第13話 私の矛先
その日の夜。
澄空にも、辛口なことを言われし、今日は気を引き締めて受験勉強に取り掛かることにした。
時刻は、午後10時を回っているところ。部屋の秒針が静かに時を刻み、私は参考書とノートを取り出す。
高3の秋にもなって、基礎も土台も完成されてないので、まずは授業レベルを理解しようと思った。
シャーペンの芯をカチカチと取り出し、問題文を見ながら解き方を確認する。
いつまでも、ゆらゆら波に揺られているわけには行かない。私も、ちゃんと自分と向き合わないと。
1階のリビングでは、家族の団らんの声が聞こえてくる。テレビの音だろうか。音楽のようなBGMもかすかに聞こえる。
私は、その音をシャットアウトするように、必死に机に張り付いた。
※ ※ ※
「雛子ぉ。あんた、まだ勉強してたの。明日も学校でしょ? 起きれなくなっちゃうから、そろそろ寝なさいよ〜。」
しばらくして、ノックもせずに、母親が部屋を覗き込んできた。
今までずっと無言の空間が続いていたから、思わず心臓がふわりと跳ねる。
その言葉とハッとして、携帯の電源を付けると、日付を跨ぎ12時半を過ぎていた。
嘘。私こんなに集中してたんだ…。時間を忘れるくらいに。
確かに、予備校に行ったときはこれくらい、いや、それ以上に勉強させられる。だから、別に珍しいことではない。しかし、家での誘惑が多い中、こんなにも集中できたのは初めてだった。やはり、人は焦ったときこそ、本領発揮できるのかもしれない。
私は母親に『わかった。おやすみ。』と返事をし、学習机の電気を消した。
机に寝そべる。
時間を見て、一気に疲れが出たのかもしれない。
私は細目になりながら、飾ってある貝殻に触る。
このピンクの貝殻は、翔月くんがくれたもの。
人工物のようにピンク色に輝いていて、形もお洒落で綺麗。部屋に飾るとより映えるから、気に入ってる。
そして、これを見ていると、彼の顔を思い出す。
初めてボトルメールを拾った時のこと。メッセージを交わしたこと。初めて小豆島に行って、彼のお店に遊びに行ったこと……。
初めて、キスをされたこと……。
私は、目を細める。
翔月くんは、今、何してるのかな―――
そう思って、携帯の画面を付けると。3件の新着メッセージが来ていた。
その場で飛び起きて、思わずアプリを開く。
その相手は、翔月くんだった。
どうして………。
心臓が、バクン、バクン、と跳ねる。
貝殻を見つめていて、彼のことを考えていたら、彼からメッセージが来た。
偶然なのはわかっているけど、偶然にしては不自然すぎる出来事に、心が落ち着かなかった。
深呼吸をして、メッセージを確認する。
『聞いて! オレら修学旅行北海道の予定だったんだけど、色々あって東京になった!』
『ひなこちゃん、確か鎌倉の方だよね? 住んでるの』
『オレ、会いに行くよ。』
身体がその場で固まる。
一般的な高校生の修学旅行は、高校2年生に行く。何往復かやり取りしているはずなのに、その話題にはお互い触れたことがなかった。
東京の場所にはよるが、私の地元からそんなに近くはない。町田だったとしても、1時間弱はかかる。
会えるなら、私も会いたい。だけど、修学旅行を抜け出すなんて、そんな簡単な事ができるのだろうか。
それに、一生の一度の修学旅行だから、あんまり無理はしてほしくないと、後ろめたい気持ちもあった。
『東京か! ずっと憧れてたもんね、楽しんでね!』
『嬉しいけど、翔月くんの修学旅行だし、無理しないでね。会うのも大変だろうし。』
2件のメッセージを返したあと、すぐに『既読』という文字が付いた。
『無理してないよ。大丈夫。』
『本当は、今すぐひなこちゃんに会いたい。』
今度はフリーズするどころか、その場で口を押さえ、ベットへダイブした。
翔月くんが打ったその文字が、その気持ちが、どんどん私の心臓の中へ入ってきて、混乱させてくる。
どうして、こんなにストレートに言えるんだろう。私にも、こんな事ができたらいいのに。
その素直さがすごく羨ましかった。
彼の修学旅行――私にとっては、恋の行方を決める修学旅行に聞こえた。
また、翔月くんに会える。
2回目の対面。
今度も――また何か変わる?




