第 39 話 ふたつ目のダンジョン
フィールドにもプレイヤーたちがうろついているので、高尾は愛馬ハクでダンジョンの入口まで駆けて来た。
訓練場以外で走らせるのは初めてだったが、思ったよりずっと爽快感があった。
「これは意味もなく駆け回りたくなる…」
「せめてレースに出たいとか言おうよ」
「そんな決められたコースじゃなくて、自由に駆け回りたいんだ」
ナビゲーションAIのナビと言い合いながら、ハクを送還してダンジョンに入る。
騎獣も召喚・送還が可能なのだが、従魔士が覚えるスキルとは別扱いだった。
馬の入手クエストで貰えるので、訓練クエストはやらないプレイヤーたちも文句を言わなかったに違いない。
それはともかく、やって来たのはフィフスンの街の東にある荒野のダンジョンだ。
さらに東に行くと商業都市セカンから王都の近くまで伸びる山脈があるが、麓周辺に広がる荒野である。
ここに古代遺跡があってダンジョン化したという設定だ。
ダンジョン化について尋ねると必ず「魔術協会でお聞き下さい」「専門的な説明が長々と…いえ、時間のある時に尋ねると良いかと」とギルドの受付嬢に言われる。
余程長くてつまらない説明なのだろう。
もちろん高尾は聞きに行く気にならなかった。
「見た目も古代遺跡らしく苔むしてるな」
「乾いた荒野なのにね。雰囲気優先だよね」
「…雰囲気は大事だな」
別に地下にあるからジメジメして苔が生えているという訳ではない。
崩れた壁や天井から光が射し込んで、幻想的な空気もある。
外は乾いた荒野だったけど。
崩れた壁の向こうは存在しないはずだが、覗いてみたら鬱蒼とした森があった。
「…ここはどこなんだ?なんで森?入口が転移ゲートだったとか?」
「いつか解ける日が来るかもしれないね、その疑問が」
「雰囲気だけで作ったのか?」
「ノーコメント」
雰囲気は大事だが、設定も大事だと思う。
後づけで良いからそれっぽい理由を考えておいて欲しいものである。
などと愚痴をこぼしながら、従魔たちを召喚した。
メインアタッカーのヴァンパイア・プリンセスの沙姫と、遊撃手のエンジェリック・ラビットのエル、そして回復担当のヒーリングバードのメロディだ。
エルは沙姫の肩に乗っているが、メロディは高尾の肩に止まる。沙姫とエルはガンガン前に出て行くので、自然とそんな配置になっていた。
高尾もアタッカー向きの騎士なのだが、タンクを担っている状態だ。
タンク役の従魔が欲しい所だ。
「さて行くぞ。ここに出るマリオネットっていうモンスターは見た目と動きが気持ち悪いらしいけど、ただの動く木の人形だ。怖くない!ハズ」
「ぴゅい…!?」
「怖いんじゃないよ。気持ち悪いって評判なだけ!」
アンデッド系が苦手なエルが怯えているが、高尾もまだ見ていないのでどんな気持ち悪さなのか知らない。
ギルドで聞き込みをしたら、益々テイムする気が失せたものだ。
考古学者が研究用に一体欲しいという納品クエストを出していたが、他のプレイヤーたちもスルーし続けているクエストだと言う。
イベントに繋がっていそうなのに。
「…気持ち悪〜い、とか言ってるから未発見イベントがあちこちに残ってるんじゃないのか?」
「それもあるかもね。王妃に銀月鳥を納品するとイベントが発生するよ!ってヒントを出しても誰もやらないし」
銀月鳥はメロディをテイムするために通っていた森に稀に出現する激レアモンスターだ。
高尾は一度も見かけることなく数日が過ぎたものだ。
たとえ手に入れても、もったいなくてクエストで手放したくないだろう。
しかも報酬が安すぎた。
「…王妃のイベントは仕方がないと思えるけど、こっちは怠慢だろう。俺もやらないけど」
「結局やらないんじゃん!」
「プレイ人口百万人以上いて五年も続いてるのに、放置してる連中ばっかりなんだろう!」
誰か1人くらいはやるものじゃないのか。
そんなにマリオネットは気持ち悪いのか。
未発見イベントを発見したプレイヤーから情報を巻き上げようと押しかけて来ている連中はゴロゴロしてるのに、あからさまに怪しいクエストを放置している神経が理解できない。
「従魔の納品クエストとか、従魔の進化に関係してそうだろ。考古学者だろうと研究者が依頼主だし」
「普通はそう思うよね」
「まぁ…結局目当てのイベントは別だったけど」
発見者である高尾もイベントの発生条件は知らないままだ。
従魔は何体かテイムしたが、他のプレイヤーだってテイムしているモンスターである。
ちょっとレアでもテイムしたプレイヤーがいるタイニーモンキーと、発見当時は大人気だった悪魔しかテイムしていない。
高尾以外にイベントが発生しなかった理由が分からない。
街での行動がトリガーになった気もするが、他の連中に情報が開示されるだけなので追求しない事にしているのだった。
マリオネットはデッサン人形そっくりの外見で、デッサン人形並みに関節が自在に動く。
そして人間離れし過ぎた動きをしていた。
「…なんか有り得ないモノを見せられてる気分になって、気持ち悪い…!」
「ぴゅ、ぴゅい…」
ウネウネ動くのだ。
グネグネしているのだ。
真っ直ぐに走らないで大きく揺れながら奇怪な動きで高速で近付いて来るのだ。
四つん這いになってカサコソ動くし、何故か壁登りをするし、天井を這い回る。
完全にホラーだった。
「いわゆる、見てるだけでSAN値が削れる存在…」
「怖いんじゃなかったでしょ?」
「アンデッドのほうが万倍マシだった…」
高尾とエル、そしてメロディも「もう見たくない」という感想しかない。
沙姫は平気そうだけど。
「あれはもう、試すまでもなく話にならない奴だ。むしろ話したくもない」
「テイムしたくないって評判だね」
納品クエストが放置されている理由を心から理解できた気がするが、沙姫のように平気なプレイヤーだっているだろう。
だからやっぱり誰かがクリアしていて当然ではないか、という意見は変わらないのだが。
高尾は絶対にやらないけど。
「あいつ、進化したら動きが変わるのか?」
「マリオネット系の間は同じだけど、上位のドール系だと少し可愛くなるよ」
「少しか…人気のほどは…?」
「皆無」
後で『従魔図鑑』でも見せてもらおう、と思う。実物は見なくて良い。
動かない挿し絵ならきっとマシだろう。
「ところでダンジョンにレベル上げのために通うつもりだったけど…フォースンのダンジョンに帰ろうかな…」
「ぴゅい!ぴゅい!」
「キュア!」
出て来るモンスターのレベルが高いので、こちらのほうが効率は良い。
でも精神的な負担が大きすぎるのだ。
エルとメロディも積極的にフォースンのダンジョンを推して来た。ジメジメしていて気が滅入るけど、ここよりマシだ。
「奥に進めば出ない訳じゃなさそうだし」
「古代遺跡のガーディアンって設定だからね。全ての階層にいるよ!」
「…ダンジョンのラスボスはそのうち倒したいけど、やっぱり当分はフォースンに通うか」
続けて攻略する気の出ないダンジョンだった。




