第 43 話 レベル上げ強化期間
フォースンの英雄イベントは、レイド戦を開催して終了した。
適正レベルは最前線のプレイヤーたちより少し低かったらしいが、最初の国にこんな難易度のレイドが隠されていたなんてと話題になっていたそうだ。
多くのプレイヤーが参加して、満足して去って行った。
レイド戦に至る一連のイベントは誰にでも体験可能だが、レイド戦は基本的に一回しか行われないのだ。再開催されるレイド戦もあるが、イベントとは関係のない、定期開催型である。
つまり美味しいレイド戦のない会話イベントだけ、という話なのでやらないプレイヤーが多いのだ。
報酬はレイド戦で貰えたし。
「…『死者を映す鏡』の件は忘れたのだろうか」
「今回のイベントでしか使わないアイテムだと思ったんだと思うよ」
高尾は静かになってくれたので構わないのだが、他でも使いそうなアイテムなのにな、とは思った。
キーアイテムがないから未発見のままになっているイベントがたくさんある気がする。
何故なら、自分で探しもしないで発見者探しをする連中ばっかりだからだ。
実際にナビゲーションAIのナビが「未発見イベントならたくさん残ってるよ!」とヒントを言っている。
具体的なイベントの数は教えないが、そのくらいはヒントとして教えられるようだ。
「イベントの情報はどのくらい公開されたんだ?」
「廃城の隠し通路が発見されて、そこで『死者を映す鏡』が手に入るという情報は公開されたね。でも隠し通路の開け方までは教えないよ。街でキーアイテムが手に入るよ、くらいで」
プレイヤーの誰かが発見すると、他のプレイヤーたちにも情報が公開される。
プレイヤーの間で周知された情報ならナビゲーションAIが教えてくれるようになる。
だが自分で発見する喜びを全て奪わないように、状況に合わせて公開される情報が制限されるそうだ。
きっと高尾が掲示板で答えを書き込めばすぐに広まるのだろうが、そんな事をする予定はない。発見者探しをするほどのイベントではないと判断したらしいから、なおさら教えなくて良さそうである。
「じゃあレイド戦の後で領主から追加報酬が貰えた話も非公開か」
「モッチロン!」
「イベントを進めれば、後からでも貰えるよな?」
「そうだね。気づく人、どのくらいいるかな〜?」
高尾も一応レイド戦に参加したが、難易度が高すぎて後ろから攻撃アイテムを投げたくらいだ。初心者の参加するようなバトルではなかった。
今の段階で手に入れて良い性能じゃない防具がレイド戦の報酬だったし。沙姫に装備させておいたので、益々無双している。
追加報酬はフォースンの領主の裏書きで、ギルドカードをタルスティン王国内で使う時に住民NPCたちの対応が変わる効果がある。
フォースンの領主様が信用なさる冒険者さんなのか…!と尊敬されるようになる効果だ。
他にもこういう報酬があって、様々な国で信用を集めて行くもののようだ。
一定数集めないと発生しないイベントがあるに違いない。
「国外追放されてた連中、情報の出てるイベントで集めてたんじゃないのか、そういえば」
「それが役に立たなくなるくらい悪評が高まったというか?裏で取り消されたというか?」
「取り消される危険もあるのか…」
好き放題に出来るゲームではあるが、デメリットが生じないとは言っていないのだ。
NPCたちに嫌われる事ばかりしていると、システム的な制裁を受けるのかもしれない。
他のプレイヤーに迷惑をかけても取り締まる法がないからと放置されているので、なんだか理不尽さも感じるけど。
「あと、従魔の進化の話は忘れたのか?発見者探ししてる連中も消えたけど」
「鳥頭!だなんてボクは言ってないよ」
「なるほど…」
最前線で新イベントが発見されたり、レイド戦が起きたりで、その前の話は忘れたようである。
そのまま忘れていてくれたほうが、高尾には都合が良かった。
自宅で従魔たちを可愛がってから、高尾はフィフスンの街に転移ゲートで移動した。
目障りなプレイヤーたちが消えたので、適正レベルのフィールドでレベル上げの予定である。
ギルドでクエストの確認をして、従魔協会でもクエストを見た。レイド戦の報酬でお金も貰えたので今は小金持ちだが、金策はマメにやっておきたい。
従魔の納品クエストにはたまに非売品のアイテムが報酬になっているから、なるべくチェックしておきたいものだ。
「…マリオネットはやらないけどな」
「ギルドの考古学者のクエストとは別だけど、クリア率が低いからね、あれ」
「低いという事はゼロではないのか?」
「ゼロだよ」
百万人のプレイヤーがいても、マリオネットをテイム出来る人材はいないのかもしれない。
作った人はこの現実をしっかりと受け止めて改善して欲しい。
ダンジョンの攻略に行く気すら失せるので。
「隣の国には種族値2のストーンマリオネットがいるんだよ」
「そっちはテイムしたプレイヤーがいるのか?」
「ううん、ゼロだよ」
「コレクター気質のプレイヤーとか、変わり者とか、世界にはたくさんいるはずなのにゼロか…」
高尾も苦手を通り越して気持ち悪いとしか思わなかったが、本当に作った人間は何を考えてあんなクリーチャーを生み出したのか。
ナビとそんな話をしながらフィールドに向かった。普通の森フィールドなので、怪奇人形っぽいモンスターは出ない。
アレに比べたら、モンスターさえ可愛く思えたものである。
二日ほど集中してレベル上げをしていた。
また邪魔をされてレベル上げが出来なくなるのでは、という危機感があったせいだろう。
「考えたくなかったんだが…そろそろ大学の入学式なんだ…」
「おめでとう!なんで残念なお知らせみたいに言ってるの?」
「一日にログイン出来る時間が1、2時間に減るからだ」
「あ、なるほどね。普通の人になるんだね」
今は廃人ペースで遊んでいるが、それもお終いなのだ。高尾は現実世界で生きて行かなくてはならない。
「せめてこの国はクリアして隣の国に進めたい。あとメインストーリーも始めたい」
「新イベントで新要素発見してそれに夢中だった人たちも、その頃には思い出すかもしれないもんね。従魔の進化の話」
「あぁ、新要素があったのか」
それで静かだったのか、と納得する。
高尾は詳細は知りたくないが、実装されている範囲でカンストさせてトップ面したい廃人たちがいるのは想像がついた。
そしてトップ層が集中しているのを見て真似している層もいるはずだ。流行りもの扱いで。
やはり集中してレベル上げして正解だった。
「よし、沙姫に頼ってでも隣の国に進むぞ!」
連中はタルスティン王国内で発見者探しをしているのだ。隣の国に行けば静かだろう。
プレイ時間が減るのに邪魔されるのはゴメンである。
残り少ない春休みをかけて、頑張って進めるぞ!と気合いを入れたのだった。




