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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 44 話 王都セブンシー

 レベル上げを頑張った高尾(たかお)たちは、ようやくフィフスンの街と王都セブンシーの間にある森の攻略を始めていた。


 始まりの街ファストの近くに生息するオオカミより種族値がひとつ高いオオカミのモンスターが五体前後で群れて出現するだけでも大変なのに、小型で飛行タイプの鳥モンスターも出て来る。


 昼間はカラスで夜はフクロウだ。

 カラスは魔法を使わない分、フクロウよりは易しい。そんな難易度である。


「早く仲間にしたいと思い続けていたのに…フクロウがツラい…」

「ぴゅい…」


 ヴァンパイア・プリンセスの沙姫(さき)が強いので高尾にはちょっと背のびをした難易度なのである。つまりキツい。

 エンジェリック・ラビットのエルも高尾よりステータスが高いが、それでもキツいようだ。


 でも早く王都に行きたいのである。


「先に王都に行こう。フクロウはその後にしよう。無理だ」

「今の戦力だとテイムは難しいだろうねぇ」


 戦力外のナビゲーションAIのナビがしたり顔で頷いている。だがテイムする余裕が出来るまでは諦めたほうが良いだろう。


「ここの森は昼間だけにして、今夜は帰るか」


 他のフィールドでレベル上げをしても良いが、自宅でのんびりしたい。

 ちょっと疲れたので休みたくなっている高尾だった。






 レベル上げをするためにサボり気味だった採取作業をのんびりやってから、その日はログアウトした。


 特にはちみつは意識して集めないと手に入らないのだ。従魔たちが毎日期待して来るから欠かせないのに。


 大学に入学したら、きっと平日はのんびりはちみつ採取しかしない人になる。そんな気がする。


 可愛い従魔たちのためなので本望ではあった。


 そんなちょっと先の未来の話はともかくとして、オオカミとカラスを相手に戦い続けた高尾たちは翌々日に王都セブンシーに到達した。

 主に沙姫のおかげである。

 高尾も開き直って来たが、でも自分で戦って勝って、いわゆる『勝利の美酒』を味わいたいのだ。


 頑張った!と自分を褒めたいので、チートはいらないのだ。誰かと競うバトルではないのだし。


「ここが王都か。セカンより見るからに広いな」

「2倍とは言わないけど、セカンの1.5倍以上の広さがあるよ。お城もあるし、貴族たちのお屋敷街もあるし」

「城も大きいな」


 王都はタルスティン王国の最南端に位置しているため、フィフスンから来ると北門から入ることになる。

 国内の人の流れは北門に繋がっているから、こちら側はかなり賑やかだ。


 だが隣国のアルハンス王国に向かう南門も大きくて立派だそうだ。

 城は南が正面なので、南門から見たほうが見栄えもするらしい。


 高尾は王都の南側も気になるが、まずは北門から大通りを見て歩いて転移ゲートのある教会に向かった。

 登録を終えたらギルドに行く。


「そして図書館でリエッタさんにご挨拶だ!」

「初対面なのに馴れ馴れしいわ、誰なのこの異邦人…!?と怪しまれないようにね。良くある失敗談だよ」

「…ハジメマシテ、だろう」


 推しキャラに逢えるのでテンションが上がっていた高尾も神妙に答えた。そういう失敗はノーサンキューだ。

 言い訳をするにしても、余計な事を言いそうだし。


 でもリエッタさんとどんな話をしようかな、と浮かれ気味なのは変わらなかった。






 王立図書館にやって来た高尾は入口の受付で確認して、従魔のウサギのウッちゃんサッちゃんを召喚した。

 他の利用者に迷惑をかけなければ従魔を連れていても良いそうだ。


 受付の職員も高尾の両肩に載せたウッちゃんサッちゃんに相好を崩していたので、これがアウトのはずがない。


 ウサギを見て周囲の迷惑も考えずに「きゃー!」と叫びながら突進する者もいないだろう。ウサギたちは一羽1,000Gで売っている、とても買いやすい従魔(ペット)だし。


 エンジェリック・ラビットだったら大騒ぎだが。


 両肩にウサギを載せた変な男に見える事には気づかずに、高尾は目当てのNPCを探した。

 探しながら本棚を眺め、ここで覚えられるレシピがあった事を思い出す。


 ついつい脱線して本を抜き出して読んでしまった。ウッちゃんサッちゃんたちも大人しく本を眺めている。

 挿し絵が美味しそうだったから。


「俺のレベルだとまだ作れないな」


 作れなくてもシステム上のレシピのリストに追加されるのだ。調理のレベルが上がったら作れるだろう。リアルの料理と違うので。


 何を見てもウッちゃんサッちゃんは「はちみつを掛けたら美味しさが増すよ!」という反応に思えるが、従魔たちの味覚は人間と違うので仕方がないのだ。

 そして可愛いからはちみつを掛けてあげたくなるのだ。


 どんな味になるのか、高尾は知らない。


 いくつかレシピを覚えて次はどれにしようかと本棚を眺めた高尾だが、視界の隅に推しが映ったので最初の目的を思い出した。

 リエッタさんに逢いに来たのである。


 本を取り出すのは止めて、意識してのんびりとリエッタさんに近づく。早足で接近して早口で「ハジメマシテ!」と言ったらドン引き確定だ。それはマズい。


 ウッちゃんサッちゃんに「どうしたの〜?」と聞かれている気配がするが、今は返事が出来ないのだ。すまない。


「こんにちは。はじめまして」

「あ、はい。こんにちは。何かお探しですか?」


 貴女を探してました!なんて言わずに、高尾も話を合わせた。

 レシピ以外にも図書館で調べられるものの話は聞いていた。


「スキルについて書かれた本があると聞いて来たんだ。カーディナー王国の有名な騎士団長エイゼンが持つ《竜の因子》のような、特殊スキルについての本」

「それなら研究書のほうですね」


 リエッタさんは控えめに微笑んで「こちらです」と案内してくれた。動画で見るより可愛い。

 一見地味な茶色の髪に琥珀(アンバー)の瞳の、優しい面差しの女性である。存在するだけで癒やされる(高尾個人の感想です)。


「リエッタさんと呼んでもいいか?」

「何故わたしの名前を…!?」

「実は異邦人の間では、可愛い人がいたと一部で噂になっていて」

「えぇ…!?」


 知らないフリを続けてもボロが出る予感がしたので、高尾は正直に話した。

 リエッタさんは「わたしなんかが注目される訳ないわ」と真っ赤になって否定していたが、高尾が事前に知っていたのは確かである。


 こういうタイプが好みという男たちが紹介するくらいには可愛い人なのだ。


「一番人気はカーミラだけどね〜」

「余計なことを言うな」

「カーミラさん…納得しかありませんね」


 カーミラを知る者は全員が納得するかもしれないが、高尾はあんな魔女は会いたくもない。


「あんな人喰い魔女、危険しか感じない…」

「こういう好みの男なんだよ〜」

「なるほど…!」

「なんで納得されたのか、納得がいかない…!」


 納得がいかないが、リエッタさんが「ふふっ」と楽しそうに笑っていたので、まぁ良いかと引き下がった高尾だった。


 その後、目的の本棚まで案内したらリエッタさんは仕事に戻って行ったが、高尾は機嫌良く本を読んで過ごした。

 うるさいプレイヤーのいない図書館は、かなり居心地の良い場所だったものだ。






□セカンはファストの倍の広さ⇨王都はセカンの1.5倍の広さ⇨つまり王都はファストの何倍でしょうか(指折り数えて「5倍…?」とか言ってる作者には聞いてはいけない…)

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