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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 32 話 ダンジョンを攻略しよう

 フォースンの街にあるダンジョンへの立入許可を貰うために受けたクエストは、街の近くで規定数のモンスターを狩って素材を納品するだけの簡単なものだった。


 素材もほぼ確定でドロップするようなものだったから、変に沼ることもなかった。


 サクッとクエストを終わらせた高尾(たかお)は、さっそくダンジョンにやって来た。

 似たような時期に始めたプレイヤーなのか、ダンジョンの周辺に何人か集まっている。


「…パーティメンバー待ちか」

「そんな雰囲気だねぇ」


 楽しそうな空気から目を逸らして高尾は1人でダンジョンに入る。一応立っている見張りの兵たちは、許可証を提示すればすぐに入口を開いてくれた。


 入口と言っても後から作ったバリケードのような壁にある扉で、ダンジョンそのものの入口はさらに奥にあった。


「このゲームのダンジョンは、こういう感じか」

「定番のなんかウネウネした膜のような物をくぐり抜けるタイプだよ!見るからに異空間に繋がってそう!」

「転移ゲートのほうがマシだな」


 プレイヤー1人1人に付いているナビゲーションAIのナビと会話する。

 1人だが独り言を言っている訳ではないのだ。


 高尾はやや嫌悪感を示しながらも、思いきってウネウネした膜っぽい入口に突入する。

 覚悟したような感触はなく、すっと通り抜けていた。


「…空気の壁すらなかった!」

「気持ち悪いって絶不評だったからね…」


 改善されて何も感じない仕様になったそうだ。でもちょっと味気ない気もした。


 入口を少々眺めてしまったが、高尾は別のことを確認した。


「ダンジョン内では他のプレイヤーとはバッティングしないんだよな」

「隔離された別空間になってるから、入場時にパーティを組んでいたメンバーしか存在しないね。マップ機能も働くから、迷子になる人は稀だよ」

「皆無ではないのか…」

「自称方向音痴って、むしろ地図が読めてない気がするんだ…」


 センシティブな話題なので高尾は追及しなかった。

 知り合いの自称方向音痴も地図を見ながら迷子になるタイプだったのだ。話が通じないことは身に染みて分かる。


 何故迷うのかは理解不能だが。


「でもナビゲーションAIが出口までナビゲーションするんだろう?」

「そこを右折してって言うと左折する自称方向音痴もいたね…」

「左右が分かってないのは方向音痴以前の問題だろ…」


 このゲーム、18歳未満はいないはずなのに、世界は広いということか。


 などと考えていても時間の無駄なので、人目を気にしないで従魔たちを召喚した。


 エンジェリック・ラビットのエルと、ヴァンパイア・プリンセスの沙姫(さき)、そしてキュアバードのメロディだ。

 みんな他者に見られると面倒くさいことになる人気者ばかりである。


 なので街では連れ歩かないようにしている。


「ここが最深部に悪魔の出るダンジョンだ。アンデッド系は出ない…よな?」

「ちゃんとギルドで情報収集しないと駄目だよ〜。減点1」

「ぴゅい!」


 アンデッド系が苦手なエルにも怒られたが、廃城のほうに出るからか、ダンジョンには出ないそうだ。

 廃城はダンジョンを完全クリアしてから行く予定だ。


「まずは一層目のクリアを目指そう。十層まであるらしいぞ」


 一度クリアした階層はスキップ出来るので、一階層ずつ数日に分けて攻略を進められる。


 そうじゃないとエンジョイ勢にはクリア不可能なボリュームだからだろう。


 高尾も今は廃人ばりにゲームで遊んでいるが、春休みの間だけである。

 大学に入学したら、あんまり遊べないだろうなと思う。


 ゲーム内の自宅で従魔たちを愛でるだけでも楽しく過ごせる気はしていた。






 ダンジョン内は石壁に石畳の、いかにもなオーソドックスな迷宮タイプだった。


 しかしダンジョンと聞いて真っ先に思い浮かぶ雰囲気のほうが、高尾はテンションが上がる。

 そういうプレイヤーは多いはずだ。


 一層目に出て来るモンスターも、ジメジメしたダンジョンに生息しているイメージが多かった。


「ネズミの進化形とかコウモリの進化形だよな」

「倒しちゃったから幼体が貰えなくなったねぇ」

「…1人1回までだろ?」

「誰がそんなこと言ったの?」


 コウモリ型のモンスターを倒したらナビがそんなことを言い出した。

 条件さえ満たしていれば複数回発生するイベントだったらしい。


 いや、コウモリの幼体が欲しかった訳ではないので特に困らないが。

 ヴァンパイア系の従魔が増えれば戦力の大幅増強になるが、そんなに上手く行くと思えないし。


 高尾は聞かなかったことにして、ダンジョンを進んだ。

 定番のゴブリンはいないが、森の奥に集落があるからこちらには出さなかったのだろう。


「スライムもいるんだな」

「クリーパーよりはマシって評判だね。ここのスライムは種族値1の最弱だから良いけど、進化形は手強くなるよ〜」

「クリーパーと比較されるタイプの嫌らしさなのか…?」

「呑み込まれると継続ダメージを食らうけど、脱出が難しいんだよね」

「ぴゅい…」


 エルがフロッグを思い出す顔になっている。あれは沼に引きずり込まれただけだったが、脱出が困難だったようだ。

 モンスターに呑み込まれるとか、トラウマになりそうな話だ。


「あ、服を溶かしてエロ展開にはなりませんから!良く聞かれるけど!」

「まぁ、服に耐久値とかないからな」


 攻撃を受けると破ける演出はあるが、腕や脚くらいだ。しかも回復魔法で傷と一緒に直る。そんな演出だけなのだ。


 18禁ゲームと言っても、そういう方向性のゲームではない。


「え〜、男たちは期待に満ちた顔で聞くところなのに〜」

「お前は沙姫にそんな役割をさせる気か!」

「…フレンドのいない高尾には沙姫しかいなかった!」


 高尾はスライムに溶かされた服より、可愛い服を着せて愛でたい。


「そうだった…沙姫の服…」

「とりあえず既成品で間に合わせたら?いつになるか分からないし」

「初期状態のままよりは良いかもな」


 こだわりの可愛い服!と思ったせいで、まだ買っていなかった。

 難易度が高いので、買いやすい服から始めるほうが良さそうだ。


 何色が良いだろうと相談しながらダンジョンを進む。

 暢気に話せるくらい、一階層は余裕で進める難易度だったのだ。


 続けて二層目も様子を見に行こうかなと思っているところである。


「レベル上げ目的なら、もっと奥に行かないと駄目そうだな」

「一層目はお試しだからね。次から難易度が爆上がりする訳じゃないけど」

「この先、いろんなダンジョンが出て来るんだよな」

「次のフィフスンの街の近くにもあるし、王都近郊にもあるね。街ごとに必ずある訳じゃないけど、けっこう出て来るかな?」


 フィールドの探索だけではなくなるので、さらにやる事が増えそうだ。

 現在の最前線にたどり着くのに何年かかるだろう…新規が入っても年単位で時間がかかるとか、追いつかせる気が感じられない。


 高尾も数カ月かければ追いつくだろう、という楽観は捨てたのだった。






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