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【完結】キミと手を繋ぎたい。オリーブの香る島で。  作者: 咲山けんたろー
第2章 キミと会って、変わっていく気持ち。
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第10話 オレの覚悟



 自分の垂れたよだれが、机に垂れたのを察知して、オレ・翔月(かづき)は咄嗟に起き上がった。





 寝ていた。いつからだっけ。





 近くの時計をぼーっと見つめると、時刻は既に日付を跨いでいた。




 夏休みの宿題が終わらなくて、それで兄ちゃんに手伝ってもらって、それで、それで……。




 机の上に広がっているプリントやノートの字を見つめる。


 兄ちゃんは、オレの字に似せるのがうまい。小学校の頃から宿題を手伝ってもらっているが、1回もまわりにバレたことがない。




 オレがやったのなんて、ほんの一部で、起きた頃には、ほぼ全ての穴埋め課題が埋まっていた。




 そうか…これは全部、兄ちゃんが…。




 昔から、彼は、面倒見のいい兄だった。双子で、数時間しか変わらないはずなのに、充分すぎるほどに兄の責務をやっている。




 一方のオレは、黙ってても『兄ちゃんが何とかしてくれる』と人任せで、あんまり人のために何かをしたことがあっただろうか。




 そういうところは、密かに尊敬していた。




 窓のカーテンがふわふわとなびいている。夜風はまだ生暖かい。残暑はまだ続くようだ。




 すると、窓の外から人の声が聞こえる。低い声。声のもとは近い。近隣の住民ではない。






 だって、この声は兄ちゃんだから。







 オレは、彼にバレないようにそっと耳を澄ます。間違えない。誰かと話している。こんな夜遅くに。






 一体、誰に。何の用があるのだろうか。





 そして、オレの耳が言葉をはっきり掴んだ。耳がピクリと動く。











『本気だから。俺。』










 その言葉を聞いた瞬間、心臓が痛いくらいに脈打ち、不自然な手汗をかいた。






 兄ちゃんは、ひなこちゃんと、話してる―――。




 本当は、耳を澄ます前に、なんとなく知っていた。彼はオレに比べて、あんまりスマホを見ないし、それなのに最近は、不自然なほどに携帯をよく見ていたから。




 きっと、ひなこちゃんのことを考えて携帯をいじっていたのだろう。そう考えれば、今までの行動すべてが、パズルのように繋がる。




 別人にように変わった。これが、恋した変化なのかもしれない。




 オレはどうだろうか。確かに、店は前より、少しやる気が出たけれど、兄ちゃんの手助けが必要じゃなくなっただけで、必要最低限なことしかできない。




 今度の夏休み明けテストも、勉強するのがめんどくさいからノー勉で行こうとしていた。クラスの男女でカラオケに行く約束もした。




 でも、そのとき兄ちゃんは―――





 夏休み明け試験も、前からコツコツ勉強をしていたのも知ってるし、あんまり大勢でワイワイ遊んだりせずに、何でも器用にこなす。お店のことも、お客さんに言われなくても充分なサービスを提供している。新作のメニューも、夜遅くに企画をしているのも、オレは全部知っていた。





 兄ちゃんと比べれば比べるほど、自分が楽な方向にしか逃げていない、ちっぽけな人間なんだと気づく。




 彼と比べるられるのが嫌だから、勉強も運動も全部やめた。だって、全部負けて、自分が惨めになるのな情けないから。





 だけど、ひなこちゃんは、情けない人を選ぶわけがない。







 そうだ。変わらないといけないのは、オレの方だ。






 最初から全部諦めたら、もっともっと情けない自分になってしまう。






 彼女だって、そんなオレを見放すだろう。







 ひなこちゃんの隣にいたい。そばにいたい。







 今度、鎌倉に遊びに行ったときは、オレだけを見てほしい。






 そのためには、隣で歩いて恥ずかしくない自分でいることなんだと思う。












「……翔月。起きたのか。」




 ベランダから、彼から出てきた。左手にスマホを持っている。




「兄ちゃん。」




「あーー…あと10ページあるな…やるか、じゃあ翔月はーーー………」




 彼がテキストをペラペラと開きながら、難しい顔をしている。明日は久しぶりの学校。睡眠時間を確保したいのだろう。






 オレは、彼の手をそっと止めた。






「いや、その先はオレが全部やる。」




「おお…どうした。急に。別に俺も手伝うけど。」




「いや、大丈夫。さすがにオレも自分で頑張る。」




 そして、空気を誤魔化すように、満面な笑みを見せた。




「ほら。オレ、留年の危機っしょ?」




「………わかった。頑張れ。じゃあ、俺は寝るから、でかい声出すなよ。」




「わかってる。」





 ありがとう。兄ちゃん。




 兄ちゃんのおかげでオレ、やっぱり頑張ろうと思えた。




 ひなこちゃんに、もっと魅力的だと思ってほしいから。




 人に気に入られるためには、本人自身も努力をして、変わりたいと、もがくことなんだって。




 そんな当たり前のことに、どうして今まで気づけなかったんだろう。




 好きな子も、元カノも、たくさんいたはずなのに。




 ひなこちゃんに出会うまで、何もわかっていなかった。







 オレ―――変わりたい。







 大好きなキミに、振り向いてほしいから。



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