第 40 話 調合調合!
フィフスンの街と王都セブンシーの間にある森フィールドにフクロウが生息している。
高尾もその情報は得ていたが、ギルドで調べてみたところ、まだレベルが足りないようだった。
森を抜けてボスを倒せば王都に進めるのだから、当然の話ではある。フィフスンだって沙姫の力で強引に来たばかりだ。
「でも見える場所にいるのかと思うと、早く手に入れたくなるものだよな」
「ふふふ、指を咥えて見ているしかない人間を眺める愉悦!堪らないねぇ〜!」
「運営に苦情を入れて良いレベルの言い草だよな、お前」
ナビゲーションAIのナビのセリフに、高尾もカッチーンと来た。
有言実行でメールを書こうとしたら、ナビも「お茶目なジョークだよ!」と慌てていたので、アウトに違いない。
フィフスンの街の近くの草原で薬草採取をしながら言い合っていたが、人目についても安全ということで今はウサギのウッちゃんとサッちゃんしか召喚していない。
今は二匹とも、薬草を食べたりじゃれ合って遊んだりしている。可愛い。
街の近くの薬草が採取できるフィールドは、どこの街でもノンアクティブのモンスターしかいないので安全だ。生産メインのプレイヤーに配慮した設定なのだろう。
薬草以外にもフィールド毎に違う素材が手に入るが、さほど高価な物はない。
おかげでのんびり過ごせる場所になっていた。
現在は長年未発見だったイベントの発見者探しでプレイヤーが押し寄せているが、それでも静かな場所なのだ。
こんな所で採取している奴に発見できる訳がないという見下した雰囲気で通り過ぎて行くのである。
自分たちだって見つけられなかったくせに。
「向こうのダンジョンだとレベル上げに時間がかかりそうだし、廃城に行きたいのに邪魔な連中がウロウロしてるし…」
「少しは減ったんだよ。時間の無駄だから、発見者を発見した連中から聞き出そうと考え直した層もいたから」
「発見者を発見した連中は情報を独占しそうに見える」
「それな」
従魔の進化に関するネタなのだ。
場合によっては戦力に差が生じるので、発見者を取り込んで独占したいと考えているだろう。
出し抜いて強者ヅラしたい連中は多い。
コロシアムやクラン対抗戦もあるので、秘匿情報を抱えている連中も多いようなのだ。
公式が情報公開しない限りは独占できるが、発見者が出たら公開することが多い。秘匿する連中に対する運営の答えということだろう。
今回はまだ公開されていないので、独占できると思っている気がするのだ。
「公開されて連中に消えて欲しい気持ちと、着ぐるみ集団にだけは教えたくない気持ち…」
「公開するにも条件があるからねぇ。高尾、イベントの発生条件は分かったの?」
「分かる訳ないだろ」
探してもいないし、考えようとも思わない。
知らないところでフラグを立てただけなので、なんでイベントが発見できたのかさっぱり分からないままだ。
教えたくないからわざと無視しているので、分かる日が来るとも思っていなかった。
始まりの街ファストの近くで採取できる薬草以外は、回復ポーションの素材として使っている。
従魔たちのおやつには向かないからだ。
逆にファストの薬草は回復ポーションには使えないが。
高尾は調理師になって料理のスキルを上げているが、生産系のジョブを鍛えるつもりなら調薬師なども上げて行きたい。
そのために素材を採取しに来たのである。
今までに集めた素材がけっこう貯まっていたので、オリジナル レシピのつもりでいろいろ試してみた。
「酷い物が出来た!」
「失敗作だよ」
「だから酷い物って言ってるだろ」
見本のレシピにない組み合わせで混ぜるとたいてい失敗作になるのだが、たまに未発見のアイテムが出来る事もあるらしい。
もちろんちょっと試したくらいで見つかる物ではないので、高尾は全て失敗していた。
でも理科の実験みたいで面白いのである。
子供が好奇心のまま「このジュースに塩を入れたらどんな味になるのかな」とやって「不味い!」と言いつつ笑い転げるような、そんなノリの実験だ。
高尾の中の少年が悪ノリ中だった。
簡単な調合ならフィールドでも出来るので、薬草を採取した草原で実験中だ。
ウッちゃんサッちゃんは気にせずお昼寝モードである。可愛い。
「失敗作も使った素材に合わせて見た目が変わるの、芸が細かいな」
「みんな謎の黒い物体にしておけば良かったのに、凝り性な人がね…」
「無限に試したくなるな!」
調合は素材二つ以上で出来るため、組み合わせは多数ある。素材三つ、素材四つと増やしていくだけでも大変なのに、薬草なら1.5個分みたいな入れ方も出来る。
もちろん最適解の分量を当てた時だけ完成するアイテムもあるため、総当たりで探る数も膨大になる。
高尾はまだ序盤の国にいるから素材の種類が限られているが、最前線まで行っているプレイヤーは膨大な素材の組み合わせに「全て発見できているか怪しい」と、まだ新発見を探し続けているようだ。
ナビが「とある素材を0.3と0.2の割合で入れた時だけ完成するアイテムもあったりするね」とニマニマと悪い顔で笑っていたので、きっと未発見アイテムが残っているのだろう。
高尾がしている実験は、きっと調べれば結果が分かる範囲のものなのだが、自分で試してみたいからやっているだけだ。
未発見アイテムを探したいのではなく、遊んでいるだけなので。
「ぐあっ!酷い臭い!」
「悪臭を放つ失敗作だ!」
もちろんお昼寝していたウッちゃんサッちゃんに怒られた。
ノンアクティブのモンスターたちは怒らなかったので、失敗作をアイテムポーチにしまって生活魔法で消臭した高尾は「こういう所はゲームだな」と思った。
すでに他のプレイヤーが発見しているアイテムは、発見者の名前でギルドに登録されている。
生産職のプレイヤーたちは、発見者登録をしてドヤりたい層が我先にと研究しているらしい。
そういうレシピはギルドで有料で買えるが、買わなくても自分で発見すれば自分のレシピのリストに登録される。
掲示板などで情報が拡散されている有用なレシピなら、わざわざ買う者はいないそうだ。
発見者登録した者にレシピの売り上げが還元されるシステムでもなかった。あくまで名前が登録されるだけだ。
高尾もいくつか売れるアイテムが完成したが、もちろん発見済みのレシピなので使わないアイテムはギルドの買い取り窓口に売ってしまった。
花の香りの香水なんて、ただのおしゃれアイテムなのだ。女性プレイヤーなら自分で使うのかもしれないが。
「失敗作の処分方法が知りたい…」
「各施設に設置しているゴミ箱に入れて下さい」
「ゴミ箱なんてあったのか?」
「はい。ギルド内にもありますよ」
特に悪臭を放つ失敗作は捨てたかったので、高尾はギルドの受付嬢に教わってゴミ箱に放り込んだ。
システム的に入れるので、ゴミ箱から悪臭が立ち昇るという事もなく消滅したようである。
間違って不要なアイテム以外を消してしまわないように再確認されるので、ちょっと鬱陶しいが仕方がない。
「噂のクリーパーはあんな臭いなのか?」
「ドブ臭いよ」
臭いの種類は違うようだが、酷さは互角だった。そんな気がする。
高尾は益々クリーパーの生息する場所には行く気が失せたものだ。
「…しかし、ギルド内にもまだいるんだな」
「ヒマだよね〜」
発見者探しをしている連中のことである。
高尾にとっては存在が邪魔なので、早く消えて欲しかった。
ゴミ箱に放り込めたら楽なのに。




