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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 36 話 発見者探し

 ナビゲーションAIのナビが言った。


「しつこく毎日ヒント教えろって言って来るプレイヤーがいてね。しかも複数ね。情報開示の義務があるから、未発見だったイベントが発見されましたって答えないといけないんだよ」

「なるほどな」

「もちろん個人情報は開示しないからね。誰が発見したのかは不明だよ」


 高尾(たかお)は始まりの街ファストの大通りを歩きながら、やたらと見かけるプレイヤーたちの存在に納得はした。

 ただ、着ぐるみ集団だけじゃなかったんだな面倒くさいの…とうんざりしているだけだ。


 初心者とは隔絶した装備やファッションのプレイヤーたちが始まりの街に溢れ、初心者相手に声を掛けている。

 高尾はまだ被害を受けていないが「何か知ってるんだろう!」と高圧的な連中もいた。


 真実知らないだろう初心者プレイヤーたちは震え上がっている。


 発見した高尾だって条件不明のイベントである。

 フレンドもいないから誰にも教えてないし。


 高尾以外に知っているプレイヤーがいるのなら、他にも発見者がいたという事だ。


「ちなみに発見者は何人だ?」

「1人だよ」

「なるほど…」


 高尾しか知らないイベントと確定した。

 さっさと今日の攻略場所に行くことにしたのだった。






 フォースンの街もファストと同様にプレイヤーの姿が多かった。


 高尾は絡まれないように気をつけて、ナビと話しながら通りを歩く。


「むしろファストより多いくらいだな」

「ヒントとしてタルスティン王国内だよって教えてあるけど、始まりの街はさすがにないだろうって判断したプレイヤーが多かったんだよ。第一候補は王都だよ!」

「…ここよりプレイヤーが溢れてるのか…」


 最前線の街ならプレイヤーが溢れていても日常的な光景かもしれないが、昨日までプレイヤーなんて数える程だったのだ。

 フレンドにはなっていないが、互いに顔を覚えるくらいに少なかった。


 向こうはエンジェリック・ラビットの件で以前から高尾を知っていたようだが。


「フィールドもうろついてるのか?」

「アテもなく彷徨ってるけど、フィールドのほうが広いから密度は低いね!」

「…廃城もプレイヤーだらけなら、ダンジョンに行くぞ」

「ダンジョンのほうが良いかもねぇ〜」


 ダンジョン内では遭遇する可能性がないのだ。

 レベル上げと悪魔のテイムをして稼ぐほうがマシな気がした。


 プレイヤーが多い所では従魔たちを召喚したくないし。

 特に進化アイテムで種族値3まで上げたキュアバード改めヒーリングバードのメロディは見せられない。


 どうやって手に入れた!と囲まれるに違いない。この国では入手不可能で、従魔屋でも入荷しないようなレアな存在だから。


 もしも出物があったらオークションにかけられるだろうし、プレイヤーたちが気付かない訳がない。


 もちろんヴァンパイア・プリンセスの沙姫(さき)もバレたら大騒ぎになるが、今回発見されたイベントとは無関係だ。

 従魔協会のNPCに聞けば分かるはずだ。


 そしてエンジェリック・ラビットのエルも、見られたら憎悪の眼差しを受けそうだから人目に晒したくなかった。

 エルではなく高尾が睨まれるという話である。


「そのイベントって、エンジェリック・ラビットに進化させる方法が解禁されるって話だったよな」

「エンジェリック・ラビットも、だね。いろんな従魔の進化が止まった状態だから」

「ヒントとして挙がった従魔の名前はどのくらいあるんだ?」

「高尾が知っている所だと、フクロウの最終進化形が未解禁だよ」

「サタニック・オウルか」


 エンジェリックは『天使のように可愛い』という意味らしいが、サタニックは『魔王の如き強さ』という意味だという。

 魔法系の従魔の中では、かなり強くなる部類だそうだ。


 高尾もフクロウを手に入れて、そんな魔法特化の仲間として活躍してもらいたいものだ。


「あとモフモフ好きたちが求め続けてるのはナインテイルだね。九尾の狐」

「九倍のモフモフしっぽだったか…」


 狐は魔法特化ではないし、幻惑などのサポート魔法も使う。

 高尾の求める魔法アタッカーではないので、候補にも上げなかった従魔だ。


 しっぽが九本あるのは凄いインパクトだが、ウサギ九羽のほうが高尾好みである。


 ウッちゃんとサッちゃんを召喚して抱えて歩きたいな、と思っているうちに転移ゲートのある教会からギルドまで来ていた。

 ウサギたちは自宅で愛でるとして、ギルドに入ってみた。


 ギルド内もプレイヤーだらけだったが、受付は空いていた。


「今日もダンジョンでレベル上げをしようと思うんだが、クエストはあるか?」

「それでしたら、こちらはいかがでしょう」


 受付嬢は高尾の普通の要望に、ちょっとホッとした様子で答えた。

 イベント探し…いや、イベントを発見したプレイヤー探しをしている連中が、何か無理難題を喚いたのかもしれない。


 自分で探しもしないで、発見者から掠め取ることしか考えていないのだろう。

 大騒ぎするくせに、自分で見つける努力はしないのだ。


 着ぐるみ集団の件もあって、高尾はこのゲームのプレイヤーたちを信用していなかった。

 耽美系美少年ゴーストの時も端金で巻き上げようとした連中がいたし。


 クエストを見ながら不愉快な事を思い出していると、居丈高な連中が声をかけて来た。


「おい、お前。知ってる事は全て吐け」

「何か知ってるんだろう!」

「…ナビ、運営に通報できないのか、このレベルの連中も」

「通報するだけなら出来るよ。対応するとは言わないだけで」


 裏通りでコソコソと恐喝するどころか、ギルド内の公衆の面前で言い放っているのだ。

 現実だったら警察を呼べるだろう。


「ボクから言えるのは、ここ数日ダンジョンに通ってたってことくらいかな!ダンジョン内でイベントが起きると思う〜?」


 ナビが恐喝犯たちに高尾の行動を告げ口していたが、どの口が言うのかという内容だった。


 まぁ、イベントのフラグはダンジョン内では立っていない気はするけど。


 恐喝犯たちは「使えねぇ!」と吐き捨てながら他のプレイヤーたちに同じようなことをしていた。


「…あんなので発見できると考える程度の頭だから、イベントが発見できないのでは?」

「しっ!」


 高尾は充分小声で言ったが、ナビに口止めされた。側にいた受付嬢は首をかしげているから聴こえなかったようである。


「あのね、頭の出来は先天的なものだから、本人の責任じゃないよ。直しようのない不治の病なんだよ…」

「お前のほうが酷いこと言ってないか?」


 不治という所は同意するけど。


 高尾は呆れながらクエストをいくつか受けてギルドを出た。

 また絡まれたくないので、ダンジョンへ急いで向かった。


「ああいう連中はドラゴンの進化とか、そういうのが目的なのか?」

「ドラゴンは持ってなさそうだけどなぁ」


 ドラゴンを手に入れているのは廃人たちと、ひと握りの幸運な者だけなのだ。


 オークションで落札できた、という幸運である。

 かなり運が良くないと、金を唸らせている廃人たちに落札されてしまうので。


 強力な従魔なので、二体目も欲しいと落札する廃人もいるらしいのだ。

 一体も持っていないプレイヤーのほうが多いのに。


 ドラゴンは種族値1の段階だとドラゴン・パピーしかいないが、様々な進化先があるらしい。

 空を飛べるタイプが人気だが、地竜タイプもいる。海竜にも進化できる。

 属性別に細分化して行くそうだ。


 …それは二体目三体目も欲しい。

 その気持ちは分かる。


 分かるけど迷惑な話だった。


「ドラゴンの入手イベントも未発見だったな」

「イベントを探してるプレイヤーもいるけど、少数派だね」


 つまり誰かが発見したら掠め取るつもりなのだろう。


 そんな連中ばっかりだった。

 そう、今この国に押しかけて来ている連中は。





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