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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 16 話 囮大作戦!

 始まりの街ファストに平和が戻って来た。

 タルスティン王国の他の街は着ぐるみ集団の襲来から未然に救われた。


 住民NPCたちの視点からだとそんな英雄になっているはずのクラウディアだが、ナビゲーションAIのナビが言うには〈ラビッツ〉の国外追放には多くのプレイヤーが掲示板で怒っているらしい。


 NPCの分際でプレイヤーの妨害をしてんじゃねぇ!という理由で。

 きっと自分たちも同じ末路を辿る心あたりでもあるのだろう。NPCだと思って好き勝手に振る舞ったとか。


 高尾(たかお)は文字通り他所の国の話なので無関係だ。タルスティン王国に押しかけて来るとしても、クラウディアは王都に帰った後だし。


「まだ残っているのはなんだ?着ぐるみ集団の仲間じゃなかったのか?」


 街を歩きながら高尾はゾワゾワを堪えてナビに聞く。『危機感知』スキルが宿を出た所から反応しっ放しなのでエルは送還している。


「クラウディアのファンのほうじゃないかな。短絡的に襲う連中だけじゃないよ。ファンクラブを作って一緒に活動してる訳じゃないだろうし」

「天然キラキラ男に言え…」

「駄目だよ、そんなつまらない事!鈍感なところが魅力なんだよ!」


 クラウディアはアーサーしか見ていないのに理不尽である。

 そして気付きもしないからモテないんだよ、と八つ当たりしたい気分だ。高尾もモテないから言わないだけである。


 我慢してギルドまで行って高尾が受付嬢に訴えると、クラウディアの気持ちに気付いて盛り上がっていただけあって、とても残念そうな反応だった。

 残念なのは高尾を悪意を込めて睨みながらつけ回している連中だ。


「着ぐるみの次は道化が現れた…」

「でも『危機感知』スキルが反応するほどの悪意だよ!何を企んでいるか分からないね」

「今日こそ沼地で聖水の素材を採取する予定だったのに…」


 そして聖水のレシピを貰って調合師をコンプリートしたかった。次の調理師に転職するために。


 ファスト周辺の薬草は従魔用のおやつを作るために、あまり使いたくないのだ。不味いポーションにしかならないし。


「そういえば襲って来た連中の処分はいつ決まるんだ?」

「もう決定されたよ。極めて悪質。ギルド内での凶行。神聖騎士に対する常軌を逸した言動。解放したらクラウディアが性的暴行を受ける可能性が極めて濃厚!という理由で刑期100年になりました」


 殺されかけた高尾は関係なさそうな理由である。しかし異邦人は殺しても死なないから、たいして重視されないのだろう。


「クラウディアって言動が名家のお嬢様っぽいからな…」

「貴族のご令嬢だよ!クラウディアはオレのものだぁ!とか言うから…」

「そういえば言ってた…」


 ストーカー犯罪を連想させる発言だった。

 それは警戒度が引き上げられるだろう。


「しかも何か勘違いしただけだろうと、他の異邦人がクラウディアと話してちょっと良い雰囲気になったくらいでアレだからね。クラウディアを口説きたい貴族の男たちだって危険を感じて排除するよ!」

「…そうか。異邦人じゃなくてもクラウディアに言い寄る男をあの勢いで殺しに行きそうだからか」


 プレイヤーは1回戦闘不能にされるだけだが、住民NPCたちはシャレにならないのだ。死んだらお終いだから。


 そもそも人気キャラなのだから、新人プレイヤーだってチャンスがあれば仲良くなろうとするだろう。

 それが上手く行ったくらいでアレである。


 高尾の場合は仲良くなってすらいないが、他の男性プレイヤーたちからすれば害悪そのものだった。

 NPC視点から見ても害悪である。


 話していると、ギルドに入って切れていた『危機感知』スキルが再び反応し始めた。

 数人のプレイヤーが何食わぬ顔で入って来たからだ。


「あいつらだ」

「高尾のほうを見てないのに、凄い勢いでスキル経験値が入るね!どんだけ恨みがましい性格してるんだろう!」

「お前がナビゲーション担当してる奴はいないのか?」

「ん〜、今回はいないね。リンクさせないとすぐには区別つかないんだよ、ボクだって」


 大元は同じ存在でも、プレイヤー毎に与えられた端末みたいなものだからだろう。他のプレイヤーについているナビが得た情報まで共有していないらしい。

 そのあたりは個人情報になるので、リンクさせても誰にどのナビゲーションAIがついているか確認できる程度のようだ。


「あの方たちですか…?」

「何か疑問が?」

「以前はリリス様のファンだったと思いますよ。他国に行って他の女性の話ばかりしているという噂も聞こえて来ますし」

「…凄いな、ギルドの受付嬢の噂ネットワーク」

恋話(コイバナ)は国境を越えるからね」


 つまりあいつらはクラウディアのファンではなく、節操なしの女好き連中という事だろうか。

 誰が相手でも人気キャラと上手くやったと聞けば妬むのかもしれない。


 それだけにしては悪意が強すぎるが。


「…あいつら、俺を殺しに来る気がするんだが、現行犯で捕まえたら監獄送りになるのか?」

「え、囮になるの?」

「着ぐるみ集団は数が多すぎたけど、あのくらいなら対処できないか?」


 高尾はさっさと妨害者たちを片付けたい。

 PK(プレイヤーキル)はシステムで行えるが、犯罪行為として監獄送りになるのだ。

 そのリスクを理解した上でPKするものであって、憂さ晴らしで新人狩りをして良いという話ではない。


「ああいう連中、余罪がありそうだし」

「そうですね…ギルドマスターに相談して来ます」


 囮になるのが異邦人なら、住民たちは安全に危険人物を排除できるのだ。

 たぶん断らないだろうと思った。






 高尾を殺しに来る連中をおびき寄せるためなので、襲いやすいフィールドを選んだ。


 襲いやすいということはギルドの職員たちも隠れて尾行しやすいということである。


 西の森も鬱蒼としているが、あちらは低木や下草が多くてより歩きにくい場所なので、PKたちもあまり潜んでいない。

 東の森のほうがPKたちに人気があった。


 凄いパワーワードだな、と高尾も東の森を歩きながら思ったものだ。PKたちに人気のスポット。


「エルは巻き込みたくなかったが、不自然だからな…」

「ぴゅいっ!」

「危なくなったら送還するからな」


 高尾よりエルに凶刃が迫った場合のほうがギルドの職員たちの怒りが高まりそうだ。

 エルは「ボクがやっつけてやる!」と張り切っていたが、レベル差を考えても無理である。


「む、別の危険も潜んでる…」

「両方おびき寄せたら?そこの繁みで採取する振りでもして」

「あの繁みに何があるんだ?」


 前方からも『危機感知』スキルに反応があった。先日も潜んでいたPKかもしれない。

 新人狩りをしているクズだから、一緒に監獄送りになれば安全性が高まるだろう。


 都合良く釣れないかなと思いながら、ナビの示した繁みに近付いた。近くに行けば採取可能な物がいくつかあった。


「これは香草(ハーブ)か?」

「調理で使えるよ。ハーブティーにしてもいいね」

「ぴゅいぴゅい」

「ハーブ入りの薬草クッキーはアリなのか?」

「ぴゅ!」


 エルの好みの香りを探すのも楽しそうである。サラダにも入っていた気がする。


 高尾が知っているハーブと言えばピザに乗っているアレくらいだ。名前が思い出せないけど。


 いや、チョコミントのミントはハーブだな。

 ミントは有名だった。


 そんなことを思っていると、尾行して来ていた連中がニヤニヤ笑いながら近付いて来た。


「危機感ねぇな」

「お前さぁ、今ごろ始めた出遅れのくせに何しやがったんだよ。クラウディアに何したか言ってから死ねよ」

「気合い入れたアバター作って、それで女に媚び売ったのかよ」

「ふふん、ボクの力作だからね!見惚れる女性だっているよ、どこかに!」


 ナビが自慢げだが、今のところ誰も高尾の外見に見惚れていないという事でもある。

 異邦人は美形アバターが多いので、頑張って美形に作ったくらいではモテない世界なのだ。


 天然キラキラ男は美形だが、人気があるのは強さと天然キラキラな性格が理由だろう。


 クラウディアも顔だけ男の甘言などには靡かないに違いない。

 まさに目の前の連中が「頑張って美形アバターを作りました」という外見なので。


「すごいブーメラン」

「気合い入れて美形アバターを作って女に媚びを売った先達だったね!見るからに!」


 ナビが笑い転げるので、余裕を見せていた連中が怒って武器を構えた。

 笑い転げているのはナビなのに高尾が睨まれる理不尽さ。


 そろそろエルを送還しようと思っていたら、高尾に斬りかかって来た1人が横から飛んで来た矢に刺されて横倒しになった。

 ぎゃあっと格好悪い声を上げているが、ゲームなので痛みなど感じないはずだ。軽い衝撃を受けるだけの設定になっている。


 リアルと同じ痛覚が欲しい!という1部の変人は別の同意書にサインをして拡張したらしいが、目の前の連中がそんな気合いの入った変人やマゾには見えなかった。


「ひひひ!素人PKは安全な狩りしかしたことないんだろうなぁ!新人狩りは楽しいかい?」

「な!?こんな所にいるてめぇも新人狙いだろ!」

「だって新人狩りは楽しいからねぇ!その後のギルドの職員たちに追われるスリルも最高さぁ!」


 潜んでいたPKは女好きのクズたちを格下と見做したようだ。

 装備などで分かるのかもしれない。高尾には区別がつかない所だ。


「それは良かった。存分に楽しんでくれ」

「おやおや、オレが新人クンの味方だと勘違いしちゃった?助けてもらえたと安心しちゃった?ひひひ!ひひひひひ!」

「ギルドの職員たちとの追いかけっこの話だ」


 異常者なのかそういうロールなのか知らないが、耳障りな笑い方をしていたPKは高尾の1言で気付いたようだ。


「てめぇ、羽目やがったな!?」

「標的そっち。勝手に乱入したのはお前」

「ああ、クッソ!ド正論いらねぇわ!」


 PKは逃走に移ったが、時すでに遅し。

 ギルドの職員たちは包囲網を完成させていた。


 着ぐるみ集団みたいに数百人規模でなければギルドの職員たちに勝てるプレイヤーはいないのだ。


 無事に1人残さず捕縛して監獄送りにしていた。

 PKはかなりの殺人件数だったようで刑期が数百年らしいが、実資アカウント停止処分のようなものだ。監獄から脱走するミニゲームはあると聞くが、成功してもすぐに捕まって監獄に送り返される。


 GPSっぽい機能で逃げられなくされているそうだ。監獄送りになってもゲームで遊べるよ、やったネ!感が強い。


 女好きたちもやはり初犯じゃなかったことが判明して、街の中で平然と過ごしていた所がPKより悪質と刑期100年にされたそうだ。

 被害者たちは「だってバラしたら何度でも殺すって脅されて…」「つけ回されて何度も襲われたから怖くて!」と証言していたとか。


 予想以上にタチの悪い連中だった。






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