第 22 話 テイムしてみよう
「焦がすということは火が強すぎるのよ!」
料理教室に行った高尾は講師の1言で自分のどこが問題だったのか理解できた。
強火にすれば時短になる訳ではなかったらしい。
「美味しいものに近道はないのよ。弱火でじっくりコトコト煮込むと書いてあったら、時間をかけて煮込むの。いいわね?」
レシピ通りに作りなさいと言われた。
火加減もレシピに忠実にしないといけないものだったのだ。
この発見を母に伝えたら「お母さんも言ったんだけど?」と青筋を立てていた。
聞いた気がしないこともない。
強火のほうが早く出来るだろう!と返した覚えもあった。
あの頃は若かったということにして、『Arcadia』内で料理中だ。
調合と違って街の施設を借りる必要があるが、ギルドの近くで1時間100Gで利用できる。金欠でもそのくらいは払える。
「よし、見た目は焦げてないぞ!味は…人間には分からないからな、薬草クッキー」
「ぴゅい…!?」
「頼む、エル、沙姫」
エルが「毒見!?」と慄いているが、沙姫はひょいぱくとこだわらずに食べてしまった。
うんうん、と満足そうなので、エルも味見してくれた。
どうにか合格点は取れたようだ。
多めに作りたいし、薬草を採取しておきたい。
意外とやることが多かった。
料理をしたので時間が足りないため、はちみつ採取は休みにした。
今日はリザードマンのテイムを目指す予定だ。
沙姫の装備を買いたいし、デフォルトのシンプルなワンピースも可愛いが新しい服を着せてやりたい。
初期装備にシンプルなワンピースだと、とても金のない新人プレイヤーに見えるのだ。
「従魔用の見た目アクセサリーも売ってるらしいから、セカンに行ったら探してみよう」
「ぴゅいぴゅい!」
「エルも欲しいのか?…髪飾りとか…いや、帽子なら…」
エルも男の子なので可愛いリボンは怒りそうだ。何かカッコ可愛いアクセサリーが必要である。
沙姫の物は女性の店員に聞けば選んでくれるだろうから、エルのアクセサリーのほうが難題だった。
そして金策でゴーストをテイムしないといけない気がして来た。
テイムは近くの森でオオカミやイノシシ、クモで試したのだが、特にイノシシは話が通じなかった。暴走特急なのでアレは諦めたものだ。
オオカミは時間さえかければそれなりにテイムが成功した。しかし時間をかけたのにこの値段か…と思ってしまって、テイムする気が失せた。
自分の仲間にするなら時間くらいかけるけど。
クモは話をする状態に持ち込むのが大変だったが、薬草クッキーを出したらすぐに陥落していた。
あまり人気はないらしいが、裁縫師には毎日タダで素材を出してくれる従魔として需要があるそうだ。
料理人なら乳牛とか飼ってそう。
「ボクもおしゃれしたいなぁ」
「運営に言え」
「ナビゲーションAIにも着せ替えシステムがあってもいいよね!?ずっと同じ格好してるのおかしいよ!」
「だから運営に言え」
高尾はナビの服などどうでもいいし、きっと自分の好みで勝手に替えるだけである。
口を挟む気はなかった。
沙姫の服なら高尾の好みも伝えるけど。
そんな話をしながら始まりの街ファストの西門から外に出て、森を北西に進んで沼地に向かう。
何度か来ているので、ルートはほぼ確定していた。歩きやすい獣道に沿って行く。
こちらの森は昼間はクモではなくオオカミとイノシシが出る。南や東よりレベルが高いだけで同じ種族値だ。
道中に襲って来たものだけ倒して進み、沼地に出た後もカエルたちには近付かないようにして奥へ向かった。
カエルたちはアクティブ設定だが、近付きすぎなければ襲って来ないのだ。
オオカミとイノシシは遠くからでも襲って来るタイプのアクティブさだが。
そして沼地の奥にいるリザードマンたちは、テリトリーに入らなければ襲って来ないタイプである。
モンスターごとに行動が変わるのは面白い設定だと思う。
でもテリトリーに入ると一斉に襲って来るから、リザードマン戦は気をつけないと危険だった。
「テイムする1体だけ残して、テリトリーの境界あたりで迎撃するぞ。テリトリーの中にいると追加が無限に出て来るからな」
「ぴゅい」
テリトリーを守るというリザードマンの目的は果たされているのだろう。
リザードマンのボスに挑むのなら、リザードマンたちを蹴散らす戦力が必要だし。
野生のリザードマンたちは粗末な槍を手に、初期装備並みに弱い体防具を身に着けている。
モンスターだけど知能が高めの亜人という設定らしい。他にゴブリンなどもいるが、後から出る割にゴブリンはリザードマンより弱かった。
進化のバリエーションは多いらしいけど。
ゴブリンはともかくリザードマン狩りである。
高尾とエルだけではまだキツい相手なのだが、可愛い女の子の姿の沙姫が無双していた。たまに闇魔法を使っているが、基本は拳で殴り倒している。
ややおっとりしている沙姫もバトルになると機敏な動きになった。
アニメのヒロインっぽい活躍ぶりである。
高尾はリザードマンを1体確保して、テリトリーから離れる。沙姫にも後退してもらい、エルと沙姫で追撃して来たリザードマンたちを片付けた。
「よし。まずは薬草クッキーだ」
エルと沙姫もおやつに食べている。
高尾が取り押さえているリザードマンは怒っていたが、エルたちが美味しそうに食べる姿は気になったようだ。
しばらくしたら匂いを確かめてから食べていた。
「ギャウ!」
「…なんて言ってるんだ?」
「ボクはモンスターの通訳じゃないよ!でも美味いって言ってる気がするね」
「ではもう1枚」
美味いと思ったのか、今度は即座に食べている。
そんなリザードマンを説得しなくてはならないのだ。
高尾も没入型VRゲーム以外ならテイムとはスキルを使って確率で成功するものだと思っていた。
成功するまでボールを投げ続けるゲームもあった。
失敗すると逃げられて、バトルで弱らせる所からやり直しになるゲームもあった。
しかしこのゲームのテイムとは、モンスターを説得して同意を得てからテイムすると100%成功するスキルだったのだ。
説得前にテイムスキルを連発しても確率で成功はするが、MPがいくらあっても足りないので説得したほうが良い。
基本的にテイムの成功率は低いからだ。
リザードマンは亜人というだけあって話の通じる奴だった。どこかのイノシシは見習って欲しいものである。
「ナビ、おやつに薬草クッキーを出してくれる主人限定という条件は付けられると思うか?」
「行動に制限は付けられないけど、従魔協会で信用できる相手にのみ販売って形には出来るんじゃないかな。リザードマンは人気だし」
「ギャウギャウ」
人気の1言にリザードマンは「そうだろう、そうだろう」とやや得意げに頷いていた。
高尾も「リザードマンは強いからな」とご機嫌取りをしておいた。
そんな訳でリザードマンの説得方向が分かって来たので、高尾は上限いっぱいの3体のリザードマンをテイムして街に戻った。
まだ家がない高尾は、パーティの最大人数までしか契約できないのだ。エルと沙姫もいるので6人パーティ中の3体までとなる。
従魔化したリザードマンたちはちょっと人間味が増したので、高尾も仲間に欲しい気がして来たが役割が被るので諦めた。
ちなみにナビは面白いから黙っているが、このゲームでもテイムはスキルを連発して成功するまで頑張るものであって、説得し始める変人は高尾くらいだった。
ウサギのようなノンアクティブのモンスターには薬草などを差し出して仲間になってもらえるように声をかけるプレイヤーもいるが、友好的な相手だから取る手段なのである。
だが説得作戦が成功しているあたり、運営側も想定していた手段なのかもしれない。
パーティ6人は高尾+従魔なので、残りの3枠分が使えます




