第 28 話 虎と戦ってみよう
予想はしていたが、セカンから東のサードンの街に向かう街道の途中に出現するボスは沙姫の敵ではなかった。
でも沙姫がいなかったら、高尾にはまだ勝てそうにない強さだった。
このまま沙姫頼みのバトルを続けたくはないが、5年分の遅れを取り戻すには多少の妥協も必要だろう。
それに従魔は主人の役に立てることを喜ぶようなので、沙姫が「褒めてもらえるかな」という可愛い顔を向けて来るのだ。
おおいに活躍してもらいたい。
「さすが沙姫だ。頼りになる。エルもナイス遊撃だったぞ」
「ぴゅい!」
王冠のアクセサリーを着けたエルが誇らしげにドヤっている。そんなエルを抱えて沙姫ははにかんだ。
従魔たちは性格によって反応が違う。
見た目や性格が全く同じ従魔はいないらしい。
そういう作り込みは凄いな、と思うゲームだった。
おかげで愛玩用のウサギ選びにかなり時間をかけてしまったが、可愛い仲間が増えたので家で過ごすだけで楽しくなった。
ウサギ仲間なのでエルも一緒に遊んでいるし、沙姫も愛でていたものだ。
次はサードンで回復魔法が使えるキュアバードというモンスターを従魔に迎える予定だし、その次のフォースンではタイニーモンキーというペット枠の猿を仲間にしたい。
高尾の目的が10割可愛い従魔探しになっているが、フレンドが作れない現状、そういう方面に向かってしまうのも仕方がなかった。
さらに街道を進んでサードンの街に到着した。
街が見えて来た辺りで従魔たちは送還したが、ボス以外なら高尾だけでも倒せるモンスターしか街道近くには出て来ない。
お供がナビゲーションAIのナビだけになってしまうが、余計な騒ぎにならないように行動したい。
教会の転移ゲートで登録してから、高尾は気付いた。
「普通のウサギなら連れ歩いても良かったのか!?」
「家でみんなで遊んでるんじゃないかな」
「…帰りたくなることを言うな…」
特にエルがウサギたちにボス戦の話をしている姿が思い浮かぶ。
ぴゅいぴゅい言っているだけだが、コミュニケーションを取る様子は尊いものだった。
今日は諦めて、予定通り1人で初めて来た街を見て回ることにした。
セカンが王都に次ぐ大都市という設定上、サードンのほうが規模が小さいらしいが、ゲームの進行順で考えるとセカンに入って来ない物も多い。
そのため東の隣国から輸入されて来る品物が並ぶ市場は、かなりの賑わいを見せていた。
東の国境はかなりレベルを上げないと勝てないボスが立ち塞がっているので、大人しく正規ルートの王都を目指して南の国へ向かうしかない。
新人が高レベルのプレイヤーにキャリーしてもらって突破する動画があったが、メインストーリーの進行は狂うものの、問題なくクリア出来る仕様ではあった。
そこまでして行く魅力のある国でもなかったので、ネタ検証で終わった話だが。
高尾はギルドに寄って街の情報をいくつか仕入れてから市場にやって来た。
ここのサブクエストはけっこう有名で、迂闊に発生させるとしばらく拘束されてしまう。
なので高尾はスルー予定だ。
報酬もしょぼいし。
「この辺りの果物は、サードン周辺の森で採れるのか」
「冒険者なら自分で採りに行ったほうが経済的だね〜」
まだオークションで手に入れた金は残っているが、高尾も無駄遣いはせずに歩く。
でも東からの輸入品は少し買ってしまった。当分行けない国なので、買うしかないのだ。
美味しく食べる以外に用途がない点には目をつむる。
従魔たちへの土産も物色しながら歩いていると、プレイヤーらしき集団が遠くに見えた。
可愛い従魔を連れていて、しかも女性ばかりの集団である。
「…普通に遊べていても、絶対に縁がないタイプの集団だな」
「中身は最低でも18歳だよ。少女アバターにしている時点で闇を感じるからね!」
「そういう意味じゃないぞ!」
女子高生くらいに見えたが、確かにかろうじて18歳になったばかりの可能性はあるが、若作りなのは否定できない。
しかし高尾はそんな話はしていなかった。
異性とは付き合い方が分からないだけだ。
「でも沙姫の服はああいう可愛いのがいいな」
「どこで買えるか聞く?ナンパだね!」
「他の女(従魔)に贈る服を買いたいと言ってナンパが成立するものなのか?」
「ただの口実って可能性があるよ!」
可能性はいくらでもあるだろうが、高尾は100%沙姫のためでしかない。
ナビの適当な言い草に呆れて、その件は忘れることにした。
最初から『絶対に縁がない』と言っている。
「だがウサギより犬猫のほうが人気みたいだな…」
「セカンで手軽に買えて、可愛いからね」
高尾もウサギの次くらいには可愛い仔犬や仔猫も好きだ。
今なら買えるので悩むところだが、薬草クッキーの生産量が問題だった。
料理をするより冒険したい性格なのだ。そればかりやってられない。
やはり犬猫は保留にしておくしかなさそうだった。
キュアバードが生息する森は、サードンに到達したばかりでも挑めるレベルのフィールドだ。
フォレストタイガーさえいなければ。
フォレストタイガーを沙姫が倒せるようなら高尾たちは攻略可能と言えるだろう。
ということで早速やって来た森で、出現率が低めのフォレストタイガーを探した。
低めなので運が良ければ出会わずに探索できるが、そんな賭けに出る者は少ない。
「あ、あれがキュアバードか」
「逃げちゃったね〜」
「こっそり近づく必要があるんだな」
生息数が多めのキュアバードのほうはすぐに見つかった。普通に歩いていたので、音に反応して素早く逃げてしまったが。
テイムが難しいのは逃げ足の速さもあるのだろう。
キュアバードはインコに似た小鳥で、赤青黄色緑に白や黒、さらに色の濃淡もあるのでカラーバリエーションが豊富だ。
だが出現率の低いレアカラーもあるので、好みの外見のものを探そうと思うとけっこうな沼らしい。
高尾はそこまでこだわりはないが、濃いめのビタミンカラーのほうが好みかなと思っていた。
「ここにはさらに激レアの銀月鳥がいるんだよ。ギルドに王妃様が依頼者のクエストが出されてるくらい!」
「激レアイベントのフラグか?」
「攻略情報は話せないけど、サービス開始以来、全プレイヤーに無視され続けてるね」
たまに目撃証言は出るし、掲示板にスクショが投稿されることもあるらしい。
しかしキュアバードより逃げ足が速いので、ほとんど幻の鳥扱いだそうだ。
もしテイムできたら、クエストで納品するより自分で飼うかオークションに出すだろう。
王妃のクエストは報酬が安いことでも有名らしいので。
でもイベントっぽいな、とは言われている。
割に合わないから誰かやっておいて、と全プレイヤーが擦りつけ合っているだけだ。
そもそもテイムできた者が、5年の間に1桁しかいなかった。激レアすぎる。
「そんな幻の鳥じゃなくて、虎を探そう。倒せなかったらレベル上げを頑張らないとな」
「ぴゅいっ!」
エルと沙姫が「頑張る!」と張り切っている。頼もしい。
キュアバードもテイムしたいが、説得中にフォレストタイガーが現れたら面倒なので、まずは調査が先だ。
採取をしながら森の中を歩いて回る。
時折逃げて行くキュアバードたちの姿が目に入るが、レアカラーはいなかったようだ。
「あのオレンジの子、可愛かったな」
「ぴゅい」
遠目に色しか確認できなかったが、綺麗な色だった。
「その前に出たひよこカラーは人気あるよ」
「ひよこ…黄色か。いたな」
「ふわふわのクリーム色も人気だね〜」
従魔屋に売りに行けるようなら、そういう人気カラーを狙いたいものだ。
不人気カラーは特になく、売り出されると即完売らしいけど。
「ぴゅい!ぴゅいぴゅい!」
「おお、ああいう黄色…じゃなかった!虎だった!」
「タイガーカラーも黄色だね!」
遠くに黄色が見えたのでのんびり眺めてしまったが、探していたフォレストタイガーである。
距離があったので迎撃が間に合ったが、ここはのんびりバードウォッチングを楽しめる森ではなかったのだ。
見習い騎士の高尾が盾を構えて前に出る。盾はおまけのアタッカーなのだが、パーティ構成上の都合だ。
エルと沙姫は左右に散開して、フォレストタイガーが高尾を狙って来るタイミングに合わせて攻撃する。
エルの素早い動きで隙を作り、怯んだ所に沙姫の重い一撃が決まる。
思った以上に効いている様子だ。
フォレストタイガーが沙姫にターゲットを替えそうになるが、高尾も剣で斬りつけて注意を引く。
高尾の攻撃もそれなりのダメージなのは、フォレストタイガーの防御力が低めの設定のおかげだろう。
むしろ怖いのは攻撃力なのだ。
装備を新調して来たので高尾と沙姫の防御力は上がっているが、どのくらい防げるか不明だ。
知りたいのはそこである。
だがフォレストタイガーに強力な技を使われる前に倒していた。武器を新調した沙姫の出すダメージが予想より大きかったおかげだ。
「これなら大丈夫そうだな。でもエルは気をつけるんだぞ」
「ぴゅい」
エルは防具を装備できないので打たれ弱いのだ。回避力が高いから慎重に立ち回れば行けると思う。
「あ、フォレストタイガーが仲間になりたそうに沙姫を見てる」
「…今、倒したよな?」
「稀に発生するんだよね。倒される前に仲間になりたいって思った場合、自動復活する仕様だから」
「そんな仕様があったのか…」
高尾が知らなかっただけで、周知されている仕様だった。
互角の良い戦いをした時に発生しやすいらしい。特に好戦的なモンスターの場合。
「…うちでは飼えないけど、いいのか?」
「ショックを受けてる!」
「パーティバランスを考えると席がないんだ…!」
フォレストタイガーは強くて格好いいし、高尾だって惹かれない訳ではない。
しかし欲しいのはタンクだ。あと魔法系。
フォレストタイガーはペットとしても人気らしいが、高尾は虎を飼うくらいならウサギを追加で飼いたい。
しかしテイムは成功したので、従魔屋で強い主人に出会えるように店主に頼んでみようと思ったのだった。




