第 37 話 愛馬を探そう
石壁と石畳に囲まれたダンジョンに篭っていると飽きるのだ。
という事で高尾は商業都市セカンから南に向かい、フィフスンの街に行くことにした。
沙姫の力なら簡単だ。
「…つまらないゲームに成り下がったな」
「ゲームのせいじゃないよ!?」
街道を封鎖するボス戦の時だけ沙姫を召喚して倒してもらったが、ラノベで良くある「最強のシモベを手に入れたぜ、ヒャッハー!」という気分にはならなかった。
高尾はあくまでゲームを遊びたいのであって、チートで無双の気分ではなかった。
異世界転生したら安全をより考えるだろうが、デスペナルティのないゲームなのだ。
死にゲーではないが、歯ごたえのある難易度のほうが楽しめる質である。
ナビゲーションAIのナビが否定しているが、運営が野放しにしている連中が原因だった。
「MMOじゃなくて、ソロゲーだったほうが楽しかったな…」
「フレンドがいないからって全くもう!」
フレンドが出来ないので、MMOは百害あって一利なしなのだ。
害悪プレイヤーが多すぎる。
「なんでああいう連中をのさばらせたままにしてるんだ」
「法律で規制されてないから、正当な理由もなくユーザーに抗議できないものなんだよ。代わりに監獄システムとか、ゲーム内のルールですからって言い張れる部分もあるけど」
「刑期が長すぎて実質垢BANの連中か」
最初にそういうゲーム内ルールがあることは説明されるし、同意しないと開始できない。
一般人はゲーム内で犯罪行為をしなければ良いと解釈するが、捕まらなければ良いんだろうと軽く考える者もいる。
自分は捕まるような間抜けじゃないと思い上がっていた連中が監獄送りにされてから喚くのも、良く聞く話だ。
特にサービス開始直後の頃が騒がしかったらしい。5年も経てばここの運営が応じる気がないことくらいは理解できたようだから。
「まぁ、さっさとフィフスンに行くか。状況は変わらないだろうけど」
「未発見だったイベントの発見者探しをしているプレイヤーがたくさんいるのは同じだね」
過ごしにくいのは大差ないだろうが、街の探索をしたりクエストをこなしたり、出来ることが増える。
1番の楽しみは、騎獣として使える馬を手に入れるイベントがあることだ。
移動が楽になるし、騎士らしくなって格好いい。
ストーリーを進めて行くと馬以外の騎獣も手に入るようだが、当分はお世話になる予定である。
適当に決めないで、じっくり吟味したいものだった。
教会の転移ゲートに登録して、ギルドに寄ってクエストの確認をしたり世間話をしてから、高尾は騎士団の兵舎を訪ねた。
馬を入手するイベントは騎士団から始まるらしい。
「3次職の騎士になっていることが最低条件だよな」
「魔術士系がいつの時代も文句を言うけど、馬と言えば騎士だからね!」
「騎士以外も乗るだろ」
高尾は騎士ルートをメインにするつもりだから文句はないが、魔術士系が条件の必須コンテンツがあったら文句を言っただろう。
必須じゃなくて、そのうち手に入ればいいや、程度のものならあるらしいけど。
ナビと言い合いながら兵舎の入口にある受付に近づき、受付嬢にクエストの確認をした。
「…分かりやすいな、馬を手に入れよう」
「騎士として所持しておきたいものですからね、馬」
「馬がいないと意味のないスキルもあるからな」
乗馬や騎乗など、馬に乗った時だけ効果を発揮するスキルがある。
乗馬は馬に乗れるようになる必須スキルで、リアルで乗馬が得意な人は必要ないらしいが、高尾には必須だ。
騎乗スキルは乗馬の上位互換のようなスキルで、馬の速度が上がったり、馬に乗った状態でバトル出来るようになるそうだ。
移動に利用するだけのプレイヤーも、騎乗スキルが欲しくなる設定だろう。
「ご自分の馬を手に入れたら、乗馬訓練のクエストがたくさんありますよ」
「楽しそう」
「異邦人は受けない方が圧倒的に多いですけど」
「圧倒的か…」
始まりの街ファストでも訓練クエストは不人気だったので、そんなものだろう。
高尾はちゃんと指導を受けて、格好よく乗りこなしたい。基礎も知らない素人なので、動画で見た格好悪い自覚のない配信者たちを思い出して、そう思う。
格好いい騎手との違いが顕著だったものだ。
「ナビも力作のアバターが格好悪い乗り方をしているのは見たくないだろう?」
「…今まで散々見て来たけど、せっかくのイケメンが、格好いいつもりでドヤッてるみっともない姿が!!」
「…それもそうだったな」
ナビ任せでアバターをイケメンに作ったプレイヤーは多いらしいのだ。
そして圧倒的不人気の訓練クエスト。
訓練を受けないで、みっともない姿で馬に乗る連中…
聞くまでもない話だった。
馬を探すところから始まるが、フィフスンの街の西側の花の多い草原フィールドに野生馬たちがいる。
そしてクエストを受けると厩番のNPCが馬の捕獲を手伝ってくれる。
おかげで難易度の低いクエストで、時間がかかるとしたら好みの馬を厳選する場合だけだろう。
馬の能力は個体差がないため、厳選要素は外見だけだ。
「黒いの格好いいけど、中二臭がな…」
「風評被害だ!」
「白馬は王子様御用達すぎる」
「否定はしないね」
高尾の好みだけなら青毛の馬を選ぶだろうが、人目を気にすると躊躇ってしまう。
周囲は気にしていなくても高尾が恥ずかしくなるので却下なのだ。
実際に見てみると「普通の鹿毛とかがいいな」と思っていたはずなのに、目を引く色や惹かれる個体がいるのだ。
鹿毛、栗毛、水玉模様のあるタイプ、足元だけ白いソックス付き…現実にいないような毛色は見かけないが、目移りするのは確かだ。
「あの焦げ茶は栗毛か?」
「黒系が好きだよね」
黒ではないが黒っぽいほうに惹かれる。
そこは我慢しないことにして、高尾は好みの馬探しを続けた。
厩番の老人が「あれは若いなぁ」とか「あいつは気性が荒そうだ」と助言をくれる。
性能に差はなくても性格は違うので、気性が荒くて可愛げのない馬より、人懐っこい馬のほうが人気だ。
暴れ馬を乗りこなすのがイイんだろ!という好みの者だっているらしいが。
「ウッちゃんとサッちゃんの好みも聞いてみるか。他の従魔は呼べないけど」
「従魔の好みを聞く人…けっこういるけどね」
「けっこういるのか…」
高尾のように可愛い従魔を溺愛しているモフラーには、たまにいるらしい。
とても良く分かる。
そんな訳でウッちゃんとサッちゃんを召喚すると、厩番の老人が「可愛えぇのぅ!」と喜んだので、サッちゃんのほうを渡した。
老人は馬が1番好きらしいが、可愛い従魔はたいてい好きなのだそうだ。
動物全般が好きなのかもしれない。
「俺の相棒になる馬を探してるんだが、ウッちゃんとサッちゃんはどの馬が良いと思う?」
「キョロキョロする姿もめんこいのぅ」
「耳がピコピコするところもラブリーだぞ」
馬ではなくウサギたちを愛でてしまったが、ほどなくウッちゃんサッちゃんの意見はまとまったようだ。
揃って同じ馬を推して来た。
「何故白馬…!」
「あれは気位が高そうだが、馬たちのリーダーになれる器を感じるのぅ。ああいうのが隊長の愛馬だと、騎士たちの馬も自然と統率が取れて重宝されるんだよ」
「なんでそんな大物御用達が…!?」
やはり王子様御用達のようだが、ウッちゃんサッちゃんが「あの馬が良い!」とキラキラの眼差しで見上げて来る。
同じ白い毛並みだからだろうか。
「どうするの〜?」
「…この状況で断れるほど、強い意志など持ち合わせてないんだ…」
決めかねていたからウッちゃんサッちゃんを召喚したのだ。他に推している馬もいないし。
という事で高尾は白馬を手に入れた。
近くで見ると美形なのが分かる、そんな王子様にこそ相応しい馬だった。
どこかでこの白馬の真の主に相応しい王子様と出会ったら、是非とも譲渡したいくらい立派な白馬である。
でも高尾にはネーミングセンスがないので、悩んだ挙句にハクと名付けた。
もちろん白いからだ。




