第 15 話 エンジェリック・パニック6
案の定、翌日にはクラウディアのファンたちが「どういうことだー!?」と怒り狂っていた。
目撃者が掲示板に書き込んだらしい。
騎士団内でプレイヤーの姿など見かけなかったが、何故か目撃者がいるものなのだ。
高尾は外に出られないから騎士団で訓練を受けているだけなのに、騎士団にも行きづらくなってしまった。
仕方がないのでギルドに来て、何かないか尋ねている。何かしらはあるのだが、今やりたい事ではなかった。
「着ぐるみを脱げばギルドに入れる設定は変更できないのか…」
「さすがにギルドの使用を全面禁止にする理由がありませんから…」
ギルド内は着ぐるみを脱いだだけの着ぐるみ集団が蠢いている。高尾の『危機感知』スキルの反応が、この異常な悪意は連中だと教えてくれていた。
ナビゲーションAIのナビも「スキルの成長速度が上がってる…」と呆れる事態なのだ。
すでに存在が害悪である。
カウンターの受付嬢に愚痴って、やる気なくクエストを眺めている時だった。
騎士団のほうで張っていると聞いたクラウディアのファンたちと思われる連中がギルドに乱入して来たのだ。
そして高尾を見ると問答無用で攻撃して来た。『危機感知』でヤバいと感じて即座にカウンター内に飛び込んでなかったら死んでいただろう。
透明な板で仕切られていないカウンターで助かった。
武器や魔法で追撃しようとして来たが、その前にギルドの用心棒…ではなく元高ランク冒険者の職員たちが対応している。
実際の強さがどうなのかはともかく、ギルドの職員たちはプレイヤーたちの抑止力という側面がある都合上、絶対に勝てない相手として設定されているそうだ。
街の見回りをしている自警団や騎士団も同様だ。暴れるプレイヤーを取り押さえる役目があるからだ。
「ふざけんな!クラウディアはオレのだ!何年追いかけてると思ってんだ!」
「殺す!絶対殺すぞ、糞野郎!」
「殺す殺す殺す!!」
悪意を越えた殺意を吐き散らして、職員たちに連行されて行った。
何故あそこまで怒っているのか理解できない。
クラウディアには面と向かって「俺はリエッタさん派」と宣言してあるのに。
「掲示板に何が書いてあったんだ?」
「うう〜ん…?あ、これかな!悪意たっぷりにキミがクラウディアを誘惑してたって書いてある!クラウディアだけ映るように調整して、もじもじシーンの動画付きだよ」
「…あれか。あれも結局なんだったんだ…」
騙された被害者…と好意的に解釈してやるつもりはないが、そんな物を真に受けるアホは永遠に監獄から出て来ないと良いなと思う。
真に受けたくらいであんな殺意を撒き散らして、殺す殺すと喚く連中だ。
マトモな人間ならあんな事しない。
「どうせ着ぐるみ集団のやった事だろ。殺人教唆で捕まって欲しい」
「この国の法律にはないからなぁ」
日本なら証拠があれば捕まっているだろう。
掲示板に匿名で書き込んだとしても、運営なら誰の仕業か調べられるはずだ。そしてそれを証拠に出来るに違いない。
出来たらいいな、としか今は言えないだけだった。
高尾が調合師の訓練というより講習みたいなクエストを受けて、学校の授業のような1時間を過ごしてギルドのエントランスに戻ると、またアーサーとお供たちが来ていた。
着ぐるみを着ていない〈ラビッツ〉の連中に抗議しているようだ。
クラン対抗戦の話し合いの口約束が守られていないらしい。
守るような連中だと思うのが間違いだと高尾は思うのだが。
お供たちもそんな顔である。
「どんな約束をしてたんだ?」
「迷惑をかけるな、イジメはやめろっていう常識的な話だよ。曖昧だから言い逃れてるけど」
「その常識をわざわざ説いてやらないといけない時点で、人間のクズだと気付けば良かったのに」
「常識のある人は言うまでもなく守ってる社会のルールだよね」
宣戦布告は立て続けに出来るものではないので、〈円卓騎士団〉といえど何も出来ない。
そうタカをくくっている顔でニヤニヤしていた。
立て続けには出来ないが、一定期間が過ぎれば宣戦布告できるのに。
そういう可能性も考えていないようだ。
「次のイベントで標的にされて集中攻撃を受けるとか、いろいろなかったっけ?」
「他のクランがやってたね。怒らせるのが悪い、イベントのルールの範囲内だって言ってお咎めなしだったねぇ」
5年も続いているMMOなので、ゴタゴタはそれなりに起きている。
廃人クランにケンカを売って潰されたクランもあったはずだ。
〈円卓騎士団〉はクリーンなイメージが強いが、いきなり宣戦布告するリーダーがいるのである。
天然クンは怒らせると何をするのか読めないところが怖いと思うのだ。本人は正義感で行動してるだけのつもりっぽいし。
高尾がログアウト休憩しようかなと思い始めたあたりで、次に騎士団が現れた。
先頭にいるのは兜で顔を隠しているが、声でクラウディアだと分かった。全身鎧なので中の人の情報が声しかないのだ。
「何の騒ぎですの!殺人未遂の次はどんな犯罪を起こすつもりかしら!?」
「約束を反故にされて抗議しに来ているだけだよ」
「ク、クラン対抗戦の話かしら?」
「そうなんだ」
アーサーがクラウディアに応じている。
お供たちは特に何も反応していないが、人気キャラの登場に着ぐるみを脱いだだけの連中が割って入っている。
着ぐるみを脱いだだけなので中身はクズの〈ラビッツ〉の連中だ。
被害者ヅラでアーサーのことまで悪く言い出して、アーサー本人よりお供たちが怒っていた。
宣戦布告第二弾は突発的なものではなく、練りに練った条件を突きつけて来そうだ。クランのメンバー全員が。
だが1番怒ったのはクラウディアだった。
「クラン対抗戦で負けておいて、あなたたちに発言権があると思ってるんですの!?約束を反故にしてある事ない事くだらないホラを吹いて!」
それを見てナビが「乙女心だねぇ」と言えば、受付嬢が「やはりそうなんですねっ!」とはしゃいだ声を上げた。
高尾は黙って成り行きを眺めながら考えた。
「…色恋沙汰か…」
「駄目だよ、そういう情緒のないこと言ったら」
「うふふ、気付かない振りですよ」
住民NPCのほうがプレイヤーに惚れるケースもあるらしい。
天然キラキラ男くらいにならないと発生しないイベントに違いない。
「あれは会うの2回目でも分かる。相当鈍感」
「そこが面白…先の展開が気になるんだよ」
「焦れったいけどそこが気になるポイントですね!」
受付嬢は恋愛話には目がないほうだったようだ。ナビと一緒に生き生きしている。
他の受付嬢たちも楽しそうに見守っていた。
とんだエンターテイメントだ。
もしかして昨日のアレはアーサーの話を聞きたがっていたのだろうか、と高尾がひとつの真実に気付いた頃、クラウディアの怒りが頂点に達したらしい。
「あなたたちのクランがファストの街の治安を乱れさせていると聞いて確認に来ていましたが、はっきりと分かりましたわ!クラン対抗戦で勝者と約束した事すら守らない者どもの集まりなのだと!この国にあなたたちの居場所はないと痛感させて差し上げますわ!」
そう宣言して帰って行った。
何をする気だ、何も出来ねぇよ、と嘲る者ばかりで、深刻に受け止めていなかった。
だがギルドの職員たちは喜色に染まってご機嫌である。
アーサーはまだ言いたい事がある様子だったが、お供たちに連行されて帰って行った。
お供たちもクラウディアの宣言がどういう意味か理解したようだ。
「国外追放待ったなし」
「まぁね。確認して来た報告の内容は最悪だろうし、多くの住民たちから被害報告も出ているだろうし」
街の中に存在するだけで被害が出るのだ。
高尾に対する態度だけで分かる。NPCに気遣うような連中ではないと。
高尾の見ていない所で何をしていてもおかしくなかった。
それが数百人規模で街の中にいるのである。
王都から騎士が派遣される事態だと、クラウディアも言っていた。
クランごとまとめて国外追放に違いない。
高尾の願望かもしれないので、早く事実になって欲しいものだった。




