第 38 話 乗馬訓練をしよう
フィフスンの街にも未発見だったイベントの発見者探しをするプレイヤーたちが押しかけているが、高尾は騎士団の馬場に通っているのでほとんど接点なく過ごせていた。
やはり予定を変えて、沙姫頼りのつまらないバトルでボスを倒してでもこの街に来た甲斐があった。
3次職の騎士になっているので乗馬スキルは獲得済みのため、乗馬の訓練クエストは難しくはない。
リアルで乗馬を習うのならどんな苦労をするのか知らない高尾だが、それでもスキル補正の優秀さは分かる。
そして訓練クエストを受けなくても問題ないと不人気になる理由も分かる。
乗るだけなら難しくないのだ。
格好よく乗るのは話が別だっただけで。
手に入れたばかりの愛馬ハクは気位の高い性格をしているが、高尾が乗っても不満を示して振り落とそうとはしない。
高尾の指示に忠実に従ってくれるし、騎士NPCたちからは「格好いい!」とすぐに人気になっていた。
とても出来た馬だったのだ。
「やはりどこかにハクに相応しい真の主がいる気がする…俺にはもったいないくらい良い馬すぎる…」
「否定はしないけどね〜」
ナビゲーションAIのナビの反応は淡白だったが、乗馬訓練をしてくれている騎士NPCには「お前が相応しい主になれば良いんだよ」と言われた。
ド正論。
「そういえば異邦人の有名人も白馬だったな。今はドラゴンに乗ってるらしいが」
「異邦人の有名人?悪名高いほうじゃなく?」
「年に一度の新人冒険者たちを対象にした大物退治があるんだが、そこでMVPになった男だ。コロシアムでも活躍しているらしいぞ」
「アーサーの事だよ」
「あの天然キラキラ男か…白馬も似合うだろうな…」
大物退治イベントは年に一度開催されるレイドボス戦のことらしい。
毎年同じ時期に発生して、新人冒険者たちを対象にしているのに高レベルのプレイヤーたちが荒らしに来るそうだ。
MVPになると貰える限定アイテム狙いで。
「四年前から誉れの証がクズの勲章と呼ばれているけどな。その前年にMVPになった異邦人だけは別だぞ」
「異邦人たち、知ってるのか…?」
「この国にいる異邦人は少ないし、わざわざ怒らせること言って平気なメンタルの持ち主はいないみたいだよ」
クズの勲章ってNPCたちに言われてるよ!と聞かされて激怒した連中に絡まれる可能性を考えたら、それはだんまりを決め込む。
高尾も言う相手がいないし、掲示板に書き込む気もなかった。
つまり次もクズの勲章になるという事だ。
「国外追放になった連中って、まさか」
「クズの勲章持ちのクランもあったね」
持っていなくても悪名高いクランだったらしい。
別に知りたくはないが、何をやらかしたんだろうと思ったものだ。
他のプレイヤーはほとんどやらないらしいが、厩舎で馬の世話の仕方を習うクエストもあった。
ゲームなのでリアルより易しい設定だと言うが、厩舎に預けっぱなしにしている者ばかりだ。
馬好きなら喜んで世話をして、自宅に馬小屋を建てているらしい。
馬の捕獲を手伝ってくれた厩番の老人が講師なので、ウッちゃんサッちゃんを召喚している。
可愛い従魔に馬のハクも機嫌が良くなった気がする。
「ブラッシングすると、輝くような白い毛並みが益々きらめくぞ、この白馬…!」
「良い馬だからのぅ」
「馬具もこだわり始めると、お金がかかるって」
「馬具…やはり黄金が似合いそう…」
「成金趣味のキンキラ金は似合わないんじゃないかな〜」
「そんな悪趣味な物を選ぶ訳ないだろう」
王子様の愛馬が装備している、ロイヤルなゴールドの話なのである。
王子様のブロンドヘアとお揃いのゴールデン。
でも高尾が乗るので、そんなゴージャスさはいらない。
「シックなグレーも似合いそうだな」
「カラフルなのより、落ち着きのある色合いが似合うかもなぁ」
ナビより老人のほうが話が分かる。
派手と華やかの違いが分からない人にはなりたくないものだ。
「渋いとか地味じゃなくて、華やかなグレーだぞ!」
「…高尾山の色に通じる、解読難易度の高い注文を出して来た…!」
「明るいグレー」
灰色は白と黒の間で幅広いのだ。
詳しい色の名前は知らないので、感覚で表現してしまうだけである。
「このきらめく白いボディに合う、ロイヤルグレーだ」
「その独特の表現やめてくれないかな…」
とりあえず馬具を扱っている店に行って、高尾の求める色合いの物が置いてあるか見てみることになった。
ハクもロイヤルグレーに不満はなさそうだった。
馬に乗っているのは序盤から中盤あたりを攻略中のプレイヤーが多いので、馬具を扱う店には不愉快な連中は来ていなかった。
ここは馬の用品店なので、従魔関連のアイテムが置いてある訳ではないし。
左右の肩にウッちゃんサッちゃんを乗せて、高尾は商品を見比べていた。
「値段もピンキリだな…」
「使ってる革が違うんだよ〜。高いのは乗り心地が違うぞ」
「馬の負担も減るのか?」
「おお、もちろんだよ、異邦人の兄さん!」
愛馬の心配をしたら店主に「ちゃんと馬の事を考えられる異邦人は久しぶりだ」と感動されてしまった。
どこかの馬好きは愛馬ファーストで店主と話が合ったらしい。
もちろん店主は馬好きだった。
「このあたりの物なら、払えないこともない…」
「金策ガンバ!」
オークションの残りとか、悪魔などを従魔屋に売った代金とか、それなりにあるつもりだった高尾の貯金がかなり減るが、良い物を買いたい。
触ってみれば見た目より柔らかい手触りで、色も高尾の求めるロイヤルグレーに近い物があったのだ。
ウッちゃんサッちゃんも「これが良いね」「これは良い物だよ」という様子で眺めている。
鞍や手綱などの一式なので、これを買えば全部そろっている所も初心者に優しいし。
ちなみに蹄鉄は馬を捕獲した直後に付けてもらった。訓練で乗る前に付けるのは当然の対応だろう。
馬具は借り物を使っていたが。
「この街の近くにあるダンジョンには何か金策向きの物があるのか、ギルドで聞いて来よう」
「ダンジョンでは古代の遺物が手に入るらしいぞ。遺跡を守るマリオネットがいるって聞いたな」
「マリオネット?」
古代の遺跡ならゴーレムというイメージだったが、ここのダンジョンでは木製の人形みたいなモンスターが出るそうだ。
人気はない。
「人気がないなら、テイムしても仕方がないか」
「他のモンスターも出るからね」
ただ古代の遺物っぽいモンスターなので話題になりやすいという事だろう。
変なのが出た、的な。
「具体的に何の人形に似てるんだ?」
「デッサン人形かな。操り人形がモチーフだと思うけど、球体関節が剥き出しの奴」
「…不気味だな」
服などは着ておらず、まんま等身大デッサン人形が動いている感じらしい。
可愛いとかそういう話ではない。
むしろ学園ホラーに出て来そう。
高尾は「人型だから武器防具が装備できるよ!」と言われても、仲間に迎えたいとは思わなかったものだ。




