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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第 14 話 騎士見習い

 クラン対抗戦〈円卓騎士団〉vs〈ラビッツ〉は、聞くまでもないが〈円卓騎士団〉の圧勝で終わったそうだ。

 一方的にボコられると分かっていて配信許可を出す者はいなかったので、観戦に行ったプレイヤーは見られたが動画などは出ていなかった。


 高尾(たかお)はボロ負けする姿を見て笑ってやりたかった気持ちもあるが、そんなヒマがあったら攻略を進めたかった。


「なんか増えた…」

「ぴゅいぃ…」


 クラン対抗戦が終わった翌日は、始まりの街ファストに着ぐるみ集団が戻って来ていた。

 しかも増量されていた。


 危なくてエルを連れて歩けないので、送還状態で従魔協会に来たところだ。

 こちらに預けていたエルは職員しか入れない奥にいたが、召喚すればカウンターの上に現れた。


 従魔協会も着ぐるみは立入禁止になっているが、着ぐるみを脱いだ連中は入って来られる。今はまだ来ていないだけだ。


「ラビラビ山から退去させられたから、こっちに来たんだと思うよ」

「なんで悪化させてるんだ、あの天然男」

「本当にねぇ〜」


 アーサーのやったことはラビラビ山に入れなくて困っていた第三者には感謝されただろう。しかし高尾にはなんの恩恵もなかった。

 数日間の自由くらいである。


 なのに高尾が元凶のように逆恨みされているのだ。自業自得のくせに。


 ナビゲーションAIのナビも呆れている。


「一応エンジェリック・ラビットに手を出すな、取り上げるような真似はするなって通達してたけど、口約束だからね」

「守るようなマトモな人間は、フィールドを不法占拠して他人に迷惑をかけないと思う」


 従魔協会の受付嬢も「あのクランの方たち、話が通じないと有名ですからね」と同意していた。

 フィールドの不法占拠は住民たちにも迷惑なことなのだ。


「今日は沼地に行きたかったが、騎士団に訓練を受けに行くか…」

「見習い騎士だとまだ騎士フォームになれないからなぁ。3次職の騎士なら格好良い騎士フォームを覚えられるんだよ。楽しみ!」


 高尾が騎士ルートで進めたい、騎士らしいアバターにして欲しいと言ってナビに作ってもらった外見である。

 ナビの好みで作られているので、高尾以上に騎士フォームを楽しみにしていた。


 騎士フォームとは見た目だけ騎士団の制服に替えるシステムである。

 所属している国があればその国のものに固定されるが、無所属なら滞在中の国に合わせて変わる仕様だ。


 他のジョブでも騎士団のような制服のある組織なら用意されているらしい。

 ギルド職員の制服も該当するそうだ。プレイヤーがギルド職員になれないだけで。


「この国の騎士団は青い制服だったな」

「青も爽やかで良いけど、南のアルハンス王国の赤い騎士フォームも似合うと思うよ!」


 アルハンス王国はこのタルスティン王国の次に行く国だ。ここより南にある王都セブンシーから国境を越えると入れる。

 まだまだ先の話である。


「アルハンス王国にはドラゴンが生息する山脈がありますからね。従魔士にとってもいつか行きたい国ですよ」


 このゲーム世界では最強種族とされるモンスターがドラゴンである。

 廃人たちは手に入れて騎獣のように乗り回しているらしいが、廃人以外は余程運と金がないと入手不可能だと言われていた。


 基本的にオークションにたまに出品された時に落札するしか入手手段がないからだ。

 テイムを成功させたプレイヤーの話はなく、NPCたちがどのように手に入れているのかも不明だそうだ。


「ドラゴンか…薬草クッキーを食べるのか?」

「薬草クッキーに喜ぶドラゴン…可愛いね」

「ぴゅ、ぴゅい…?」


 可愛い…?とナビ以外は首をかしげた。

 恐ろしい最強種族に似合いの形容詞とは思えなかったものだ。






 エルは従魔協会に預けて来たが、街の中を歩くだけで『危機感知』スキルが成長している。


「とうとうレベル50を越えたぞ…!スキルの最大レベルっていくつなんだ」

「99だけど、上限を増やすように進言しておくね。対処しないのならスキル経験値くらいは無駄なく与えるべきって」

「…経験値より連中の国外追放が良いな」


 高尾を睨む連中の数が増えたからなのか、スキルの成長速度が恐ろしいことになっていた。

 エンジェリック・ラビットを連れていないというのに、従魔協会から街の騎士団まで向かっているだけで上昇しているのだ。


 その分ずっとゾワゾワして気持ち悪いので、確かにスキル経験値くらいは貰わないと割に合わないとは思うけど。


「廃人クランの連中はもっとレベルが高いんだろう?遭遇して睨まれていたらもっと伸びたのか…」

「伊達眼鏡も睨んではいたけど、経験値になる程じゃなかったねぇ」

「そういえば奴はゾワゾワしなかったな」


 あの程度は危険と判断されなかったという事だ。つまり今、高尾を睨んでいる連中の危険度が異常なのだろう。

 スキルが反応する程の悪意という事になる。


「…待て、どんだけ危険なんだ?」

「伊達眼鏡とは比べものにならないくらいだよ!」

「何故ここに来て伊達眼鏡の株が上がるんだろう…」


 思い返してみてもあんな奴キライとしか思わないが、まだ常識の範囲内の存在だった。


 着ぐるみ集団は見た目から感じていたが、異常者の集団なのかもしれない。

 なんでこのゲームに集結してしまったのか。


 国外どころかこのゲーム世界から追放されないかな、と思えて来た高尾だった。






 2次職の見習い騎士になって騎士団に行くとミニイベントが起きる。入団イベントだ。

 騎士団に入団したという事で騎士団の施設の一部が利用可能になり、騎士向けのクエストも受けられるようになる。


 街ごとに少しずつ内容が違うらしいが、こだわりがなければ始まりの街でこなす者が多い。

 イベントと言っても施設内の案内と説明くらいだからだ。


 だが何故か高尾でも知っている有名NPCが待ち構えていた。


「神聖騎士のクラウディアですわ!」

「…タルスティン王国の人気の美女ランキングのトップ3は王都にいるはずじゃなかったのか?」

「ファストの治安が悪いから派遣されたんじゃないかな」


 神聖騎士は6次職だったはずだ。

 騎士ルートも何種類かあるが、神聖騎士に進むルートは王道と言える。防御が上がりやすく、回復魔法も使えるジョブだ。


 高尾は攻撃力の高い別のルートが良いなと思っているが。


「び、美女ランキングですって…!?」

「1位はカーミラで2位はリリスだよ!常に鎧姿で色気が足りないのが3位になってる原因だね!」


 他の国にも美女NPCがたくさんいるので、あくまでタルスティン王国内ではというランキングだ。

 基本的にトップ3は王都にいるので、こんな所で会うとは思っていなかった。


 クラウディアは豪奢な金の巻き毛に緑の眼をした、悪役令嬢と言われても納得できるキツい容姿の美女だった。

 騎士の鎧姿なので、くっコロ系と言われている。たぶん20代前半くらい。


「俺は王都に行ったら、王立図書館の司書のリエッタさんに会ってみたい…穏やかで物静かな雰囲気の司書さん…」

「司書で人気なのはクリスチーナなのに…」

「あんな化粧の濃い女は論外だ」


 高尾が楽しみにしているリエッタは、一部の男たちの間でのみ人気があるタイプだ。ランキング圏外だろうと高尾はリエッタ推しである。

 初恋の人にちょっと雰囲気が似てるから。


「色気…くっ!リリスに負けているのは腹立たしいですが、その程度の理由で鎧は脱げませんわ!」

「何かこだわりがあるのなら貫けば良いと思う。ところで案内してくれる騎士はどこだ?」

「わたくしが案内しますわ!」

「…部外者なのに?」

「エンジェリック・ラビットはお留守番だよ〜」


 エルが目当てかと思ったが、そうではないらしい。

 クラウディアが「行きますわよ!」と歩き出すので、高尾は仕方なく後を追った。


 王都の騎士とはいえ騎士団の構造はほぼ同じなので、問題なく案内してもらえた。

 むしろクラウディアのファンたちにバレた後が問題だろう。こういう話は何故かバレるものだから。


 生でクラウディアの「くっ!」を聞いてしまったし、くっコロ系好きたちの殺意も怖い。


 短いイベントなのですぐに一回り出来たが、高尾は受付で訓練クエストを受けたいのにクラウディアが引き止めて来る。

 何か言いたい事があるようだが、もじもじするばかりで話が進まなかった。


「…何が言いたいんだ、あれ」

「乙女の心内(こころうち)を軽々しく吹聴する趣味はないんだ、ボク」


 つまりナビは知っているという事である。

 ニヤニヤ笑って楽しそうだからロクな内容ではなさそうだった。


 散々もじもじして時間を無駄にしたクラウディアは、結局何も言わずに去った。

 付き合わされて損をした気分になったものである。






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