第 19 話 コウモリの幼体
従魔協会に毛玉──モンスターの幼体を連れて行くと、個性的な受付嬢が「天使の子供!?」と叫んでいたが、高尾は別の受付嬢にモンスター図鑑を見せてもらった。
「バットイーターを倒したらコウモリたちが幼体をくれたんだ。女の子がいいなって言ったら取り替えてくれるサービス付きだった」
「この女好き〜」
「もしも美少年ヴァンパイアに進化したら…腐の付く連中がどんな妄想をすると思ってるんだ!」
「ボクの傑作美青年と美少年ヴァンパイアのコンビ、だと…!?」
ナビゲーションAIのナビが慄いているが、高尾もオタク寄りのゲーマーだから分かる。
美青年と美少年が並んで歩いているだけで妄想の捗る連中が存在するのだと。
アバターは何でも良かったが、妄想の対象にされるのは嫌である。
それなら美少女を連れて歩いて男たちに嫉妬されるほうが良い。
……いや、先日おかしな連中に殺されかけたなと思い出す。男の嫉妬も大概だった。
とはいえコウモリの幼体が何に進化するのか不明なので、捕らぬ狸の皮算用というものだ。
「コウモリはいろんな進化をするんだな」
「進化先が多い種族ですね」
ルートは大きく分けてふたつだが、ビッグバットなどのコウモリのままのルートとヴァンパイアだ。
バット系統もいろいろ変わるが、ヴァンパイアは男女で別のルートになる。
ヴァンパイアキッズからノーマルなヴァンパイアに進化し、男ならプリンス、キングとなる。女はプリンセスとクイーンだ。
キングとクイーンは種族値10である。
種族値は人間たちのジョブに相当するものなので、10次職みたいなものだ。上位になるほどステータスの補正値が増えるため、種族値が高いほど強いということなのだ。
弱いほうのウサギだって最終進化形のエンジェリック・ラビットは種族値5のため、高尾より強くなっている。
なるべく種族値が高いと嬉しいというものだ。
「俺の希望はプリンセスだが、好きに進化していいからな。でもクイーンは嫌だな…」
「最終進化形の何がご不満ですか?」
「見た目…」
「美女ですよ、一応」
ヴァンパイアはプリンセスだと可愛い女の子に挿し絵なのに、クイーンになると痴女なのだ。ケバケバしい化粧に露出の多い衣装、ボディラインは多くの男たちを惑わせるだろうと思うくらい見事だが、こんな女王様を連れ歩きたくない。
受付嬢も一応と言い出すし。
キングのほうはナイスミドルなオジ様っぽいが、連れ歩いてもおかしくないデザインだ。
キングらしく偉そうなくらいで。
ナビも「クイーンはな。鞭と仮面を着けたら言い訳のしようがないからな」と言っている。SM系なのは誤魔化しようがなかった。
「バット系統も紆余曲折を経て、原点回帰で可愛いコウモリになるんだな」
「大きくなったり凶悪になったりする必要があったのかな」
「人生経験みたいなものか?」
キングまたはクイーンバットは、王冠を被ったコウモリである。なんか可愛さが上がった!以外にコメントしづらい挿し絵なのだ。
ただし魔法特化でデバフがえげつないタイプなのだそうだ。
ヴァンパイアも魔法は使うが、近接格闘もこなすので万能型だとか。
突出した能力はないが安定して使いやすいということだろう。
でも見た目の好みはヴァンパイア・プリンセスが1番だな、と思う高尾だった。
夜は西の森でクモ狩りをした翌日、まだ進化していない毛玉を懐に入れて再度はちみつ採取に向かった。
次の街に行くにはまだレベルが足りないので、しばらくははちみつ採取したり沼地で聖水の素材を採取したり、沼地の奥のリザードマンに挑んだりして過ごす予定だ。
リザードマンはカエルよりは格好良いなと思えたのだが、仲間に加えたいなとは思えなかったので保留にしている。
いまだにフレンドが作りにくい状況なので、従魔を増やして戦力を整えたいのだが。
「欲しい仲間は回復役だな…」
「ぴゅい」
「ボス戦には必要だろうね」
基本ジョブの治癒士をコンプリートしたので一応高尾が回復魔法を使えるのだが、雑魚戦で減ったHPをちょっと回復するには便利だが、ボス戦でアテに出来るような回復力ではないのだ。
ポーションを使うほうが回復量が多い。
「あとフクロウが欲しい。魔法攻撃特化で強いって噂の」
「フクロウが生息してる森はフィフスンと王都の間だから、まだまだ遠いねぇ」
最終進化形がサタニック・オウルという名前らしく、「魔王のごとき強さ」「魔法のスペシャリスト」という意味だそうだ。
エンジェリック・ラビットはもちろん「天使のごとき可愛らしさ」という意味だ。
森でテイム出来るフクロウは種族値1だが、それでもコツコツと育てたいと言われるくらいに優秀なのである。高尾もそういう仲間は増やしたかった。
「まぁ、商業都市セカンに行けば、従魔屋があるから買えないこともないよ。高いけどね」
「5年前のセカン解放直後の騒ぎを思い出すな…」
高尾は動画などで話題になっていたから知っているだけだが、新人冒険者では買えないような強力な従魔たちが店で売っていて、こいつを手に入れれば効率が捗る!と一部の廃人たちが張り切ったのだ。
結果として、身の丈に合わない従魔は主人の言う事を聞かないと思い知らされて終わった。
従魔屋では種族値だけでなく、レベルもかなり高い従魔を売っていたのだ。
高尾が欲しいフクロウは、そこまで強くないから買っても言う事を聞いてくれるはずだけど。
今度はお金がないという現実に直面するだけだった。
「従魔じゃないけど、フィフスンで馬も手に入れたいな。移動が速くなるんだろう」
「そうだね〜。キミに似合うのは格好良い青毛か王子様に必須の白馬…どっちが良いかな!?」
「普通の明るい茶色のアレ。鹿毛が良い」
高尾の馬のイメージが鹿毛というだけで、こだわりはない。でも中二っぽいのも王子様っぽいのも、あまり求めていなかった。
ナビは黒か白が良いらしい。
フィフスンに着くのはまだ先の話なので、実際に見てから決めるつもりだ。
暴れ馬じゃなければ何でも良い。
「いつかドラゴンに乗って空も飛びたい。でも5年やってるプレイヤーでも手に入らない最強種族だからな」
「ぴゅっぴゅい!」
エルもドラゴンには興味があるらしい。
リザードマンとちょっと似てるぞ、なんて余計な事は言わない。
ドラゴンとは最強で格好良いものなのだ。きっと。
「これも攻略情報じゃなくてヒントとして他のプレイヤーにも教えてる話なんだけど、とあるイベントをクリアすると仲間に出来るんだよ、ドラゴン!」
「…また未発見イベントか…難しく設定しすぎたんじゃないか?」
「報酬が豪華だから難しいのは仕方がないね!」
確かに簡単に手に入るようではゲームとしてつまらないだろう。達成感が欲しいこともある。
達成感よりドラゴンが欲しいプレイヤーのほうが多い気もする。
「ヒントとして、どのあたりの進行度の時点でイベントを起こせるんだ?」
「タルスティン王国ではさすがに早すぎるから無理だよ。でもそんなに最新の話でもないけどね」
序盤、中盤、最新の3つに分けるなら中盤でイベントを見つけられそうである。
中盤が1番範囲が広そうだけど。
「ドラゴンか…はちみつ入り薬草クッキーに喜ぶのだろうか」
「ぴゅい!」
美味しいからきっと喜ぶよ!という顔でエルが答える。懐の毛玉もそんなに美味しいの!?と反応している気がした。
「進化したらお前にも食べさせてやるからな。ケーキ屋で買った美味しいほうを」
「自作したのは、うん、まだまだだからね」
「ぴゅい…」
高尾が試しに作ったのはレシピ通りの薬草クッキーのはずだった。
エルに拒否される出来だっただけである。
まだ商品化されていないが、ケーキ屋の主人に頼み込んででも買わなくては!と思った。
でもいつかはエルたちに美味しいと喜んでもらえるクッキーを作りたい。
ゲームの中でなら出来るはずだ。
リアルで作る気はさらさらなかった。




