第 21 話 準備期間
従魔協会の個性的な受付嬢が何か叫んで卒倒していたが、他の受付嬢たちは冷静だった。
いや、変人のおかげで冷めただけかもしれないが、ヴァンパイア・プリンセスに進化した沙姫の送還登録をテキパキとしてくれた。
その後で「初めて見ました!」と驚きと興奮を伝えて来たものだ。
エンジェリック・ラビットの時もそうだったが、ヴァンパイア・プリンセスも前例がないのでレベル1の状態のステータスを提供した。
レベルの上昇後までは教えないが、基準として参考にするそうだ。
レベル1でも多少の個体差はあるのだが、そんなに大きく変わらないものなのだ。
高尾も従魔協会で資料を見せてもらっているので、少しくらいは貢献したい。
「そうだ。回復役になる従魔と言えば何がいる?人気があるのはキュアバードとかいう小鳥だった気がする」
「そうですね。小さいので回避能力も高く、頼りになる回復特化の従魔ですね」
これは東のサードンの街の近くに生息しているので、比較的早い段階で仲間に出来る従魔なのだ。
見た目はインコだがカラバリが多いので、可愛いところも人気である。
最前線のほうではもっと能力の高い従魔が見つかっているが、そんな手の届かないものなど聞いても仕方がない。
このタルスティン王国内で契約できそうな従魔について、図鑑を見ながら教えてもらった。
人気があるだけあって、小鳥が1番手軽で能力も充分高そうだったものだ。
ついでに納品クエストが多いので、テイムして売ると儲かる従魔でもあるそうだ。
回復役ではなくペット枠で。
高尾のパーティは可愛い従魔ばかりになりそうだが、望むところだった。
エルと沙姫を連れて街を歩いたが、ヴァンパイア・プリンセスだと見抜かれていないようで、騒がれることなくケーキ屋まで来られた。
沙姫は可愛いが、プレイヤーのアバターなら居そうな外見ではある。
従魔として所有できるから男たちが騒ぐだけなのだ。気付かれていないのなら黙っていようと思う。
ケーキ屋の主人には沙姫が進化したことを伝えて、はちみつ入り薬草クッキーを売ってもらう。
普通の薬草クッキーも追加で買ったが、エルと沙姫はさっそく食べたはちみつ入りに目をキラキラさせていた。
「はちみつ入りのほうが反応が良いんだよなぁ」
「はちみつだけ舐めさせても喜んでるからな」
「ぴゅい!」
はちみつは時間がある時に積極的に入手しておいたほうが良さそうである。
高尾もはちみつ味のお菓子は好きだし。
「薬草サラダもはちみつをかけたら喜んでた」
「薬草サラダ…それは人間にも味が分かるのか?」
「薬草サラダは充分美味かった。でもはちみつをかけたら俺は駄目だったな」
薬草サラダは生野菜を切って混ぜただけなので高尾にも作れた。ドレッシングは宿屋の主人に分けてもらったので美味しかったものだ。
ただエルが「はちみつをかけたらもっと美味しいよ!」と主張していたので試してみたら、従魔しか食べられないものと化しただけだ。
エルが完食したから食材を無駄にした訳ではない。
「はちみつも従魔の好物なんだろうな」
「どう感じてるのか分からないから、納得の行くものにならないんだよなぁ」
高尾は喜んでるから良いかと思ってしまうが、プロ意識があると妥協できないようだ。
でも悩んでも分からないだろうから、どこかで妥協して早く商品化して欲しいものだ。
より美味しいものならエルたちも喜ぶだろうけど。
高尾の総合レベルは60近いのだが、沙姫がレベルを少し上げたらステータスで抜かれた。
それだけ種族値9の初期ステータスと成長値が高いということである。
でもこんな序盤で仲間にして良い強さではないなと思った。フレンドが作れない状況なのでありがたく頼りにするけど。
「エルもじきに抜かれそう…」
「ぴゅい…」
ドラゴンでも仲間にしない限り、沙姫がメインアタッカーなのは決定的だった。
エルは遊撃手ということにしておく。
高尾も前衛でアタッカーのつもりだが、指揮官ポジションということにして対面を保つ。
誰に説明する訳でもないのだが。
はちみつを採取しに行ったり、聖水の素材を集めて来たりしただけで、レベル的には格上を相手にしていたので沙姫のレベルは1日でだいぶ上がった。
これなら次の街に行けそうである。
宿屋に戻って休みながら明日の予定を立てていた。
「南のボスオオカミと同格というリザードマンのボスに勝てたら、セカンに行こう」
「結局リザードマンはテイムも試さなかったね」
「沙姫がいるから…」
リザードマンも前衛タイプなのだ。
これ以上は前衛はいらない。入れるのならタンクだろうか。
「いや、リザードマンに盾を持たせれば盾役になるのか?」
「なるとしても、攻撃力のほうが伸びる種族だよ」
「そうだよな」
防御力より攻撃力が高い種族なのだ。タンクに採用する理由がなかった。
「沙姫の装備も買い揃えたいし、金策が急務だな」
「リザードマンはけっこう高く売れるね。でもセカンに行くなら墓地でゴースト系をテイムするのも良いよ。物理無効の特性が光る場面がけっこう多いって人気!でも墓地は行くプレイヤーが少ない!」
「ゾンビが出るのか…?」
「ゴーストとスケルトンだけだよ。でも従魔化してないゴーストが怖いって言う人が多いからね」
沙姫には5周年記念装備を貰ったので使わなかった初期装備を間に合わせで装備させているが、ほぼ意味のない弱さだ。
しかし買う資金がないのである。
高尾の装備も特に買ってないのに、全然お金がない。必要なスキルに使っただけなのに。
「…初期資金500Gだけだった頃、スキルもロクに買えなかったんじゃないか?」
「効率的な進行が分からない序盤は、手探りで不自由を楽しむのも一興だよ。のんびり時間をかければお金は稼げるからね!」
「それもそうか」
未知の世界で遊ぶ場合と、効率化が進んだ後追いではプレイ感が違う。
先行者たちが1年かけたものを1ヶ月でやろうとすれば、足りないものだらけになって当然だろう。
5ヶ月くらいでは5年分は追いつけないだろうけど。
「廃人たちは我先にって進めてたけど、最新素材を時価で売って儲けられたからね〜」
「MMOってそういう世界だからな…」
今でも最新エリアの素材は高値で取り引きされていることだろう。
後続はお金で時短できるから成り立つ話である。
「リザードマン…はちみつ入り薬草クッキーでテイム出来ないかな…」
「ぴゅうぴゅう!」
「もったいない!なのか、騙すの可哀想!なのか…あ、両方みたいだよ!」
「じゃあ普通の薬草クッキー。薬草サラダのほうが好きか?薬草を添えた焼き肉とかが良いのか?」
リザードマンはモンスターであって肉食動物ではない。必ずしも肉料理に喜ぶ訳ではないらしい。
それに高尾に焼き肉が上手く作れる保証もない。
「…焼き肉屋で肉が炭化したことなんてないのに…」
「なんで単純な肉を焼くだけのことで失敗するのか分からない…」
モンスターのドロップアイテムのイノシシの肉を焼いてみたら、炭が出来たのだ。
エルと沙姫に残念そうに見られたものである。
「先に料理教室に行くか…」
「それが良いかもね〜」
食材を無駄にするよりプロに聞いたほうが確実だろう。
エルと沙姫も積極的に同意していたのだった。




