第 29 話 キュアバードをテイムしよう
高尾は従魔のエルと沙姫を連れて、サードンの街の近郊の森に来ていた。
回復魔法を使うモンスター、キュアバードをテイムするためだ。
逃げ足が速いので難航中だった。
「まず捕獲する方法を考えるべきか…」
「罠にかかるほど頭が悪くないんだよね〜。慎重なタイプの種族だし〜」
ナビゲーションAIのナビは攻略情報は教えられないと言いながらも、ヒントくらいは出して来る。本当にヒントかどうかはともかく。
「エルの素早さを活かして捕まえられないか?」
「ぴゅい〜…」
エルは「ボクよりすばしっこい気がするなぁ」というように渋い反応だ。
ちょっと無茶振りだったようだが、そんな反応も可愛い。
沙姫が何かを思いついたようで、エルを掴んでぶん投げる動きをしていたが、エルに抗議されて諦めたようだ。
沙姫はおっとりさんに見えて、時々豪快である。
相談しながら、他の従魔士たちはどうしているのだろうと思う。
従魔協会で聞けば教えてもらえるだろうか。
いや、チュートリアル以上の話は出て来ない気がする。
かと言ってプレイヤーには聞けない。敬遠されたままだから。
良い案が出ないままキュアバードを発見したが、追いかけても追いつくことすら不可能だった。
「ぴゅい!」
そうだ!とばかりにエルが声を上げて、何かを訴えて来た。
可愛いことは分かる。
沙姫には理解できたようで、より分かりやすいジェスチャーで再現してくれた。人型だからこそである。
「団扇であおぐ仕草…はちみつ採取か!」
「ぴゅいー!」
「でも蜂以外にも効くのか、アレ?」
「他のプレイヤーにはない発想だね」
ナビがおかしげに笑って言う。
つまり試したプレイヤーはいないということだ。
はちみつ採取は時間があれば毎日行きたいものなので、眠らせるお香はたくさん買い込んである。
ちょっと実験してみることにした。
結果を先に言えば、眠りのお香は効果抜群だった。
眠ったキュアバードを鳥かごに入れてしまえば逃げられない。
テイムはしていないが。
「アリなのか、これ…」
「テイムを試みる間の一時的な行為なら大丈夫だよ。このまま売るのは違法だね」
「キュアッ」
鳥かごの中のキュアバードが絶望的な声で鳴いている。
人さらいに捕まった被害者のようだ。
いや、被害者なのか。
「だが説得できれば合法だ…!」
「悪人のセリフだね!」
「とりあえず薬草クッキーでも食べるか?」
エルと沙姫にもおやつとして渡す。
美味しそうに食べる姿と現物の匂いに興味を惹かれたようで、鳥かごの中のキュアバードも恐る恐る食べ始めた。
気に入ったようで、すぐに完食していたものだ。
今回のキュアバードはパステルグリーンの可愛い色合いなのだが高尾の欲しいカラーではないので、従魔屋に持ち込むか従魔協会のクエストで納品することになるだろう。
求めるオレンジの子が見つからなかった時は、テイム出来た中から選ぶつもりだが。
自宅を手に入れたことでテイム可能な従魔の数がかなり増えたこともあり、眠らせて捕獲する戦法で次々にキュアバードをテイムした。
ノンアクティブどころか逃走タイプなので、美味しいおやつと説得だけで比較的簡単にテイム出来たものだ。
「すごいな、エルの発見した方法…!」
「ぴゅいっ!」
プレイヤーたちは知らないらしいが、教えてやる義務も義理もないので、秘伝の手段にしておく。
でもテイムし過ぎると「あいつ可怪しい」と言われそうなので、ほどほどにしておいた。
無事にオレンジのキュアバードがテイム出来たので、用がなくなったとも言う。
高尾の新しい仲間のキュアバードには、メロディという名前をつけた。
ネットでいろいろと調べたのだが、可愛い名前が多くて逆に分からなくなったのだ。
さえずる声がメロディアスで可愛いからメロディにしよう!とシンプルに決めただけである。
「なんでヴァンパイア・プリンセスは話せないんだ?」
「会話可能なモンスターは特別って設定だからね。可愛い女の子の姿でガウとかギャアって言うくらいなら、無口なほうが可愛いよね!という結論に至ったらしいよ」
「…モンスターらしい鳴き声か…」
確かに沙姫は無言で微笑んでいるだけで充分な気がして来た。ミステリアスだし。
「悪魔系は『ギッヒッヒッ』って嗤うけど」
「なるほどな」
まだ見たことはないが、悪魔系はそんな設定にするような外見ということだ。
噂で聞く限り、可愛いモンスターではない。
「とにかく回復よろしくな、メロディ」
「キュアッ!」
「頼もしい…!」
高尾の効果の低い回復魔法はほぼ役に立っていなかったので、今までポーション頼みだったのだ。
セカンで苦くない薬草が採取できるから高尾の自作だが、それでも時間と労力が余計な所にかかっている気がしていた。
どうせならファストで従魔のおやつ用の薬草を採取して、薬草クッキーを作る時間に回したかったのだ。
薬草クッキーが増やせるのなら飼える従魔の数も増える。
夢のウサギの家を今こそ…!
と思ったが、戦力にならない従魔ばかりでは行き詰まった時に困る。行き詰まったからと可愛い従魔とお別れするくらいなら、最初から飼わないほうがマシだ。
一度手に入れたペットは手放せないタイプなのだった。
従魔屋にキュアバードを売りに行くと、店主がニッコニコで全て買い取った。
おじさんNPCなので、別に見ていて楽しい訳ではない。
「キュアバードなら街を連れて歩けるよな」
「珍しくはないのですが、連れて歩いていると高確率で声をかけられ、あれこれ聞かれるらしいですよ。自分でテイムしたのか、いつ買ったんだ、まだ売ってるのか、譲ってくれ、テイムして来てくれ、と」
「…面倒くさい奴だな」
「人気の従魔だからね!」
ナビは笑い転げているが、店主は遠い目で「次はいつ入荷するんだ、テイムして来たのは誰だ、早く次を入れろ、予約させろ…」と呟いている。
迷惑な客が押しかけて来るようだ。
差し引いても喜べる従魔なのだろう。
「フォースンに行ったらタイニーモンキーという人気の従魔のテイムに挑戦する予定なんだが…」
「キュアバードの10倍品薄ですよ。当店には一度も入荷したことがありませんから!」
「そんなにか…」
「まず出現率が低いそうです。そして逃げ足が速いらしいですよ」
やっと出たと思ったら逃げ切られる奴だ。
遭遇するだけで何時間かかったと思ってるんだ…!と別のゲームでコントローラーを投げ捨てたくなった日のことを思い出した。
ナビの言っていた銀月鳥も影すら見なかったし、出現率の低いモンスターは沼ると酷い目に遭う。
「その出現率は銀月鳥レベルか?フォレストタイガーくらいか?」
「さすがに銀月鳥ほどじゃないですよ。目撃情報すら稀ですからね」
フォレストタイガーくらいならまだマシだ。
1、2時間に1回は遭遇したので。
沙姫が全て倒してくれたものである。
「それなら、連れ歩きは普通のウサギしか出来ないな」
「ウサギなら誰も根掘り葉掘り聞かないね」
テイムしやすいし、店でもたくさん売っている。
「そのうちフクロウも迎えたいんだが、連れ歩きは危険なほうか?」
「いえ、他国にも種族値の高いフクロウが生息していますし、テイムの難易度もそこまで高くないので大丈夫なはずですよ」
この国だと買い占めるフクロウ好きの貴族がいるらしいが、他の国では従魔屋でも買いやすいようだ。
優秀な魔法アタッカーなので、序盤は入手しにくい調整でも入れたのかもしれない。
「種族値か…聞くの忘れてたけど、キュアバードも進化するよな」
「進化しても小鳥サイズのままで可愛いですし、分岐もないので迷わず育てられますね」
「種族値が上がるとテイムの難度も上がるからね〜。種族値1のキュアバードすら入手困難なのに」
つまり買うなら種族値1のキュアバードしかいないという事だろう。
こんな序盤の街でマメにチェックするプレイヤーがいるっぽいのも、ここが1番可能性が高いからだろうか。
でも街をうろつく時間があるのなら、自分でテイムすれば良いのにと思ってしまう。戦闘が駄目だった人は仕方がないが、テイム方法を工夫する努力くらいは出来るだろう。
従魔に聞いたら方法を閃いてくれたが、あれは特殊な例外なのかどうか。
「まぁ、目的は果たしたし、レベル上げしよう」
「またお売り頂ける従魔をテイムした時は、よろしくお願いしますね」
もっとテイムして来い!なんて言わない店主に高尾も頷き返した。
納品クエストのついでにテイムすることもあるだろうし、金策にもなる。
余裕があったらテイムしようと思ったのだった。




