第 30 話 フォースンに行こう
サードンの街周辺でのレベル上げは順調だ。
新しく回復魔法の使い手が加わったので、多少の被ダメージはリカバリー出来るとなれば無茶も効く。
高尾が一応タンクの役割をしているので、可愛い従魔たちではなく自分がダメージを受けるだけだし。
新発見の素材も多いのでフィールドの探索も楽しい。
だがイベントは特に起きなかったので、語ることなどないまま数日が過ぎた。
「不気味なほど平和だった」
「トラブルが起きないと物足りないなんて…何か目覚めちゃったんじゃないかな」
「物足りないんじゃなくて、嵐の前の静けさ的な不安だ!」
「ぴゅい…」
始まりの街ファストでの騒ぎがちょっとトラウマなだけである。
だが普通のMMOゲームなら、5年遅れで始めたプレイヤーが過疎った世界で過ごしているような雰囲気はおかしくないだろう。
他のプレイヤーはもっと先の国に行ってしまったので、序盤の国にはいないだけだ。
高尾はファストに買った自宅で従魔たちと過ごしながら、ナビゲーションAIのナビ相手に愚痴っていた。
悪い予感がするのだ。
高尾の予感なんてマグレ以外で当たったためしがないけど。
「両手にウサギの状態で言われてもさ〜」
「ウッちゃんとサッちゃんが可愛いからいけない」
ウサギたちの名前は悩んだ挙句に、ウッちゃんとサッちゃんになった。
ウサギのウとサである。
高尾にネーミングセンスを求めてはいけない。
エンジェリック・ラビットのエルはヴァンパイア・プリンセスの沙姫の膝の上だ。撫でられて気持ち良さそうにしている。
撫でている沙姫も満足そうだ。
回復担当のキュアバードのメロディはお気に入りの止まり木で休んでいた。従魔屋で買った家具である。
「でもそろそろフォースンに行くんでしょ?」
「俺も見習いを卒業して騎士に昇格したからな」
剣士系の3次職に転職したのだ。
平騎士でも見た目を騎士団の制服に変える『騎士フォーム』システムも解禁だ。
制服のある職業なら他のフォームもあるらしい。興味がないのでそれ以上は聞いていなかった。
ただし見た目だけなので、騎士団の制服の実物は持っていない。そういうものだそうだ。
「フォースン…タイニーモンキー以外の情報が思い出せない…」
「どんだけ楽しみなの、タイニーモンキー」
「……あ、港街だったな!」
「目覚まし時計より高性能だから言ってあげるけど。フォースンの英雄」
「…墓場で会ったゴーストだな!」
スカッと忘れていたのでナビの恨みがましい嫌味にも気付かなかった。
そんな話をした気もする。
とにかく商業都市セカンから西に向かって、フォースンの街に行くことにしたのだった。
レベルを上げれば上げるほど、種族値の高い従魔たちとステータスに開きが出来るが、高尾も諦めた。
序盤で手に入れる従魔ではなかったが、可愛いので手放せない。
「そういえばウサギの幼体は種族値2や3に進化したプレイヤーならいたんだろう?序盤は活躍したのか?」
「育てもせずに売ったプレイヤーばっかりだよ。ウサギは弱いって決めつけて。育てるタイプは掲示板でアピールしないから、一部の人しか気付かなかった設定だね!」
セカンからフォースンに向かう街道を歩きながらナビに尋ねたら、残念な答えが返って来た。
高尾も最初と最終進化形のウサギ以外はあんまり可愛くないと思ったが、検証する者もいなかったようだ。
「このゲーム、全世界で販売本数百万本突破とか宣伝してなかったか?」
「まだ没入型VR機器は高価でプレイ人口が控え目だよね〜」
「そうかな…」
百万人もプレイしているなんてかなり多い気がするのだが、ハードの普及率が上がればもっと増えるというナビの主張も分かる。
それはともかく、そんなにプレイヤーがいるのに気付く者が少なかったという所は疑問だ。
「でも他の従魔たちを育てて、種族値の重要性は気付くものだろう?」
「ウサギとドラゴンだけじゃなくて、種族値以外でも能力に差があるモンスターもいるからね。強い従魔に注目が集まって、序盤のウサギの検証なんてしないんだよ」
「なるほど」
気付く頃にはいろんな従魔が登場していたのだろう。そして先ばかり見て、序盤のウサギなんて見向きもしないのだ。
高尾も可愛くなかったら気にしなかったかもしれない。
「例えばコウモリの進化形のヴァンパイアとバットは、同じ種族値ならステータスの上昇量は同じなんだけど、装備で上乗せ出来る分だけヴァンパイアが上なんだよ」
「…確かに」
「強い従魔って、ステータスだけで決まらないんだよね。ドラゴンは最強生物だけど装備は出来ないから、もしかしたらドラゴンより強い従魔がいるかもしれないよ!」
「沙姫に最前線の装備を着けたらドラゴンより強くなれるのか?」
「レベルも最前線のドラゴンくらいまで上げたら…どうだろうね〜」
ヴァンパイアにはさらにキングやクイーンがいるのだ。種族値10は伊達ではないだろう。
「クイーンも服や装備で痴女化が防げるのか?だとしてもプリンセスのままでいて欲しいけど」
「大丈夫だよ!エンジェリック・ラビットと同じで、進化に必要なイベントが未クリアだからね!」
何も大丈夫ではないが、たとえイベントがクリアされても進化の条件が厳しい気がする。
高尾には手が届かないことだろう。
「キュアバードの最終進化はアンロックされてないのか?」
「まぁね。回復担当だから手前の種族でも間に合ってるって、問題視するプレイヤーが少ないだけだよ。それにプレイヤーが回復担当するタイプが主流だし」
「それもそうか…」
従魔士系なら自分で魔法を使う者が多い。
騎士系で従魔を使う高尾は邪道だろう。
フレンドが出来ないのだから仕方がない。
フレンドが出来ても、フレンドより従魔のほうが強いだろうけど。
セカンとフォースンの間にいるボスモンスターも、沙姫の敵ではなかった。
やっぱり高尾にはちょっとキツい相手だったので、早く強くなりたいものだ。
フォースンの街に入って、教会とギルドに行ってから高尾は本屋に来ていた。
フォースンの英雄について書かれた本があると聞いた覚えがあった。
「確か『タルスティン・サーガ』には入ってない英雄伝説だって言ってたよな」
「さて問題です。誰が言っていたのでしょうか?」
「…英雄のゴースト、じゃなかった事は覚えてる」
「ギルドの受付嬢だよ〜。あんまり知り合いいないでしょ」
余計なお世話だが、そういう情報を聞く相手は限られていた。
ギルドの受付嬢たちは1番聞きやすいし。
ナビと話しながら探してみたが、タイトルが分からなかったので店員に尋ねた。
異邦人が探してるなんて珍しいと驚かれたものだ。
「街の南東に、今は廃城となってモンスターたちが棲みついている場所があるんですが、そこがかつて英雄が住んでいた城なんですよ」
「街の郊外に城を構えて住めるものなんだな、英雄って」
何をした人物なのかは、本を読めば分かることだ。店員も購入前にネタバレはしなかった。
「そうだ、『タルスティン・サーガ』は売ってないよな」
「あれは絶版になっていて、うちには入って来ませんねぇ」
「やはり古本屋で探すしかないのか…」
レアアイテムはなかなか見つからないものだった。
たまに他の街の古本屋を覗いているのだが、入荷自体がないと言われるばかりだ。
「こういう運要素キライ…」
「昔から言われてるね!」
言われても改善しないまま5周年なのだ。
今後も変える気がなさそうだった。




