第 25 話 採掘しよう
耽美系美少年ゴーストは結局オークション形式での販売になったので、しばらく代金が入って来ない。
ゴーストが平気なら自分でテイムすれば良いのにと高尾は思ったが、出現率の問題があった。美形のゴーストは珍しいのである。
「廃人とか、ずっと張ってれば見つかりそうなものなのにな」
「他にやりたいことがあるんだよ」
新人プレイヤーがテイムした従魔をオークションで競り合う古参とかいう意味の分からない状況なので、高尾は愚痴りたい気分だった。
ゴーストなんてたくさんいるだろ、という気持ちと言うか。
翌日もなるべく見目の良いゴーストをテイムして来たが、従魔屋は機嫌良く買い取っていた。住民NPCたちに売れるのは疑問に感じないのだが、古参プレイヤーたちが今さら買いに来るのは疑問しかない。
ついでにスケルトン1体を従魔協会の納品クエストに出してクリアしておいた。
スケルトンもけっこう話の分かる奴だった。生前は人間だったらしい。
骨しかないけどモンスターだから薬草クッキーも美味しく食べていたものだ。
「ゾンビ系、たとえ話が通じても見た目がな…」
「差別だ!」
「好みじゃない顔の男アバターを差別してなかったか、お前」
「それは好みじゃない男が悪い」
ナビゲーションAIのナビは悪びれもしないが、見た目も重要なのだ。グロテスクなものは高尾も苦手なのである。
没入型VRはリアルすぎて、ゾンビ系は気持ち悪いだけだった。
「しばらくしたら金が入るようだし、金策は切り上げてレベル上げをしよう。でも沙姫の服は早く替えたい」
「プレイヤーが集まって来てるから時期が悪いよ」
「…そうだったな」
耽美系美少年より種族値9のヴァンパイア・プリンセスの美少女のほうがバレたら大騒ぎだろう。
落ち着くまで街で連れ歩くのは止めておく。
もちろんエンジェリック・ラビットのエルも街では連れて歩いていない。
「どこでレベル上げしよう」
「東の山でついでに採掘して、彫金師のコンプリートもこなすのがおすすめ!基本ジョブだからね!」
「そういえば鉱石素材がなくて放置してた」
彫金師から派生する生産職は鍛冶師や細工師などの装備を作れるジョブが多い。
高尾はあまりやる気はないが、基本ジョブくらいはコンプしておきたかった。
「じゃあ…まずはギルドで『採掘』スキルを買うか」
「講習は素材が手に入ってからかな〜」
今まで必要がなかったので後回しにしていたが、採掘も必須スキルのひとつだ。採取関連は自分で持っていないと、素材の確保で困る場面があるらしい。
「講習は人の少ないファストで受けよう」
「田舎者め」
「ファストの住民たちに言えるのか」
「そんな酷いこと言わないよ!」
高尾にはためらいなく言っているが、ナビも冗談だから言っただけだろう。たぶん。
プレイヤーには何を言っても良いと思っている可能性もなくはなかった。
セカンの街の東にある山地は北のファストのほうには伸びていないが、南の王都の近くまで続いている。
さほど標高は高くないので、東のサードンの街に向かう街道は山と山の間を通り抜けることもあって、馬車でも快適に走れるそうだ。
そしてこの山地は鉱物資源が豊富なので、森と平野部のほうが広いタルスティン王国は豊かな国という設定のようだ。
西は海に面しているので、たいていの物は手に入る立地なのだ。
ついでに最初の国だからモンスターが全体的に弱くて平和である。北の秘境以外。
「ここはトカゲとヘビと岩の塊しか生息していないな」
「ヘビ嫌いのプレイヤーは近寄らない場所だよ。トカゲまでは許せてもヘビは嫌なんだって!」
「沼地は平気だったのか?」
「カエルとリザードマンは許せたみたいだね!」
トカゲとリザードマンが許せたのならヘビも大差ない気がするのだが、嫌いな人間は理屈じゃないんだ!と言い張るだけなのは知っている。
高尾の母もトカゲやヤモリは平気なのにヘビを見ると「ぎゃあー!」と品のない悲鳴を上げている。
きゃーっ、と取り繕った悲鳴を上げる余裕もなくなるらしいのだ。
高尾は平気だし、エルと沙姫も特に問題なさそうだ。
エルはゴースト相手に怯えた件を帳消しにしたいようで、いつもより張り切っていた。
でも岩の塊っぽいモンスターには、魔法か打撃武器以外が効きにくいのでヘビとトカゲを狙っている。
沙姫は拳士系の武器を装備しているので、岩の塊だって殴り壊してくれるけど。
「採掘ポイントが光って見えて便利だな」
「採掘スキルの効果だね」
従魔たちが戦ってくれるので高尾は採掘に集中できた。
従魔の納品クエストがあったのは確認して来たから、帰る前に説得する予定だ。イノシシくらい話が通じなかったら諦めるつもりである。
ここには天然の短い洞穴と廃坑があるのだが、廃坑のほうはけっこう深いし迷路のようになっている。
奥にはボスもいるらしいが、今回はそこまで行かない。まだ高尾のレベルでは敵わないボスなのだ。
沙姫なら倒してくれそうだけど。
「彫金は鉱石をインゴットに変えるところから始まるんだったか」
「まずは銅からだね!柔らかい銅の塊を彫って形を作る練習をするんだよ」
「置き物みたいな物か?木彫りの熊か」
「銅から木彫りの熊が出来るとでも…?」
「…木彫りは木工だった」
でも彫金じゃなくて木彫りからでも良かったのでは?と思う。木材なら始まりの街でも手に入ったのに。
だが木彫りだと装備品を作れるようになるまでの工程が増えるので、金属の加工から始める設定なのだろう。
プレイヤーが作りたいのは武器防具であって、木製の飾りではない。せいぜいアクセサリーくらいしか作れないので。
木刀が作れても仕方がない。
そんな余計な話をしながら採掘をして素材を集めた。彫金師ジョブがコンプリートできるまで、何回か採掘に来ることになりそうだった。
岩の塊は話が通じないタイプだったので、高尾はトカゲとヘビだけテイムして街に戻った。
街に入る前にエルと沙姫は送還したので、首にヘビを巻いてトカゲを従えて歩く人になっていた。ヘビは1メートルくらいの長さである。
門番たちにヘビはあんまり連れて歩くなと言われたが、従魔協会に納品するだけなのだ。
住民NPCたちにもヘビ嫌いはいるらしい。
「服の下に入れる訳にもいかないからな」
高尾もそこまでヘビが好きな訳ではないのだ。
「首に巻けるだけ凄いと思うけどな〜」
「マフラーくらいのサイズだったからな」
くるりと一巻きくらいなのだ。
冬の間はお世話になったサイズである。
ヘビは暖かいどころかひんやりしているので、夏のほうが活躍しそうだけど。
そしてヘビを巻いていたら、大半のプレイヤーが近付く前に逃げて行った。
街を出る前はオークションの前に買い取ろうと無駄な交渉をしに来る連中もいたのに。
すでにオークションは高尾の手を離れて従魔屋が手配しているのだ。従魔屋の主人も領主などを頼っているので、交渉するならそういう上の者じゃないと意味がない。
交渉どころか門前払いだろうけど。
「…オークションが終わるまで、俺のマフラーをやらないか?」
「自警団に怒られるよ。騎士団にも」
「こいつなら着ぐるみ集団も追い払ってくれるのでは…!?」
「ヘビ嫌いなら近付かないだろうね」
嫌われ者なんだ…と落ち込んでいたヘビだが、高尾に熱烈に求められてちょっと機嫌が良くなっていた。
嫌わない人間もいるので、そんな主人のところへ買われて行くことだろう。
従魔協会ではヘビだからと嫌がる職員もいなかったので、ヘビとトカゲは無事に納品完了した。
高尾が東の山に通う間は、ヘビを連れているのではと勘繰ったプレイヤーが近寄らなかったので、連れて歩かなくても一定の効果があったようだった。




