第 42 話 フォースンの英雄
高尾がフォースンの街のギルドで受付嬢に『死者を映す鏡』を出して尋ねると、勝手にイベントが進行した。
誰に聞いたら良いだろう、と言うまでもなく街の領主に会いに行けという展開になったからだ。
ギルドから紹介状を貰って、都合の良い時に行けば良いようだ。プレイ時間があるので、強制連行などはされなかったのだろう。
されそうな雰囲気だったけど。
廃城の攻略にそれなりの時間がかかっていたので、高尾はログアウト休憩してから出直した。
「…もうプレイヤーが戻ってる…」
一度始まりの街にある自宅に戻っていたので、転移ゲートでフォースンの街に来たらプレイヤーたちがウヨウヨしていた。
「いや、ファストにはいなかったな…?」
「仕方がないよ。『死者を映す鏡』も未発見だったからね」
「…気づけば簡単だろう!?」
「そもそも街で本を買ってなかったからね!」
鍵になる本を所持していなかったら、それは詰む。高尾もそこは納得した。
ナビゲーションAIのナビは楽しそうに笑っているが、高尾は教会から領主の館のほうを眺めた。
「出待ちしてないか?」
「してるしてる!」
正面から行くのはアホのやる事だ。
そう理解した。
高尾はしばらく考えて、教会の中に入った。
地位の高いNPCに相談してみようと思ったのである。
教会内にプレイヤーの姿がないことを確認して、神官に声をかける。用心して小声で訴えると、神官も周囲をはばかるように応じた。
「異邦人の方々がたくさんいらしていたのは、そういう事だったのですね」
「ギルドで話していたのを誰かが聞いていたんだと思う。迂闊だった…」
「いえ、発見した物がどのような物か不明だったのですから仕方がないでしょう」
未発見アイテムだったと知っていたら高尾も気をつけた。
ナビはアテにしていないので、文句は言わない。
それに領主に会う必要があるイベントだとも思っていなかったのだ。『英雄』という存在を軽く考えすぎていたのだろう。
「こちらの部屋でしばらくお待ち下さい。上の者に相談して、領主様と面会できるよう手配いたします」
「よろしくお願いします」
他のプレイヤーに邪魔されるだろうし、横取りしようとする者もいるだろう。このゲームのプレイヤーたちの非常識さは信用に値しないのだ。
治安が悪すぎる。
高尾が教会の一室で可愛い従魔たちと戯れて、30分くらい待っただろうか。
領主がお供を連れて自らやって来た。
領主の館の周囲は異邦人だらけだったので、隠し通路を使って来たようである。
そういう設定を聞くのは楽しいが、他人の迷惑を考えない連中にザマァ!と言いたい気分でもある。
高尾はさっそく死者を映す鏡を出して領主たちに見せた。ギルドで貰った紹介状もおまけで付けておいた。
領主とお供たち、そして案内して来たまま同席していた神官も鏡を鑑定して「確かに、これは」「これならば、あるいは…!」と興奮していた。
高尾は『会ってみたい歴史上の偉人』を思い浮かべて、有名な織田信長とか姿だけでも本物を見られたらそれは興奮するだろうなと解釈しておいた。
ここの英雄にはあんまり思い入れがなかったので。
それからセカンの墓地で試したい、夜になったら現地で合流しようという話になった。
ゴーストは基本的に夜しか現れないからだ。
廃城は昼夜の別なく現れるけど。
領主はまた隠し通路を使って帰ったようだ。
高尾も教会を出る。
「夜まで時間が空いたな。フィフスンのフィールドでレベル上げするか」
「今ならプレイヤーが少ないだろうね〜。ゴブリン集落の攻略もおすすめ!」
「…沙姫の独壇場だな」
高尾は忘れていたが、沙姫が期待に満ちた顔を向けて来ていたことを思い出す。時間を確認して、沙姫ならやれそうだなと思った。
夜はイベントがあるので、途中でログアウト休憩も取らなくては。
フォースンの英雄イベントはこれで終わりだろうと予測しながら、転移ゲートでフィフスンに向かったのだった。
少し早めに、夕暮れ時の墓地にやって来た。
エルはお留守番だが、相手はNPCなので沙姫とメロディは連れて来ている。
ちなみにゴブリン集落は沙姫が壊滅させて来た。とても楽しそうだったものだ。
「入口で待てば良いよな。英雄がいるの奥だけど」
「領主だろうと墓地の中は馬車で走らせないから、それで良いんじゃないかな」
墓地の中には馬車で走れるほど広い道はない。
夜になるとアンデッド系のモンスターが出るが、昼間は墓参りに来るNPCもいる場所だ。
死者の眠りを妨げないようにという配慮だと、墓守が言っていた。
そんな話をして待っていると、日が落ちてほどなく静かに馬車がやって来た。
プレイヤーたちが嗅ぎつけて追って来ている気配はなかった。
馬車を降りた領主と護衛たちとともに、英雄の墓へと向かう。
「疑うつもりはないのだが、英雄とお会いしたと言っていたね。会話もしたと」
「異邦人には見えると言っていたから、俺以外にも多くの異邦人が会っていると思う」
「そうか。そうだろうね…」
歩きながら領主がそわそわしていた。
護衛の騎士たちもそわそわしていたが、アンデッドが出れば瞬殺していた。強い。
沙姫も騎士たちを「強い!」と尊敬の眼差しで見ていたようだが、もちろん高尾もあんなふうに戦いたいと思いながら見ていた。
構えも剣を振る姿も格好いいのだ。
そんな調子で危険などなく奥まで進み、英雄を祀る墓に到着した。他より立派なので一目で分かる。
英雄のゴーストは自分の墓に座ってうなだれていたが、領主たちに気付いて顔を上げた。
「では、『死者を映す鏡』を出します」
領主たちは「早く早く」とそわそわしていたが、英雄のほうは「ちょっと待て!?」と驚いて、立ち上がってワタワタしている。
「どうしたのだね?」
「…いや、英雄様の準備が整うのを待っているだけなので」
何の『準備』なのか正しく伝わったか不明だが、領主たちは「それはお待ちしよう」とワクワクそわそわと待っている。
英雄は「期待が重い…!」と言いながら身だしなみチェックをしたり、立ち位置の確認をしている。
声が聴こえていたら、いろいろ台無しだっただろう。だが領主たちが鏡越しに見たのは、格好つけている英雄の姿だった。
「その鎧は、確かにフォースンの英雄のもの…!」
「肖像画そっくりです…!」
「なんと凛々しく威厳あるお姿だろう…!」
感動しきりの領主たちと、冷や汗ものの英雄…高尾はビミョーな気分で眺めていた。
どうせなら感動のイベントにして欲しかった。
ナビはニマニマ笑って愉しそうだが。
「貴方様がこちらにいらっしゃるという事は、貴方様の魂はかの悪魔に取り込まれていなかったのですね…!」
「悪魔…?あぁ、そんなふうに思われていたのか。肉体を奪われて利用された愚か者は、こうしてなす術もなく彷徨っている」
英雄の言葉は高尾が通訳したが、高尾には分からない設定である。隠されたエピソードがあったのは伝わって来るのだが。
聞きたい気持ちを抑えて通訳だけして、領主たちと英雄の橋渡しをした。
領主たちは英雄の魂を消滅させてしまいたくなくて、悪魔を封じ続けているらしい。
英雄のほうは滅する力のある者が現れないままなのかと思っていたようだ。
良く分からないが、なんか強い悪魔が封印されているのは分かった。
「倒せる者がいれば、倒してしまって良いものなのか?」
「是非とも倒して欲しい」
「無駄に集まってる異邦人たちにやらせれば、きっと満足して帰ると思う」
「なるほど!他国から伝え聞く異邦人たちの成長度ならば、英雄様のお身体を乗っ取った悪魔でも倒せるかもしれないね」
どうやら悪魔は英雄レベルの強さらしい。
それはきっと、ものすごく強い。
高尾には倒せそうにない。
「…どういう想定のイベントなんだ?」
「初期に発見していれば、強くなって戻って来て倒してネ!ってなったけど、今だとプレイヤーたちに倒せるからそのまま進行するね」
英雄と呼ばれた者より強くなった!と自尊心をくすぐるイベントだったのかもしれない。
そしてNPCたちから「すごい!」「すごい!」と褒め殺しにされる想定だったのかもしれない。
高尾のせいではないはずだが、脳筋のアホどもを利用してやろ、という話になっているけど。
街に押しかけて性根の腐り具合を自己主張していたのがいけないのだ。そういう事にしておこう。
他人の見つけたイベントを横取りしようとしていた連中には似合いの結末である。
たぶん知らないまま終わるだろうし。




