第 12 話 森の探索
翌日ログインした高尾は警戒しながら宿屋を出たのだが、近所の住民たちが「着ぐるみ集団は見てないよ」と証言する通りに安全な街を歩いてギルドに向かった。
住民たちだけならエルも怖がって隠れないので、高尾の肩の上に乗って街の景色を楽しんでいたものだ。
もちろん住民たちはそんなエンジェリック・ラビットを見て楽しんでいた。
「今日は南の森に行ってみる」
「ぴゅい!」
ギルドの受付嬢に宣言して、駄目だった場合を考えて受けるつもりはないが、帰って来てからクリア出来そうなクエストの内容を確認しておいた。
納品系なら出来るだろう。
「剣士ジョブだけでもレベル10にしたい…」
「基本ジョブは身に付けておきたいですよね」
最初に選べる基本ジョブ4種は最大レベル10でコンプリートになる。
本来なら1日で1つはコンプ可能なものなのだ。急げば2、3日で終わるらしい。
高尾は剣士から騎士ルートをメインに進める予定だが、まずは従魔士を覚えてしまいたいのだ。
それでエルの召喚・送還が可能になるので。
家を持っていない高尾の場合、従魔は最大5体まで従魔協会に預けることが出来る。
従魔協会の預かり所は安全だし、他の人の従魔たちがいるのでエルも寂しくないだろう。
高尾も出来るだけ連れ歩きたいのだが、特に着ぐるみ集団から逃がすためにも覚えたいスキルなのだった。
森で採取をするための鉈を買って来たので、邪魔な枝を切り落として木の実や薬草を摘む。
枝はバトルの邪魔にもなるので一石二鳥だ。
この森はオオカミしか出ないし、1匹ずつしか出ないという初心者向けの練習フィールドのような場所らしい。
南の街道を南下して次の街に行く時に戦うボスモンスターはこの森のオオカミたちのボスだから、ボス戦の練習相手なのだろう。
「それにしても、種族値5とはいえエンジェリック・ラビットは俺より強いな…」
「最終進化形だからね。ドラゴンなんて種族値1のドラゴンパピーでさえエンジェリック・ラビットより強いけど」
「最強生物と比べられてもな」
「ぴゅい…」
レベル1の時点で高尾よりステータスが全体的に高かったエルだが、レベルが上がる時の成長値も高尾より多かった。
ジョブで言えば5次職あたりの伸び方だそうだ。
当分追いつけそうにない。
しかしレベルが上がったということは、無事にオオカミに勝てたという事だ。
教官の教えに忠実に戦ってみたが、落ち着いて対処すれば怖い相手ではなかった。
見た目と迫力は怖いけど。
それにエルの援護もあったので、ここのオオカミ相手なら負けない自信がついた。
「次は東の森に行ってみたいな。イノシシが出るんだろう」
「魔術士で行くならちょうど良いかもね。魔法が効くから」
イノシシは猪突猛進なので、突進攻撃を躱せれば怖くない相手らしい。だが剣で斬りつけたり拳で殴るより魔法が効くそうだ。
物理防御力が高いのだろう。
ただし夜になるとヒラヒラ飛んで攻撃を当てにくいコウモリが出るようになるため、行くなら昼間が良い。
代わりに西の森は夜間に出現するクモが魔法防御力が高めなので、剣士系ジョブがおすすめされていた。
最後の北側は、最前線で戦う廃人たちすら「まだ勝てない」と言い出す人類未踏の秘境なので、近付いてはいけない。
街の住民たちも「あの先は何があるのか分からない」と言っていたものだ。
もちろん街のすぐ側に秘境がある訳ではなく手前に安全な森があるのだが、境界が分からなくなるので立入禁止になっているそうだ。
深入りし過ぎると帰って来られなくなるから。
プレイヤーは教会の転移ゲートに送り返されるだけだが、逆走してないで南に行けという事かもしれない。
剣士ジョブが最大レベルの10になったので、高尾は1度街に戻ってギルドで納品クエストを片付けた。
着ぐるみ集団がいないだけで順調である。
「そういえばクラン対抗戦はいつやるんだ?」
「明後日だね。着ぐるみ集団は『勝てる訳ないよ!』と嘆くだけで何の努力もしてないから、勝敗は決まってるようなものだけど」
「〈円卓騎士団〉から宣戦布告されて勝てるクランは少ないと思いますよ」
アーサーがクランのリーダーだからか、クラン名は〈円卓騎士団〉だ。
アーサー王と呼ばれることもあるらしい。もちろんプレイヤーの間で。
受付嬢も知っているくらい有名なクランで、クラン対抗イベントでは上位に入る強豪である。
イベントは運営が開催するものを指すが、イベント外でもクラン対抗戦は出来る。
戦場となる専用フィールドがあって、ルールは参加者たちが決めるので今回はどうなっているのか不明だが、基本的に同じ人数のプレイヤー同士の集団戦になる。
最大1,000人対1,000人の戦争になるため、見応えもあるイベントだ。
クランの所属人数の上限も1,000人になっている。
人数が足りないクランは連合して参加も可能だった。
「戦場のある国に行けないと観戦も出来ないんだよな」
「だいぶ遠いねぇ」
コロシアムのある国も遠いので、イベントが始まっても高尾はゲーム外で動画を見るしかないだろう。
今回は私闘なので配信されるか不明だが、着ぐるみどもが蹴散らされる姿は見てやりたかった。
ギルドで受付嬢と話して、宿屋でちょっとログアウト休憩を取ってから、高尾は東の森にやって来た。
夜になる前に帰りたいし、PKに遭遇したくないので、東門の近くをうろつくだけの予定だ。
このあたりには常時初心者狙いのPKが彷徨いていると有名だった。
高尾は見てもいないが、掲示板でも殺られた!という報告…愚痴が載っていたとナビが言っていた。
掲示板はゲーム内からのみアクセス出来るプレイヤーたちの情報共有のコミュニティである。
エンジェリック・ラビットの話もここに書き込んだ者がいたから一気に知れ渡ったのだ。
誰が犯人か知らないが、高尾が見たくもないと触らない原因である。
動画やスクリーンショットの撮影許可設定がデフォルトで全て禁止になっていたから曝されることはなかったが、今後もずっと禁止にしておこうと思った。
従魔も対象になるのでエルの姿も撮影できないのだ。絶対に許可しない。
などと余計なことを考えつつも東の森に入った高尾は、『気配察知』スキルでモンスターを探していたが、街の中でずっと感じていた『危機感知』スキルが反応してゾワリと悪寒が走り、一目散に駆け出した。
門が見える所まで戻って、大きく息を吐いて振り向いた。
「ぴゅい?」
「着ぐるみ集団に見られた時の感覚がした…PKか」
「レベル差で危険の度合いが変わるから、それならただのモンスターじゃないだろうね」
「オオカミに補足された時にも思ったな…」
なんか感じたけどたいして怖くないな?という感覚だったものだ。ちょっと注意を促すようにツンツンとつつかれた程度だ。
ゾワッなんてヤバい気配はしなかった。
「すごいな『危機感知』スキル…」
「モンスターより人殺しが危険だって良く分かるよね!」
新人プレイヤーに1番必要なスキルではないだろうか。不人気スキルだけど。
「これ、スキルレベルでも変わるのか?」
「もちろん!高尾の『危機感知』スキルはプレイヤーの中で1番高くなりかけてるよ!たった数日で!」
「嬉しくない…」
「ぴゅう…」
「レベル差がある相手から向けられたから、獲得経験値が高かったんだよね。運営側も想定外の成長っぷりに頭を抱えてたねぇ」
「俺はレベル1桁だったからな」
やっとレベル10を越えたばかりだ。
レベル差は相当あったことだろう。
このゲームのレベルはジョブ毎にあるが、それらを足した総合レベルをプレイヤーレベルと呼んでいる。
例えば基本ジョブ4つを全てコンプリートしたら、プレイヤーレベルは40ということである。
現在実装されているジョブを全てコンプリートしているのは廃人たちだけらしいが、トータルで何レベルあるのか高尾は知らない。
そこまでやっていない着ぐるみ集団たちのプレイヤーレベルも知らない。
すごい数だろうな、と思っただけだ。
「でもこの森は無理だから、どこに行くか…」
「西しかないと思うよ。聖水の素材はそこから北西に進んだ沼地にあるよ」
「まだレベルが足りないだろ」
マップはオートマッピングで行ったことがある場所を表示するようになるから、何度か行ってマップを埋めたほうが次のエリアに進みやすいのは分かる。
しかし沼地の推奨レベルは50だとギルドでも言われているのだ。
基本ジョブを全てコンプリートしてから、2次職も多少育てたあたりで行く所なのだろう。
だが南の森のオオカミでは経験値が物足りないので、西に行ってみるしかなさそうだった。




