第 26 話 料理は難しい
高尾は彫金師が最大レベルになったので、東の山地ではなく西の草原の先にある雑木林に来ていた。
ここにはニワトリのモンスターが生息していて、倒すと鶏肉をドロップするだけではなく、巣で採取すると玉子が手に入るのだ。
調理師ジョブのレベル上げに使えるし、カツサンドと玉子サンドが作れる。手軽なお弁当になって便利なのだ。
米があったら親子丼になっていただろう。
もちろん高尾は料理教室で学ばないと作れないけど。茹で卵なら作れるのできっと大丈夫である。たぶん。
「玉子はパンケーキなんかも作れるのかな。はちみつをかけて食べたい」
「ぴゅい!」
「いいなぁ。ボクも食べてみたいなぁ。高尾以外が作ったパンケーキ!従魔はパンケーキにも薬草を入れるの?」
「入れるのか…?」
「ぴゅい!」
薬草入りは人間にはきっと味が分からないので、満足してもらえる味に出来る自信がないがチャレンジはしてみようと思う。
薬草とはちみつを入れておけば喜ぶという単純な話ではないのだ。
薬草クッキーで失敗した経験があるから分かる。エルと沙姫にも味覚があることが。
そんな細かい設定にするなら人間に分かる味覚にしておいて欲しかったものだ。
たくさん鶏肉と玉子を手に入れた高尾は、商業都市セカンではなく始まりの街ファストのギルドに来ていた。
長くお世話になっているが、人の多い都会より過ごしやすいのだ。
まだオークションが始まらないせいで、耽美系美少年ゴーストを狙うプレイヤー(ほぼ女性)たちがいるセカンは居心地が最悪だ。
「薬草パンケーキですか…」
「ぴゅいぴゅい!」
「…美味しく出来ると良いですねぇ」
「人間には分からない味だからな…」
エンジェリック・ラビットにメロメロの受付嬢にも同意しかねる薬草パンケーキだが、普通のパンケーキの作り方なら教えてくれる講師を紹介してくれた。
クエストはないが、頼めば先生なら紹介してもらえるシステムなのは良い。
カツサンドのほうは揚げ物の講習クエストがあったので、そちらに参加すれば良さそうだ。
カツも薬草を巻いて揚げればエルたちは喜ぶのだろうか。
大葉巻きチキンカツはあった気がする。
大葉はともかく薬草…と高尾が考えていると、いつぞやの自分っ娘がギルドに入って来て何故か駆け寄って来た。
「エンジェリック・ラビットっすー!」
「ぴゅいー!!」
「…お前、学習しないな…」
またエルに威嚇されて崩れ落ちている。
受付嬢もフォロー出来ずに苦笑いだ。
ナビは無責任に笑い転げている。
「もう忘れた頃かと思ったっす…」
「エルはさらに前にあった着ぐるみ集団のことだって忘れてないぞ」
「ぴゅい!」
なんで従魔がそんなに忘れっぽいと思ったのか不明だ。ニワトリじゃあるまいに。
「忘れてたとしたって同じことしてたら同じ展開にしかならないのに!あはははは!」
「全くだな」
「ぴゅいぴゅい!」
前回の反省を活かして静かに近付くくらいはして欲しかった。
それでエルがどんな反応をするのか不明だが。
「そ、そうっす!耽美系美少年ゴーストの噂を聞いたっすよ!見てみたいっす!」
「従魔屋に渡したからもう俺の手元にはいない」
「噂ばっかりでスクショもないっすよ!」
「知らん」
高尾が契約中は従魔も撮影禁止に設定していたせいだろうが、手放したあとはNPCの管理下にあったから撮影は出来たかもしれない。
従魔屋がどこで管理しているのか知らないが。
だがスクショもないのに噂だけで群がって来るプレイヤーたちも怖いものである。
誰に見られていたのか分からないが。
「美少年に見えるけどボーイッシュな女の子だ!って言い張ってオークションに参加する男も多いみたいっすよ」
「競り落とした挙げ句に噂通り男だと思い知らされるのか…」
「やっぱり男のゴーストなんすね…」
アホがどうなろうと高尾の知ったことではないが、勝手に思い込んでおいて「騙したな!」と喚く人種もいるので面倒くさい。
高尾はプレイヤー相手に売る気すらなかったのに。
プレイヤーがちゃんとおやつの薬草クッキーを与えるのか、全く信用する気になれなかった。
チキンカツとパンケーキのレシピを教わった高尾は、お手本通りになら作れるようになった。
アレンジするとビミョーだが。
ファストのケーキ屋で薬草入りアレンジのコツを尋ねて、とりあえずエルと沙姫がビミョーな顔をせずに食べてくれる物も作れるようになった。
ケーキ屋で買った薬草クッキーのほうが好評なのは仕方がない。
従魔たちは従魔協会に預けてファストの街の通りを歩きながら、高尾は次の予定を考えた。
「オークションが終わって金が入って来たら、サードンに向かうか」
「従魔だけでボスに勝てると思うよ」
「…そんなゲームつまらないだろう!」
高尾は自分で戦って勝ちたいのだ。
従魔士系ならそれで良いとしても、高尾は騎士系で遊んでいるのだ。
従魔たちは頼れる仲間ではあるが、おんぶに抱っこで寄り掛かっていたくない。
だから自分のレベル上げを頑張っていた。
一緒に戦ってレベルを上げている従魔たちのほうが成長率が高いから、差は開く一方だとしても。
特に種族値9の沙姫は、10次職以降にならないと追いつけもしないけど。
それでも最終的にはプレイヤーのほうが強くなれる設定なのだ。
覚えるスキルの数なら比較にならないくらいである。
スキルの装備枠には限りがあるから、厳選しないとならないが。
「とにかくサードンに行くぞ!キュアバードを仲間にするぞ!」
「フクロウも仲間候補なんだよね。残る1枠はどんな従魔になるのだろうか…!」
「タンク役が欲しいな」
「手の平サイズのタイニーモンキーはいらないって言うの…!?」
「家を買って、ペットを飼う余裕が出来たらな」
某名作アニメで有名な小猿がモデルらしく、かなり可愛い従魔だそうだ。もちろん人気も高い。
応えてから高尾は考えた。
「…オークションでいくら入るんだ?」
「いくらで落札されるかなぁ。白熱しすぎて釣り上がる可能性は高いね!」
「最前線の古参プレイヤーって、どのくらい金を持ってるんだ?」
「個人情報は漏らせないなぁ」
個人情報ではなく、平均値が知りたい。
だがナビからは聞き出せないようだ。
「まぁ、終われば分かる話か。とりあえずエルと沙姫にアクセサリーを買って、沙姫の衣装も作ってもらって…余ったら装備…いや、スキル…」
「オークションでそんな初心者レベルの金しか動かないなんて、そんな…!」
「…両方買えるな!」
高尾が買いたい物は確かに初心者レベルの価格である。全部買っても余るに違いない。
かと言って攻撃力50くらいしかない初心者が、最前線の攻撃力100,000の武器を手に入れるのは何か違う気もする。
あっという間に追いつけそうだけど。
そして沙姫に装備させたら永遠に無双してそう。
「…周年記念の武器、けち臭いと思ったけど、最前線で使える武器なんて渡されたらゲームがつまらなくなってたな」
「ようやく運営の意図を理解したんだね」
「沙姫が強すぎるからな…」
強いのは良いのだが、ゲームバランスが崩壊しているのも事実である。高尾は楽しくゲームで遊びたいのであって、作業ゲーと化したRPGなど楽しめないタイプだ。
ストーリーを追いかけてもRPGというより、シナリオを読む(聞く)だけのものになるだろう。
「あ、家はいくらで買えるものか、一応確認しておくか。ギルドで聞けば良いのか?」
「街によって変わるよ」
「兎の街が良い。静かだし」
南の草原に出れば兎の楽園があるのだ。
従魔たちが喜ぶ薬草も採り放題だし。
人の多い都会は嫌いなタイプの連中が多いし。
「ところで薬草は、この街以外でも従魔の好む味のものを育てられるのか?」
「この街でも育てた薬草は苦くないから、ポーションの素材になってるよ!」
「…薬草畑はいらなかった!?」
知っていて誤解を招く発言をしていたナビが笑い転げている。
きっと買う金がないうちは冗談で済むとでも思っていたのだろう。
さすがに騙したまま購入するのを黙って見ているほど酷い事はしない、と思っていたい。
信用はしていないが、運営も放置しないだろう。きっと。




