第 35 話 ダンジョン制覇!
リスを何体かテイムして来た高尾が商業都市セカンの従魔屋に売りに行くと、店主は喜んで買い取った。
「同じ顔ぶれだと、お客様も足が遠のきますからね!」
「そうか。人気の従魔が入荷してないかなと覗きに来る客も多いんだな」
「まぁ、異邦人の方にバレるとあっという間に売り切れてしまいますが…」
店主の言うお客様は住民NPCたちのことらしい。
異邦人はハイエナかハゲタカみたいな存在なのかもしれない。
ナビゲーションAIのナビが「情報網がすごいからね、異邦人!」と無責任に笑っている。
「もう少しでダンジョンの最深部に着くんだが、悪魔も需要があるのか?」
「他の国で種族値の高い悪魔系をテイム出来るので異邦人の方は来ませんが、従魔士には一定の需要がありますよ」
話しが通じるモンスターなのか分からないが、ちょっと試してみようかと思う。
「でも悪魔って魔法系のモンスターだよな」
「闇属性特化だし、物理攻撃も上がるからマルチタイプだね」
中途半端になりやすいタイプだ。
しかもどちらかと言えば魔法寄りなので、魔法特化のフクロウが人気なのである。
人型で装備が出来るから強くなるのだが、金がかかるとも言う。
人型は増やしたくないな、金がかかりすぎるから…と思うのだった。
ヴァンパイア・プリンセスの沙姫がいるから高尾は悪魔を仲間に加える気はなかった。
「そうだ、フォースンの英雄の墓に本人のゴーストがいるんだけど、異邦人にしか見えないらしくてな。証明できないから信じてもらえないし」
「ええ〜、聞いたことがないですよ。信じるのは難しいですね…」
「フォースンの住民だと『我々の英雄を貶める気か!』って怒られるし…」
セカンの従魔屋だからソフトな返答だが、イベントのフラグが足りないとフォースンの住民たちを怒らせるだけで、全く進まないのだ。
英雄イベントは行き詰まり中である。
「ダンジョンをクリアしたら廃城に行って、何か手がかりが掴めるかな」
「本当に英雄のゴーストがいるなら、かの英雄と会話できるという事ですよね。お話したい人はたくさんいると思いますよ」
「うーん、会話可能にする手段か…」
隣の街の住民の意見なのでヒントとは限らないが、それが出来たらイベントが進むかもしれない。
高尾には手段がさっぱり思いつかないが。
「死霊術か?」
「特定の人物を呼び出せる術ではないと思いますよ」
それが可能なら過去の偉人たちを呼び放題である。制限があって当然か。
そんなに簡単な訳ないだろうな、と思い直したのだった。
沙姫のおかげでレベル上げも捗っている自覚のある高尾は、ふと疑問をナビにぶつけていた。
「ダンジョンの攻略に数日かかったけど、他のプレイヤーはどのくらいかかるものなんだ?」
「そうだねぇ。かつての廃人たちの記録だと最短3日だけど、エンジョイ勢は1ヶ月くらいかかるよ。1日2、3時間しか遊べないから」
「…まぁ、そうだよな」
高尾は飽きたら街の外に行ったりしていて数日…5日ほどかけたが、集中して潜っていれば3日で着けたかもしれない。
でも1日10時間以上ログインしている廃人プレイだと、ダンジョンに篭っていると飽きるのだ。
エルとメロディが「えぇ〜…」とドン引きしている気配である。
「沙姫に全て任せてお荷物に徹していたら、1日でクリア出来た気もするし」
「ぴゅいっ!」
「いや、ちゃんと戦っただろ」
エルに怒られたが、沙姫は物足りない敵ばかりだっただろう。
無双ゲーみたいで楽しいよ、という顔をしている気もするが。
「ただマトモにやると全然進まないから、メインの進行に関わらずコロシアムのある国とか行けるようにするシステムがあっても良いんじゃないのか?観戦も出来ないだろ」
「良く言われるね。でも改善されていない今がある」
「…応じる気がないんだな」
街で買い物などをさせたくないのなら、観戦のみと機能を限定すれば良いのに。
人気のあるコンテンツに触れないままなのは、けっこうなストレスだと思う。
高尾もその辺りは早く到達したいと思っているが、参加したい訳ではない。勝てないからつまらないだろうし。
動画ではなく、観客席から観たいだけだ。
そんな話をしながら最深部の十層を進んだ。
出て来る悪魔は噂通り「ギッヒッヒッ」と笑うし、人型なだけのモンスターだった。
話は通じているが、根本的に性悪らしく意見が合わない感じだった。
でも沙姫の強さを目の当たりにすると負けを認めるのか、説得に応じる個体もいた。
「フォレストタイガーとは違うようで、同じ結果だな…」
「虎は純粋に『姐さん強ぇ!』って仲間になりたそうにキラキラした目を向けて来たよね」
稀な現象は1回限りだったが、フォレストタイガーたちは強い奴が好きなんだなと思えたものだ。
悪魔たちは下心がありそうで、仲間にしたくないと思わせる雰囲気なのだ。
高尾の好みの話でしかないから、需要があるのは分かるけど。
「家に悪魔たちを送り込まれたウッちゃんたちが怯えてるかもしれないから、さっさと売っ払おう…」
「酷いこと言い出した!」
「確かに、言葉にしたら酷いな」
などと言っているうちにボスの間に到着した。
ダンジョンのラスボスは悪魔たちの親分みたいな大悪魔だ。
種族値2で他の国では雑魚モンスター枠で出て来るらしいが、ボスなのでテイム不可だそうだ。
そしてボス補正で通常より強く設定されているらしい。
「沙姫ならタイマンで圧勝できそうだけど、俺たちも頑張るぞ!」
「ぴゅい!」
「キュア!」
気合いを入れて戦ったが、ラスボスはやっぱり沙姫の敵ではなかった。
高尾たちは被ダメージがけっこう大きくて、メロディの回復がありがたいバトルになったけど。
ラスボスを撃破すると宝箱が出現した。
初回のみ非売品のアクセサリーが確定で手に入る宝箱で、2回目以降は消費アイテムからランダムで出て来るそうだ。
宝箱目当てで周回するダンジョンではないという事だ。
「これだな。思い出のブローチ。懐かしい感じがする、としか説明がないアクセサリー」
「この時点だと性能が良いから、たいていのプレイヤーが装備していたものだよ」
防御力が上がるのでタンク役を兼任する高尾が装備した。
沙姫向きの可愛いデザインでもないし、沙姫は攻撃力の上がるアクセサリーを好むし。
「ぴゅいぴゅい」
「キュアキュア」
帰ろうと言いかけたが、エルとメロディがボス部屋の奥を示している。
高尾も目を向けて首をかしげた。
「ここで終わりじゃなかったのか?」
「フラグが足りないと現れない扉だよ」
「…何かのイベント関係か」
ダンジョンの攻略情報にはなかったが、イベントの攻略情報には載っているのかもしれない。何のイベントか知らないが。
高尾は自分の進めているハズのイベントを思い浮かべながら、とにかく扉に近づいた。
「英雄イベントか?廃城のほうじゃなかったのか?他に何のイベントが進行してるんだ…」
扉に手をかければ簡単に開いた。
中は道具屋のような棚だらけの部屋で、キラキラ光る石のようなアイテムが色とりどりに並んでいた。
「おや、珍しいお客人だね。ようこそ、進化の館へ」
「進化の館?」
奥にいた老婆が「イッヒッヒッ」と悪魔っぽく笑う。いや、悪魔系のNPCなのだろうか。
「従魔を進化させるアイテムを売っているのさ。安くはないけどね」
「お、キュアバードの進化用のアイテムもあるのか?」
「もちろんさ」
キュアバードは種族値1なので、早目に進化出来るに越したことはない。
進化しても華やかさや豪華さが追加されるくらいで、可愛さは変わらないし。
ついメロディの強化に気を取られたが、高尾も思い出した。
「…未発見イベント!?」
「エンジェリック・ラビットの進化アイテムも売ってるよね」
「もう進化しているようだが、アイテムならあるよ。欲しいのかい?」
「いや、いらないが」
ウッちゃんサッちゃんを天使に進化させるのも悪くないが、それは今やる事ではない。
というかバレたら酷い目に遭う。
「いや待て、どこで何のフラグを立てたんだ?」
「攻略情報は答えられないよ。無自覚みたいだから余計にね!」
「…く!」
答え合わせという形で、正しい条件を告げればナビゲーションAIは「その通り」と肯定することで情報を開示する。
誰かが情報を開示させると、他のプレイヤーにも伝える事が出来るようになるらしい。
つまり偶然フラグを立てて、無自覚にイベントを起こしたりクリアしても、イベントの情報は開示されないのだ。
高尾もさっぱり分かってないし。
「でも判明したら着ぐるみ集団にも開示されるって事だし、分からないほうが都合が良いんじゃないの?」
「…考えても分からないだけだ。他意はない!」
という事にして、イベントの条件を確認するのは止めた。
うっかり正解して着ぐるみ集団に情報が渡るのを妨害するためではない。
他のプレイヤーたちも道連れだが、敬遠され続けているので気を遣う相手などいない。
イベントを発見した事も黙っていれば、発見されていないのと同じことだった。
□高尾に自覚はありませんが、英雄イベントのために聞き込みをしている時に偶然フラグを立てた形です
□思い出のブローチも英雄関連のイベントアイテムですが、未発見イベントのままになっています




