第 33 話 イメチェン!
タルスティン王国内での進行順なら、現在攻略中のフォースンの街が最先端と言えるのだが、王都に次ぐ大都市という評判通り、商業都市セカンのほうが店が多く品数が豊富だった。
買い物をするのならセカンのほうが良い。
ただゲームの都合上、セカンでは買えないアイテムもある。
バランスブレイカーな装備品がセカンで買えるから、金さえ用意すれば良いところもあるのだが。
しかしセカンで金策をして強い装備を買うより普通に進行させて行くほうが早かったりもするから、強い装備に目がくらんで飛びつくのも考えものだった。
高尾はセカンの街を沙姫を連れて歩きながら、そんな余計な事をつらつらと考えていた。
今日は沙姫の服を新調するために買い物に来たのであって、装備品は探していないのだ。
「…バレてないよな」
「緊張するねぇ」
「人前で召喚しなければ、プレイヤーかNPCに見えるはずなんだ…!」
「ファストの街ではけっこう気にせず連れて歩いたもんね」
沙姫のような人間そっくりに見える美少女従魔がいるとは思われていないから、バレにくいはずだ。
実はヴァンパイア・プリンセスだとバレたら大騒ぎに違いない。
耽美系美少年ゴーストの時に思い知らされたのである。
半透明なゴーストでも美少年なら需要が高いのだ。美少女と見まごう美少年だったせいで、男たちまで目の色を変えていたし。
「そういえばヴァンパイア・キッズとかノーマルなヴァンパイアはいるよな。外見はどんな感じなんだ?」
「肌が青白くて、牙が目立つ感じ?モンスターみが強めかなぁ。悪魔より人間に近いけど、美形とは言いがたいね」
ナビゲーションAIのナビが応える。ヴァンパイア系は種族値が上がるにつれて、人間そっくりになって行くらしい。
擬態が上手くなるという設定のようだ。
つまり美少女なヴァンパイア・プリンセスの沙姫は、やはりバレたら大騒ぎなのだ。
隠し通さねばならなかった。
高尾の好みだと清楚系になってしまうが、沙姫は動きやすい服が好みらしい。
若い冒険者たちに人気があると聞いてやって来た店で品定めをしていて知った事実だ。
店員も「冒険者だものね!」と沙姫の好みを支持していたので、活発な女の子っぽい服装になった。
膝丈より少し長めのカーゴパンツに長袖のシャツとベストで、色合いとデザインが可愛いのでおっとりした外見の沙姫に似合っていた。
以前買った髪飾りとも合っている。
ついでに服に合わせてポニーテールにしたら、これもこれでアリだな!と感心したものだ。
ヴァンパイア要素は特にない。
「拳闘系だもんな…」
「だいぶ変わったねぇ。ボクもイメチェンしたい…」
「運営に言え」
ナビゲーションAIの衣装は変更不可能なのだ。5年経っても着せ替え要素は実装されていない。
目的は果たしたので帰ることにした。
本当は街歩きでもしたいが、あまり目撃されたくないのだ。
「注目を集めて尾行する男が現れませんように…!」
「緊張するねぇ」
幸い沙姫に惚れる男はいなかったようで、無事に帰宅して騒ぎが起きることなく過ぎたのだった。
在庫がなくなる前にはちみつを採取して来た高尾が、始まりの街ファストのギルドに寄ってクエストのチェックをしていると、いつぞやの自分っ娘が現れた。
高尾を見て「エンジェリック・ラビットっスー!」と突撃して来た。
「キュアッ!?」
「あいつ、お前がエンジェリック・ラビットに見えたらしいぞ」
「キュア…」
今日はキュアバードのメロディしか連れていなかった。職員に請われて召喚しただけである。
この街でもキュアバードはあまり見かけないそうだ。
少し前にセカンの従魔屋で何羽か売り出されていたので、その時に買ったという設定にしている。
声をかけられても、そう答えれば去るプレイヤーのほうが多かった。
たまにそれでも「譲ってくれ!」と言い出す図々しいのもいたけど。
「…エンジェリック・ラビットはどうしたんすか!?」
「従魔士をマスターしたから連れ歩かなくなっただけだ」
「自分、今日こそは仲良くなりたかったっす…」
「そう思うなら奇声を上げて近づくな」
「きっとエンジェリック・ラビットがいても威嚇されて終わったね」
同じことを繰り返している自分っ娘に、こいつアホなんじゃないか?と思わずにはいられない。
学習能力がないにも程がある。
「でもその鳥も可愛いっすね!」
「キュアーッ!!」
「威嚇されてるぞ」
「無遠慮に手を伸ばすからだよ〜」
許可も取らずに手を伸ばすマナーのないタイプらしい。
被害者ヅラをしているが、高尾はイラッとしてしまう。
「もう一度言うけど、奇声を上げて近づくな。他人の従魔に許可も取らずに触ろうとするな」
「酷いっすよ!」
「どっちがだ」
自分っ娘のナビゲーションAIが「向こうが正論だよ」と宥めているが、被害者ヅラしたまま「横暴っすよ!」と喚いている。
関わるのも嫌になって、さっさとギルドを後にした。
「あいつフレンドいなさそう…」
「ノーコメントです」
高尾もいないが、リアルでボッチだった訳ではないのだ。多くはないが友達はいる。
「あと説得できなさそう…」
「…ノーコメント」
モンスターとも話が通じないとテイム出来ないのだ。
とまだ勘違いしたままの高尾を、ナビが笑いを堪えて見ていたのだった。
変なのに会って気分が下がったが、フォースンのダンジョンに入って張り切る沙姫を見たらどうでも良くなった。
エルとメロディも触発されて張り切っている。
「はちみつ楽しみだって」
「…そっちなのか!?」
張り切る理由が違ったが、おやつにはちみつをかける事を約束しておいた。
薬草クッキーにちょっとかけるだけでも喜ぶのだ。はちみつ入り薬草クッキーが上手く作れない高尾の苦肉の策だった。
従魔たちは、はちみつが好きすぎる。
ダンジョンの二層目はクリアしたが、三層のモンスターが手強く感じたので、今は三層でレベル上げ中だ。
もう少しレベルが上がったら四層に行ってみようと思っている。
ここのダンジョンは全十層あるが、全ての階層が石壁と石畳の迷宮タイプだ。
代わり映えしないので飽きて来るが、レベル上げのために通っているからでもある。
「沙姫の動きが良くなったな」
「ワンピースだったから派手に動けなかったんだね。女の子らしいね!」
「そうだな…」
デフォルトの衣装はあまりヴァンパイア・プリンセス向きではなかったらしい。
見た目はとても似合っていたのだが。
「というか、魔法も活用して行くから前衛向きの衣装じゃなかったのでは?」
「でも、最前線で殴るの好きだよね」
「…そうだな」
従魔たちには個性があって、好む攻撃手段も変わるという。沙姫は前衛で暴れるのが好きなだけだろう。
もちろん種族ごとに傾向は決まっているが、ヴァンパイアは前衛も魔法も使うマルチタイプなのだ。
きっと魔法を好むヴァンパイアもいるはずだ。
「…まぁ、可愛いし強いし、問題ない」
「おっとりしたイメージは、ギャップ萌え狙いだったのかな」
「ランダムで決まるものじゃないのか、そういうの…」
ネームドキャラならともかく、無数にいる従魔たちを一体ずつ設定しているはずがない。
ないはずだ。
非公開情報なので高尾には断言できない。
ナビは笑うだけで教えようとしなかったし。
さすがにないと思うことにしたのだった。




