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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 24 話 英雄のゴースト

 夜の墓地に行くと最初は張り切っていたエルが、ゴーストを見るたびに怯えて高尾(たかお)の上着の中に入って来た。


 可愛いのだがバトルの邪魔なので送還しておいた。

 経験値は入らないが今回はレベル上げが目的ではないのだ。


「意外と話が通じるな、ゴースト」

「もとは人間だからかな」

「ゴーストになると薬草クッキーが美味しく感じるようになるのか」

「モンスター化してるからね」


 物理無効でも薬草クッキーはつまんで食べられる。ゲームの都合っぽいが、高尾は説得(テイム)しやすいので文句はない。

 ただ不思議だなと思っただけだ。


 ナビゲーションAIのナビが言うと言い訳がましく聞こえるだけで。


 沙姫(さき)はゴーストもスケルトンも怖くないようで、むしろ夜の墓地は居心地が良さそうだった。ヴァンパイア・プリンセスだからだろう。


「お、美少女のゴーストがいる」

「残念!耽美系の美少年だよ」

「…まぁ、どっちでも良いか。テイムを試してみよう」


 モブ顔が多いゴーストの中ではレアな美形である。人気が出ることだろう。

 高尾はせいぜい高値で売りつけるだけである。


 従魔用のアクセサリーを売っている店に行ったら、普通の装備より割高なおしゃれアイテムだったのだ。金策をしないと買えそうにない。

 でもエルは王冠を見て目を煌めかせていたし、沙姫に似合いそうな花がモチーフの髪飾りがあったのだ。


 むしろ高尾が沙姫に着けさせて満足したいのである。


 そのためにゴーストをテイムして従魔屋に売るのだ。

 でもゲームじゃなかったら、元人間のゴーストを売るなんて倫理的にアウトっぽいなとは思ったものだ。


 そうして高尾が夜の墓地を歩いて回っていると、沙姫と従魔化しているゴーストたちが立派な石碑のある場所を示して来た。

 石碑の側にあるのは特別な墓石のようだ。


「そういえば受付嬢から聞いたな。フォースンの英雄の墓があるって」

「そうだね」

「…まさかアレ、英雄のゴーストか?」

「モンスターではないよ」


 そんな英雄の墓石に座っているゴーストがいたのだ。モンスターではないのでただの幽霊ということだろうか。

 むしろイベントキャラかもしれない。


 高尾が近付くと、英雄の幽霊は顔を上げてから疲れたようにうなだれた。

 人生に疲れたという様子である。


「まだフォースンに行ってないから英雄の話の内容は知らないんだが、なんでうらぶれた様子なんだ?」

「…まさか、私が見えているのか?」

「他の奴には見えないのか?」

「異邦人だからじゃないかな」


 ゴーストたちは見えているので、生きている住民NPCたちには見えないという設定なのだろう。

 英雄は伝えたいことがあるらしいが、異邦人が言っただけでは信じてもらえないだろうと詳しくは語らなかった。


 イベントのフラグが足りないという奴だ。


「誰か連れて来て、引き合わせれば良いのか?」

「ここに来ても私の姿は見えないし、声も届かないだろう」

「見えるようになるアイテムがあればな」


 きっと何かキーアイテムが必要なのだろう。

 だがフォースンに行けるようになるまで進まないイベントのような気もした。


 その頃には忘れてしまいそうである。


「ナビに目覚まし時計みたいに、フォースンに着いたら『英雄イベント』って言い出す機能とかあれば便利だったのに」

「目覚まし時計以下扱いされた!」

「メモを書いておく機能くらいは欲しい」

「その程度の要望は運営に伝えておくけど、ナビゲーションAIは目覚まし時計より有能だからね!」


 ゲーム内にないので、ログアウトしたらメモを取っておこうと思ったものだ。






 三軒ある従魔屋の中では良心的だが、信頼するほど付き合いがないので高尾は従魔協会に先に確認に来ていた。


 ゴーストを3体も連れていたので、街の入口で門番たちに裏道を行くように言われたというのもある。

 従魔化していてもゴーストを怖がる住民がいるらしい。


「凄いですね!ゴーストはテイムしにくいモンスターなのに!しかも美少女と見まごう美少年のゴースト…!」

「イノシシより話の通じる奴らだったけどな」


 高尾にとって1番テイムできないのがイノシシである。

 イノシシは需要も少ないので誰も困っていないが。


 従魔屋で売るのとどっちが儲かるのか、美少年はどこで売れば1番金になるのか。

 相手がモンスターでなかったら道徳観念を問われそうな話をした。


 1体は納品クエストを勧められたが、他は従魔屋に直接売るほうが良いそうだ。

 美少年も従魔屋が良い買い取り先を探してくれるだろうとのことである。


「オークションを開けば異邦人が押し寄せるかもしれませんけど」

「…奴らに良い思い出がないからな…」


 耽美系美少年ゴースト!と押し寄せるプレイヤーの群れとか、NPCたちからの評価もツラい。

 ナビが笑い転げていたものだ。


 一応ウサギとか売ってる従魔屋で良いんだよなと確認した。見た目の良い従魔を扱う店もあったからだ。


「他の二軒は正直、値段を釣り上げすぎていて協会から注意する事が多いんですよ。違法ではないようですが、従魔たちの様子も異常に人間を憎んでいるようで…」

「なんか強そうとしか思わなかったが、言われてみれば敵意に満ちてたな」


 強い従魔を買ったのに言うことを聞かなかったという話があったから気にしていなかったが、無理矢理テイムされたにしても憎悪が強すぎるかもしれない。

 話の通じないイノシシだって、従魔化したものは従魔協会で大人しく売られていたというのに。


 強力な従魔たちは檻に入れられていたのだ。


 従魔士向けのイベントなのだろうと高尾は判断した。

 これを解決したらドラゴンが手に入るイベントという可能性も感じる。それならやってみたいが、進め方は思いつかなかった。


 いや、ドラゴンはこの国ではイベントが起きないという話だったか。


 セカンの街の従魔協会のクエストも確認して、明日はスケルトンも1体はテイムして納品しようと思う。

 報酬よりもクエストのクリア数を増やすためだ。協会に貢献したという証なので、上げておいたほうが待遇が良くなるらしい。


 もちろんギルドのほうも同じだし、騎士団のクエストも同様だ。


 クエストを片っ端からクリアしていそうな廃人クランの連中の評判は悪かったが、あれは他で何かやらかしたせいだろう。たぶん。






 従魔屋にゴーストたちを売りに行くと、裏道を歩くようにしていたのにすでに噂になっていた。プレイヤーたちの姿が多い。

 思ったより目立っていたらしい。


 まず従魔屋の店主に任せるから後にしろ!と店の周囲にいた連中は追い払った。

 店主も販売開始の日時は告知しますからと説得していた。


「オークションか…」

「あり得ますね。でも領主様にお伺いを立てて、他の貴族の方にも確認を取らなくては」


 そんな珍しい出物なのかと、逆に呆れる。

 店主は迷惑がるどころか張り切っていた。


「しかし当店でよろしかったんですか?他の二軒のほうがコネが多いでしょうし」

「従魔協会からウケが悪いみたいだからな」

「それは、まぁ、はい」


 高尾も金策したいので高く売れるほうが良いが、従魔協会から睨まれる真似はしたくない。

 それにオークション級だなんて本気で思っていなかったのだ。


 沙姫ならオークション級なのは分かる。

 エルだってオークション級だ。


「…いや待て、オークション級の従魔を買い叩く気だったのか、伊達眼鏡!」

「今ごろ気付いたの?」

「俺がこの世界に来て何日だったと思ってるんだ」


 高尾にエンジェリック・ラビットの価値など分からなかったのだ。

 可愛いペット枠の従魔くらいの認識だったし。


「国外追放されたクランの連中も巻き上げようとしてたんだよ。金なんて有り余ってるはずなのにね」

「…ドケチか」


 見ていないのでどんな連中なのか今も知らない。興味もなかった。


「国外追放なんて穏やかじゃないですね…」

「この国には入れないから気にするな」

「従魔を買いに来たとしても、向こうの強い奴しか興味ないから大丈夫だよ」


 この店に来たこともなさそうだ。

 高尾はこの国を出た後が不安ではあるが、今から心配しても仕方がない。


「それに美少年なら男たちは興味ないだろう。追放された連中に女もいたのか?」

「クランって千人規模だから、メンバーにはいたよ。メインのメンバーたちは男ばっかりだったけど」


 廃人クランと言っても千人の廃人が集まっている訳ではない。メンバーの大半は入会条件を満たしている一般プレイヤーだろう。

 その入会条件もけっこう厳しいので、エンジョイ勢より真面目にやっている層だ。


 ああいうクランはノルマも厳しいと聞く。高尾は学生だったので、他のゲームでもそこまでやっていないから聞いた話しか知らないが。


 どちらにしろプレイヤーじゃなくて、NPCに買われて行くと良いなぁと思うのだった。

 なんで嗅ぎつけられたのか分からなかった。






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