらっと値札を見る。ぬいぐるみは2000円近くした。さすがに、まだバイトを始めていないため、その上にある600円のキーホルダーを買うことにした。
ボーイフレンドとガールフレンドという関係なら、2つセットで買うしかない。
「まいどぉ。」
私はペコリとお辞儀をする。
結局購入したのは、瀬戸内レモン味のポテトチップスとおりーぶしまちゃん、ミモザのりくちゃんのキーホルダー2つ。
私はレジ袋から、2つのキーホルダーを手に取る。
2人は、恋人同士、か。
私がこのストラップを持ってて、一体何になるんだろう。
もし、恋人がいたら、しまちゃんとりくちゃんをお互い持ってるなんて、ロマンチックなことができるけど。
ついつい、2つ買っちゃった…。
『彼』が受けとってくれるなんて、何も保証はないのに。




