第12話 オレの行き先
長かった夏休みも幕を閉じ、あっという間に新学期。
オレ・翔月の夏は、本当に色々な事があった。店はもちろん大変だったけど、中学の同級生や高校の友達と遊びに行って、フェリーで県内まで遊びにもいけた。
それに、ひなこちゃんとも会えたし。
本日全ての授業が終わり、終礼の時間。久しぶりの授業で、心も身体もへとへとだ。特に、午後の授業はほぼ全部寝てた。
振り向いてもらえるように頑張ろうと意気込んだはずなのに、そう簡単に人は変われない。
生徒たちの笑い声で飛び交っていると、オレの担任教師・奥村先生が教室から入ってきて、手を叩く。
男の先生で、贔屓もせず、誰に対してもフレンドリーに話す。そのため、生徒全員に好かれてる人である。年齢が20代だから、話しやすいのかもしれない。
「はい、席座れー。じゃあ、この前やった夏休み明け試験を返すー。番号順に呼ぶから取りに来るようにー。」
その言葉で、教室の空気は一気にヒヤリした温度に変わる。
別に大きく成績に関わるわけではないが、テスト返しというのは、皆、心臓に悪いのである。
先生はその様子を気にすることなく、話を続ける。
「ちなみに学年最高点は、英語98点、数学は100点だ。」
名前を出されなくてもわかる。
全部、兄ちゃんのことだろう。
校内順位1位は当たり前。島内の模試でもほぼ毎回1位を取得している。
きっと、彼は香川県内の学校に行きたかったんだと思う。だけど、オレの学力に合わせて、高校のレベルを大幅に下げたのだろう。
周りの友達も、『陽樹はあんなに頭いいのに、なんでお前はポンコツなんだよ』とオレに言ってくる。
もう、慣れたけど。
「はい、波原ーー。」
苗字が呼ばれて、解答用紙を受け取る。先生は何か少し言いたげなようだ。
「何?センセー。」
「なにー?じゃないだろ。見てみろ。すごいじゃないか、赤点回避。どうした。今回は。勉強したのか?」
どう考えても怒られる空気だと思ったが、違うみたいだ。先生が指さす場所をみると、英語42点、数学38点の数字だった。
オレは見ての通り、赤点常習犯。30点以上なんて、高1の最初しか取ったことがない。
そんなだから、ちょっと回避すると、こうやってクラス中がお祭り騒ぎになるのだ。
深夜、ほぼねないで勉強したのが良かったのかもしれない。あんなに勉強に対して集中できたのは、きっとひなこちゃんのおかげだと思う。
「え!? まじ!? 翔月が赤点回避!?」
「明日雪降るぞ!!!!」
友達らが次々に声を上げる。
そりゃ、兄ちゃんに比べたら天と地以上に違うけれど、それでもオレの中では大きな一歩前進だ。
幼い子供のように口角が上がる。
もっと、もっと頑張ろうと思えた。
自分自身のためにも。そして、ひなこちゃんのためにも。
オレは、そんな驚いてる彼らを見て、思い切りピースをする。
「やればできちゃうんだよっ! オレってさ!」
「まあ、翔月、赤点回避しただけだけどなー!」
「期待してるよーー! 翔月〜!!」
男子じゃなく、女の子たちも笑いながら声を上げた。
今度はもっと驚かせてやろう。きっと、こんな騒ぎじゃすまられないぞ。
オレは、これからの未来のことを想像して、またニヤニヤ笑った。
※ ※ ※
テスト返しが終わり、先生は真面目な顔つきになる。
「えーーー。連絡事項。お前らが楽しみしてる11月の修学旅行の件についてだ。」
オレたちの学校では、毎年高校2年生の11月に修学旅行がある。2泊3日で、北海道へ旅行へ行く。
札幌はもちろん、小樽の方まで幅広く観光をする。二日目は高級ホテルでバイキングもあり、楽しいことが盛りだくさんだ。
「………ご存知の通り、今北海道は自然災害で、色々大変な状況だ。復興作業が終わらず、11月の修学旅行までには間に合わないという連絡が来た。」
嫌な予感がする。皆もきっと同じ気持ちだろう。
先生は、ごほんと、咳払いをした。何か言いにくいことを今から言うのだろう。
「つまり……だな、北海道には行けなくなった。楽しみにしていたのに、本当にすまない。」
その言葉に、教室中に怒号が飛び交った。
「えーーー!!!」
「どういうこと先生。」
「おれら修学旅行いけないんすか?」
「そんなぁ…。楽しみにしてたのに…。ショック。」
「まあまあ、静かにしろ。話は最後まで聞け。………で、さすがにお前らがそれじゃ可哀想だと思った。最初で最後の旅行だしな。」
「教員全員で話し合った結果、急な変更になるが、旅行先を北海道から東京に変更となった。」
『東京』
先ほどの反応が嘘かのように、クラスはまるでお祭りのような雰囲気へと早変わり。
「まじ!?!? 先生!!!!」
「東京ってあの東京だよね!?!? あれだよね!?」
「やばい!!!! 夢!? これ!?」
オレら田舎民からすれば、東京なんて夢にまで見た憧れの場所。欲しいものは何でもすぐ手に入って、建物も高くて、モデルや俳優もゴロゴロいる世界。
なんなら、東京に変更でよかったと本音を漏らす生徒もいた。
「がち!!!!! 東京!!!! それはアツい!!!!」
もちろん、オレもその場でガッツポーズ。キラキラした目で、教員を見つめる。
「はいうるさいぞー。詳細はプリントに書いてある。急な変更になったから、親御さんに許可がまた必要だ。で、期限はーー……」
先生がプリントを配布し、オレは光の速さで前の人から受け取った。
観光場所は、東京スカイツリー、東京タワー、東京ジョイポリス…それから浅草や上野の方面まで範囲は幅広かった。
ずっと、夢見てた場所。
しぬまでに1回は行きたいと思っていた。
その時、ピロン、と携帯の通知がなった。
オレは、先生にバレないようにそっと電源をつける。
もちろん、相手はひなこちゃんから。
『こっちはまだまだ暑いよ〜。翔月くんのところも暑い?』
あれからずっと会話が続いてる。
返信を返そうと思って、指を動かした時―――。
目を少し見開いた。
確か、ひなこちゃんが住んでいる場所は、鎌倉市。神奈川の方だったはず。
東京と神奈川って隣同士だし、もしかしたら会えるんじゃ………。
てっきり、次会えるのはもっと先の話かと思った。彼女は受験をするらしいから、冬休みも厳しそうだし。
思ったより、早く会えるかもしれない。
いや、会えるんだ。オレたちはまた再会する。そう思えるから。
きっと、兄ちゃんは考えていない。こっそり抜け出せば、ひなこちゃんに会えることも可能なことを。
あの日の続きは、兄ちゃんが繋ぐんじゃなくて、オレが繋ぐんだ。
会いたい。 大事な修学旅行だけど、それでも彼女に会いたい。
いつもは遠く離れてるのに、たった3日間だけは、彼女の隣の県にいられる。
そんな些細なことが、今はすごく嬉しいんだ。
待っててね。ひなこちゃん。
オレ、キミに会いに行くからね。




