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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 34 話 タイニー!

 引き続きフォースンの街のダンジョンに通っている高尾(たかお)だが、ちょっと飽きて来たので街の外に行くことにした。


 レベル上げは順調で、タイニーモンキーの生息している森の推奨レベルに到達していたという理由もある。


 街を出て人目のないあたりまで進んでから従魔たちを召喚した。

 街の近くはノンアクティブのモンスターが多いので、高尾1人でもある程度は問題なく移動できるのだ。


「空気が美味いな」

「ぴゅい」

「キュア」


 エンジェリック・ラビットのエルとキュアバードのメロディが機嫌良く応え、ヴァンパイア・プリンセスの沙姫(さき)はうんうんと頷いている。

 閉塞感のあるダンジョンに飽きていたのは高尾だけではなかったようだ。


 ナビゲーションAIのナビは街のほうを眺めて、目撃者なしかぁとちょっと残念そうだ。

 騒ぎになるから見られたくないというのに。


「今日は手の平サイズの小猿を仲間に迎える予定だ。キュアバードと同じ戦法が使えれば良いんだが」

「キュア…」


 メロディがやや恨みがましい視線を向けて来たが、眠らせて鳥かごに閉じ込めてからテイムしたので仕方がない。

 そうでもしないと逃げられるのだから。


 それでも高尾はメロディに謝ってご機嫌取りをしておいた。従魔に不満を持たせたままにすると言う事を聞かなくなるらしいが、可愛い子に嫌われていたくないだけである。


 そんな一幕もあったが、高尾たちは森に向かって歩きだした。


 ダンジョンには似た時期に始めたプレイヤーたちがいたが、こちらにはひと気がなさそうだった。


 森に出現するモンスターはリスとシカが多いそうだ。タイニーモンキーは1~2時間に1匹現れれば良いほうのレア枠である。


 そんなレア枠なのに逃走タイプなので、せっかく見つけたのに逃げられてしまう。

 しかもテイムの成功率が低いので、見かける割に幻の従魔扱いになっている。


 つまり街で連れ歩くとまた「売ってくれ」とまとわり付かれる存在という事だ。


「少し考えたんだが、クレクレ君が来たら『羨ましいだろう!』と盛大に自慢するのはどうだ?売る気がないと悟るはずだ!」

「売る気がない相手でも気にしないからしつこいんじゃないかな。自分本位じゃなきゃ言えないよ」

「…そうかもな」


 高尾が評判を落とすだけで、迷惑度は変わらない。そんな気もする。


 仕方がないので最初の予定通り、テイム出来ても自宅か人目のないフィールドでのみ愛でることにした。

 そのためにも、ぜひテイムしたいものだった。






 この森でもレベル上げになるので、なかなか現れない小猿のことを忘れてバトルをして回っていた。

 初めて来たフィールドなので採取できるアイテムも初見の物ばかりで楽しい。


「洋梨が採れるとは!ケーキ屋に持ち込んだら何か限定メニューが売られないかな」

「自分で作らないの?」

「俺に作れると思ってるのか?」


 レシピ通りに作れば完成するのがゲームの良い所だ。高尾にはそれが限界である。


 アレンジレシピを誰かが作って共有してくれたら高尾でも作れるかもしれないけど。

 そういうレシピは門外不出なのだ。


 まだ調理師のレベルが低いから作成可能なメニューも少ないし。


「洋梨のスイーツか。何があったかな」

「キュア!」

「味見味見って言ってる気がするよ」

「ぴゅい!」


 料理しなくて良いからフルーツ食べたい、という様子のメロディとエルに負けて、高尾は洋梨の皮をむいて切り分けた。

 ナビは食べられないので、ちょうど四等分である。


 沙姫にも渡せば喜んで味見していた。


 みんな気に入ったようだが、特にメロディが喜んでいる。好物だったのかもしれない。


「俺は日本の梨のほうが好きなんだが、どこかで手に入るのか?」

「日本人プレイヤーはたいてい言うよね。アップデートで追加されたから、けっこう先の国で手に入るよ」


 食べ慣れた果物が食べたくなるものなのだ。

 でも日本人以外のプレイヤーたちにも美味しいと好評だったようだ。


 などとまったりおやつ休憩をしていたら、沙姫が高尾の袖をつんつんと引っ張ってから指差した。

 少し離れたところの木の上に白い小猿がいる。


「…洋梨にはちみつをかけたら、さらに美味しくなると思う」

「キュアッ!」

「ぴゅいぴゅいっ!」


 逃げるでもなく高尾たちを窺っている小猿を刺激しないように、高尾は静かにはちみつの瓶を取り出した。


 洋梨をもうひとつ切り分けて、皿に乗せてからはちみつをかける。

 メロディとエルが先程より美味しそうに食べているので、小猿が固唾を飲んで見つめている気がする。


 タイミングが重要だ。


 高尾は自分の分の洋梨を別の皿に乗せ、はちみつをかけてからゆっくりと小猿のいるほうに差し出した。


「お前も食べるか?」


 小猿は「キッ!?」と小さく悲鳴じみた鳴き声を上げて木の幹に隠れたが、高尾が皿を地面に置いて離れると、やがて恐る恐る近づいて来た。


 これはテイムでも説得でもなく、餌付けである。


 だが野良猫に餌をやるような感覚だった。


 小猿は高尾たちが襲って来ないか警戒していたが、小さな指ではちみつ掛け洋梨をつついて、そのはちみつの付いた指先を咥えるとビビッと電流が走ったような反応をしてから洋梨にかじりついていた。


 おやつに夢中だったエルとメロディも大人しく小猿の様子を眺めていた。

 どちらかと言えば、そうなるよね、分かる、という共感だろう。


 完食するのを待ってから、説得(テイム)に乗り出した高尾だった。






 餌付け(テイム)したタイニーモンキーの名前はテオにした。

 某名作アニメの小猿の名前の一部を拝借しただけである。


 狙われるので連れ歩けないが、本当に手の平サイズなんだなとか、仕草が予想以上に可愛いなとか、自宅で愛でるだけでも充分だ。


 高尾が幼い頃に母が「こういう名作を見なさい」と言って見せて来たアニメなのだが、とにかく小猿が可愛かったのだ。

 憧れたあの小猿が手に入った気分である。


「そうだ。あの森のリスも可愛かったけど、あっちは人気なのか?」

「種族値1だと肩乗りサイズだけど、進化すると何故かどんどん巨大化するんだよ。進化前は人気だね。テイムもしやすいほうだから」

「テイムしやすいなら手に入れているプレイヤーが多いんだな」


 街の連れ歩き用のペットだろうか。

 でも高尾はウサギのウッちゃんとサッちゃんがいるから、これ以上は増やさないつもりだ。


「従魔屋では見なかったな?」

「入荷するとすぐに売れちゃうくらいには、自力テイムしない人が多いからね」

「なるほど」

「バトルしない生産職の人たちも、自分でテイム出来ないからね〜」


 それならダンジョンに飽きたら、また森に行ってリスのテイムを試してみるのも良い。

 従魔化したリスがどのくらい可愛いのか、ちょっと気になるのだ。


 リスたちは好戦的なので、追いかけ回す必要もない。


「洋梨狩りでまた行きたいと思ってたし、何度も通う所になりそうだな」

「キュア!」


 メロディが「だよね!だよね!」と喜んで同意している。おやつの調達に行くしかない。


 テオはリンゴやオレンジなどの街で簡単に買える果物を出して食べ比べをしたら、特にリンゴが好みだったようで大人しい。


 エルと沙姫の好物は他にありそうだし、いろいろ試して見つけたいものだ。






ぴゅいキュアが某アニメっぽく聴こえそう…

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