第22話 俺の気持ち
2泊3日の修学旅行が終わった。楽しい時間は、本当にあっという間だった。
片付けをしている俺・陽樹は、クローゼットに物をしまうたびに、その手が止まる。
2日目も3日目も、博物館に行ったり、動物園に行ったり斬新な体験ができたけれど、やはり1番印象に残ってるのは、1日目の夜だ。
※ ※ ※
大雨の中、雛子を見つけ出して抱きしめたこと。ホテルのロビーで少し話したこと。
その後、翔月が来て、自分は邪魔だと思ったから夕食会場へ向かった。
『波原兄も、あの女の子が好きなんだなー。』
翔月の担任教師・奥村先生が、後ろから声をかけてくる。
つまり今、翔月と雛子は2人で一緒にいるということだろう。
その事実に少し胸が痛む。そうしたのは自分なはずなのに。
先生の言葉に、俺は言葉を濁す。
『いや……ただの知り合いですよ。』
『あっはは! 誤魔化しても無駄だぞー。いやぁ、最近の若者は青春だなぁ。双子で同じ人を好きだなんてな!』
『だから俺、そんなことひと言も――。』
『陽樹ぃ。』
先生は無言になる。
『本当にお前はそれでいいのか?』
『……はい?』
『細かけぇことは、俺もわからねぇ。だけどよ、なんかわかるんだよ。お前らの面倒を見てると。』
『譲ろうとしてないか? 弟に。』
予想外の言葉に、俺は目を丸くする。
いつも能天気な先生も、今は本気な表情をしていた。
『最近のお前はなぁ、なんだか辛そうだ。授業中も、修学旅行中も。』
『もう少し、自分らしくいていいんじゃないか? 本当の陽樹をぶつけてみても。』
俺達の状況なんて、知らないはずなのに、その言葉に全てが、自分に突き刺さっていくような気がした。
誰が見てもわかる。彼女は、間違いなく、翔月のことが好きだ。
彼を見つけたあの表情、2人の息ぴったりな行動。まるで2人だけで奏でるハーモニーにも見えた。
俺は、間違いなく場違いだ。
2人の空気を勝手に汚して、ズカズカと入ってきて。
だから、廊下で雛子で話しかけられた時も、そっけない態度をとった。
多分、彼女よりも先にそこにいたのは気づいていた。だけど、これ以上近づくのは違うと思ったから、話しかけなかった。
『陽樹くん……!!!』
雛子の高い声。はっきりと俺の名前を呼んだから、優しく返事をしたかった。
でも、現実は、後ろを振り向くことさえ、苦しくなるだけだから見たくなかった。彼女の顔を見たら、また、振り出しに戻るから。
翔月のことが好きだとわかっていて彼女と仲良くするのは、相手にも失礼だと思う。
翔月は、これまで俺の好きな人や彼女を奪ってきた。それは紛れもない事実だ。
でも、今ならわかる。
奪ったんじゃない。
彼の太陽のように眩しいオーラが、彼女らを魅了させるんだ。彼にそんなつもりはなくても、無意識に目を奪われてしまうような、そんな魅力があるんだと思う。
翔月にも、雛子にも2人も心から幸せになってほしい。だって、血を分けた唯一の弟と、好きになった人だから。
『また、小豆島遊びに行くからね。』
最後に放った、雛子の言葉。
来なくていい。来るなよ。
だけど、彼女の前で言えるはずなかった。
それは、本心じゃないから。
翔月と付き合うことになったら、俺は、心から祝福をしたい。もう、2人の邪魔なんかしたくない。第3者から2人を眺めて、いつまでも上手くように、願い続けたいんだ。
※ ※ ※
その時、遠くにあるスマートフォンとからバイブ音が聞こえる。
『陽樹くん、もう家ついた?』
雛子からのメッセージ。
彼女から連絡が来るなんて珍しい。まあ、俺もメッセージが苦手だからあんまり送ったりはしないが。
返信しようとして、手が止まる。
「兄ちゃん。」
ガチャン、と、ドアの開く音。
弟の翔月が部屋に入ってきた。
旅行で疲れたのだろうか、行きのテンションとは真逆に、冷淡な印象を受ける。
携帯をその場で置き、片付けの作業を再開する。何も言わない彼に、目を合わせず声をかけた。
「翔月、片付け終わったか? いつもワイシャツとかそこら辺に放置してるから、しっかり洗濯出しとけよ。母さんに迷惑かかるから。」
「兄ちゃん。」
俺の話を遮るように、翔月は話す。
視線を感じ、手を止めて、彼の方を見つめた。
「なに?」
「オレ、雛子ちゃんに告白した。」
「……そうか。」
「返事とか気にならないの?」
「翔月なら、うまくいくだろ。」
「ふーん。じゃ、言わない。」
本当は気になってしょうがなかった。
だけど、『付き合ったよ。』と言われるひと言が、怖くて聞けなかった。翔月は嘘をつかないまっすぐな性格だから。余計に。
彼もまた、旅行の片付けをしている。
きっと、いつか答えが出る日がくる。その日が、だんだん可視化されているのは、俺も翔月も分かっていた。
空は夕焼け空。小豆島は今日も穏やかな天気。すこし、風が冷たいような気がする。冬が近いのだろうか。
翔月はすごい。
雛子に気持ちをはっきり伝えて、それを俺に正直に話せる。
自分とのギャップが大きくなる現実に、俺はどうにも向き合うことができなかった。




