第 45 話 チョウチョ探し
王都に着いたらリエッタさんに会うぞ!と思いすぎて忘れていたが、まだメインストーリーが始まっていないとはいえ序章のようなイベントはある。
高尾は一介の冒険者でしかないが、異邦人という特殊な存在という設定だ。全プレイヤーが特別な存在ということである。
そのため城に呼ばれて国王に謁見し、異邦人に解決して欲しい異変の話を聞くイベントが起きるのだ。
城の中を少し見物させて貰うと、人気のNPCたちに出会って会話する展開もある。
百万人のプレイヤーの名前を覚えるなんて普通は無理だが、ゲームなので異邦人として覚えて貰える展開だ。
一応、プレイヤーが主人公で、特別な存在という設定で、ユーザーを気持ち良くさせようという気遣いは運営にもあったらしい。
始まりの街ファストで先に会っていたので少し変則的になったが、神聖騎士のクラウディアにも会った。
タルスティン王国内の人気の女性ランキング二位の暗殺者リリスも同時に登場した。
暗殺者と言っても職の名前なので、犯罪者ではない。むしろ国に仕えるお偉いさんなのだ。
身体のラインが出るエロい恰好をしているが。鎧で全て隠れているクラウディアとは正反対である
高尾は具体的な身分は知らない。
「貴様も私を下卑た目で見る気か」
「見られたくないのなら、人前に出る時くらいコートでも着ておけば良いだろう、露出魔め」
「なっ…!?」
「それもそうですわよ、リリス。痴女ランキング二位だそうよ、貴女」
痴女ではなく美女ランキングだが、クラウディアがここぞと攻撃していた。
仲が良いという話だったが、女同士の仲は高尾には分からない。
「クラウディアが三位」
「お前も痴女じゃないか!」
「んまぁ!余計な事はおっしゃらないで!」
しかし2人とも「一位は?」とは聞かない。
聞くまでもないのだろう。
「そろそろ行ってもいいか?図書館でリエッタさんに会いたいんだ。痴女よりリエッタさんが仕事をする姿を遠くから見ていたい」
「そういえば貴方、以前もリエッタの事を言っていましたわね…」
「昨日も王都に到着して真っ先に図書館に行ったからね!」
ナビゲーションAIのナビがここぞと訴える。
存在したかもしれないクラウディア ルートとリリス ルートが終わった音が聞こえた気がするが、そんなルートに興味のない高尾は「名前を覚えてもらったぞ」と自慢しておいた。
図書館を利用する客としか認識されていなくても、名前で呼んで貰えるだけで嬉しいものだ。
ただの出会いイベントで重要な話は出ないため、美女2人とは早々に別れて案内の兵士とさらに歩く。
次は女性プレイヤーに人気のイケメンとか強キャラのイケオジに会ってあいさつをした。
イケオジは軍の幹部なので、重要イベント以外では遭遇しないNPCだ。
でも存在感がすごい。
「小娘たちとは比べものにならない気迫だった…」
「反応を見ていたんですよ。異邦人の反応は、何人見ても不可解ですし」
「威圧してるのに『きゃー!格好いい!実物は思った以上に素敵!抱いて!』とか言い出す異邦人もいるからね!」
「本物の痴女がいた…」
NPCをアニメのキャラか何かだと思って、一方的にはしゃいだのかもしれない。
だが会話が可能な存在だと気付いたほうが良いと高尾は思う。
モニターに向かって言うだけなら相手に聞こえていないので好きに言えばいいが、ゲームの進行に不具合が生じそうだ。
メインストーリーが詰んだ!という話は聞かないから、問題なかったらしいけど。
ちなみに痴女…美女ランキング一位は任意で出会いイベントを起こさないと登場しないので、高尾は会わないまま終わる予定だった。
「思ったより早く連中が戻って来たな…」
「特に王都に多く来てたって言ったでしょ。まだまだ増えると思うよ〜」
ウサギのウッちゃんサッちゃんを両肩に乗せた高尾は、図書館でリエッタさんの姿を眺めて満たされた気分で本を読んで過ごしていたのだが、その聖域すら騒がしくなって来たのだ。
大通りなどをうろつくプレイヤー姿はもっと多い。
まだリエッタさんには迷惑が及んでいないようだが、存在するだけでうるさいのだ。
図書館では静かに、というマナーも守らずに大きな声でつまらない話を言い合っているから。
未発見イベントの発見者探しをしているので、どこに隠れてやがるんだとか、どこそこの誰にだけは出し抜かれる訳にはいかないとか。
そんなに必死に探すなら、イベントそのものを探せと言いたい。
高尾が「静かにしろ」と言っても逆効果だろうから、黙っているしかないし。
「チョウチョでも探しに行こうかな…リエッタさんが見たいって言ってたし…」
「ファントムバタフライだよ。チョウチョのモンスターだけど」
テイムが難しい上に、貴族が自慢の庭園の飾り感覚で欲しがる従魔らしいのだ。
高尾が良く行く従魔屋の店主も「うちでは扱ったことがありませんよ」という高級従魔だ。
王都の近くに生息しているので、高尾も試しに行ってみようと思っただけである。
ノンアクティブで逃走型で、しかも幻を見せて煙に巻くらしいのだ。テイム出来る気はしなかった。
でも試しもしないで駄目とは言いたくない。
万が一テイムに成功したらリエッタさんに見せてあげたい。
プレゼントしても貴族に狙われて迷惑をかけそうだから、クエストで納品する前にちょっと見せたいだけだ。
リエッタさんの喜ぶ姿を妄想していたら、さらにやかましい連中が図書館に現れてしまった。
中心人物ではなく、周囲がうるさいのだ。
「天然キラキラ男…貴様もか…」
「ドラゴンの進化が出来たら、かなり変わるからねぇ」
クラン『円卓騎士団』のアーサーと仲間たちだった。アーサーは「図書館では静かに」と注意しているが、さして効果はなかった。
リエッタさんが迷惑そうに見ているので、高尾はちょっと安心して席を立った。
もちろん、天然キラキラ男たちはスルーしてチョウチョ探しに行くのだ。
リエッタさんがクラウディアみたいにアーサーに惚れていたら、このタイミングで図書館を出ることは出来なかっただろう。
高尾は二時間かけて、ようやくファントムバタフライを一匹だけ説得することに成功した。
二度とやりたくないが、リエッタさんも一度見たら満足するだろう。
キュアバードをテイムした時の要領で眠らせて鳥籠に入れようとしたのだが、眠らせる段階から難しかったのだ。
近づく前から幻で、別の場所に本体が隠れていたのである。
幻に向かって眠りのお香を焚いていたと気づくのに一時間かかり、判明したあとも本体の場所を当てるのに一時間はかかった。
でも鳥籠に入れてしまえば、あっさりと従魔化した。諦めの良い子だった。
ちなみに虫籠ではなくキュアバードと同じ鳥籠を再利用できたのは、ファントムバタフライが大きいサイズだったからだ。キュアバードと同じくらいの大きさなのである。
疲れたが、意気揚々と図書館に戻って来た。
まだ天然きらきら男たちやプレイヤーは大勢居座っているが、リエッタさんの手は空いているようなので問題ない。
「リエッタさん、従魔協会に納品する前に見てもらおうと思って寄ったんだ」
「あら、何かテイムして来たんですか?」
高尾はうるさい連中をちらりと確認してから、手もとにファントムバタフライを召喚する。リエッタと他の司書や職員たちが驚いて見ていた。
貴族の所に売られて行くし、生息地に行かない一般人にはほとんど見る機会がない従魔だという話だ。
だが貴族たちがこぞって欲しがるだけあって、きらきらのエフェクトが綺麗な蝶だった。
リエッタ以外の者も「初めて見ました」と珍しがっていたものだ。
そこで終わればリエッタさんに「ありがとう」と笑顔で言ってもらえたはずなのに、目ざといプレイヤーが「ファントムバタフライ!」と騒いで「売って売って売って!」と喚き出した。
うるさい連中も気づいて「売れ!」「寄越せ!」「どこで手に入れた!」と喚き出す。
生息地でテイムするか店で買う以外に何があると思って喚くのか、理解不能である。
天然キラキラ男がいたから止めに入ったが、それだけでは収まらない騒ぎになってしまった。
「譲ってもらえないかな」
「納品すると非売品のレプリカが貰えるんだ。あと従魔協会のポイントが貯まる。金で買えない報酬だから断る」
「インテリアだけど国宝の剣のレプリカだからねぇ〜。他じゃ手に入らないよ」
リエッタさんも「見たい」という顔なので、なおさら譲れなくなった。手に入れたら見せに来なくては!
アーサーはそういうレア物の話を他にも知っているようで、それは替えが利かないと納得していた。
コレクション用のアイテムなので、入手難易度が高い物が多いらしいのだ。
ファントムバタフライのテイムの難しさが良く分かる。
「そうだ。納品前に強奪しようと襲われる予感がするから、協会まで付き合って欲しい。かわりに良い事を教えよう」
「システム的に強奪は不可能だけど、良い事って?」
「クラウディアがアーサーに会いたいような雰囲気だった。従魔の進化の話を聞くという大義名分を掲げて会ってみると良い」
今日はそんな話は出ていなかったが、天然キラキラ男のほうから会いに行けば喜ぶだろう。
リエッタさんの近くではなくクラウディアの所に追いやりたいだけだが、アーサーの仲間たちのほうは悟って「会いに行けば?」と勧めていたものだ。
そんな訳で最強の護衛をゲットして、高尾は無事にファントムバタフライの納品クエストをクリアした。
報酬の国宝の剣はアーサーも「うわぁ、格好いい…!」と目を輝かせる格好良さだったものだ。
リエッタさんの反応が楽しみだった。




