第 11 話 エンジェリック・パニック5
アーサーというプレイヤーは騙されやすい性格らしい。
高尾が職員たちと机の陰でエルを愛でている所に割って入って、正義感ヅラで御高説をぶち上げ始めた。
他のプレイヤーは職員たちの領域は立入禁止なので、カウンターの向こうで演説しているだけだが。
伊達眼鏡だけでなく、ギルド内にいた連中がニヤニヤしながら高尾のほうを見ている。
このゲームで1番人気のアーサーを味方につけたから勝ったつもりのようである。
アーサーの仲間たちは頭が痛そうにしているが、説明の言葉がまとまらないようである。どうするんだアレ、と相談していた。
嘘がバレなければ、という事すら理解できないらしい。
「お待ち下さい。高尾さんが従魔を虐待している事実はありません。ギルドの職員全員が証言します!」
「でもこれだけのプレイヤー…異邦人が証言しているんだよ」
「その方々は着ぐるみ姿で街の中を練り歩き、住民たちに多大な精神的苦痛を与えているクランのメンバーですよ!」
「エンジェリック・ラビットを巻き上げに来た筆頭どもだろうが」
受付嬢が反論し、元高ランク冒険者だという職員も証言者たちを告発した。
やはり着ぐるみを脱いだ着ぐるみ集団の仲間だったらしい。
「彼らが嘘をついているというのか?」
「我々が嘘を申していると思われるのですか」
「アーサー、〈ラビッツ〉はエンジェリック・ラビットを1番欲しがってるクランだよ」
「区別つかなかったけど、〈ラビッツ〉だったのなら信用に値しないだろ。ラビラビ山を不法占拠したまま多くのプレイヤーに迷惑をかけ続けてるじゃないか」
「お前が何度言っても止めようとしない連中なのは分かってるだろ」
アーサーは裏切られたという顔でギルド内を見渡している。
ニヤニヤしていた連中は一転してあたふたしたり、目をそらしたり、まだ「嘘じゃない!」と言い張っていたり、それぞれの反応をしている。
伊達眼鏡も「ここのプレイヤーたちから聞いたんだ」と責任逃れをしていた。
聞いただけで確かめもせずに断言するような無責任さだと、自ら証明している。
「イジメの定番だな。標的以外が口裏を合わせて嘘を吐いて、犯人に仕立て上げる奴」
「プレイヤーとNPCのどちらを信じていいか分からなくなった時はナビゲーションAIに聞くと良いよ!ログを参照して事実確認してくれるからね!」
嘘なんてバレる世界なのだ。
何年このゲームをやっているんだ。高尾なんて数日前にやっと始めたばかりなのに。
「イジメ…イジメは許さない…!絶対に!」
そしてアーサーの逆鱗に触れたらしい。
イジメられた過去でもあるのか、親しい人が被害に遭ったのか、〈ラビッツ〉に対してクラン対抗戦の宣戦布告をしていた。
お供たちが頭を抱えている。
「この人たちの証言だけで疑ってしまってすまない。嘘を吐いて嵌めようとするなんて許されることじゃない!必ず改心させてみせる!ラビラビ山も開放してみせる!」
熱い宣言をして去って行った。
クラン対抗戦の準備をするようだ。
宣戦布告された連中も青くなって出て行った。残ったのは伊達眼鏡と端に追いやられていた新人プレイヤーくらいだ。
新人プレイヤーたちは高尾に近付いて巻き込まれたら大変、といつも距離を取っているので知り合いになる余地もなかった。
高尾も向こうの立場なら近付かないので当然の対応だと思う。
でもフレンドの1人も作れそうになかった。
「改心なんてしないに一票」
「ボクも同感だから賭けにならないね」
「ぴゅい」
どうせならこの国から追放して欲しい。
ラビラビ山のある国からも追放されれば一挙解決ではないか、と思った高尾だった。
ギルドの外にも着ぐるみ集団がいなくなっていたので、高尾は数日ぶりに街の外に出ていた。
南門の外に広がる草原で、ウサギを愛でながら薬草採取である。
門番たちの目が届く範囲はキープしているので、とりあえずは安全だ。
エルはぴゅいぴゅいと楽しそうに駆けたり跳ねたりしている。高く跳び上がってふんわり降りる遊びが気に入ったようだ。
「風の魔法で跳ね上げさせられるのか?」
「フレンドリーファイアって知ってる?攻撃になっちゃうんだよ。だから別の魔法が必要だね」
「なるほど」
出来ない訳ではないのなら、その魔法を探して習得するのも良い。きっとエルも喜ぶだろう。
高く跳びすぎて怒る可能性もあるが。
さらに南の森まで行ってオオカミと戦ってみたいのだが、NPCの目が届かない所はまだ危険そうなので安全が確信できるまでは控えておく。
モンスターの生息する森のほうがプレイヤーが闊歩する場所より安全というのも語弊があるのだが、高尾にとってはプレイヤーのほうが敵である。
南の森の次は東の森が適正レベルらしいが、門から出てすぐに森が広がっている場所だ。
街道沿いはともかく見通しが悪いのでPKが隠れやすいそうだ。
ちなみに南の街道を南下して行くと次の街がある。王都の次に賑わう街道の交わる商業都市セカンだ。
サードン、フォースン、フィフスン、そして横道に逸れて職人の街シックがあり、ゴールの王都セブンシーと進んで行くことになる。
セカンの南にフィフスンの街があるのだが、推奨レベルが高いので東のサードン、西のフォースンを先に攻略してレベル上げをしないと行けない。
シックはフィフスンの東にあり、王都はフィフスンの南にある。
とりあえず番号順に進みましょうということだろう。街の名前を考えた人のネーミングセンスには言及しないでおくのが優しさだ。
どうやらこのタルスティン王国は序盤のチュートリアルという位置づけらしい。
それにしては廃人たちも次の国に進むのに1ヶ月以上かかったらしいので、高尾もどれだけかかることか。
邪魔されてロクにレベル上げも出来ないし。
「そうだ、エルも薬草を食べるのか?」
「ぴゅう!」
「モンスターはたいてい薬草が好きだよ。肉食系だって薬草を食べるくらい!」
「どういう設定なんだ…?」
薬草はポーションの素材になるので、回復効果も含めて好まれるのだろうか。
試しに摘んだ薬草を差し出すと、エルはウサギらしく齧りついてあっという間に食べ尽くした。
「これは…調合の素材で使いきれないな!」
「ぴゅっぴゅう!」
「人間が食べても大丈夫だよ。毒じゃないよ、薬だよ!」
「…ナビに言われると食べる気が失せる」
しかしポーションの素材なのだ。毒のはずがない。
高尾も意を決して薬草をそのまま齧ってみた。
「む、ほうれん草みたいな苦味…でもサラダに使えそうだな」
「苦味があるのはここの草原の薬草だけで、他の場所に生えてる薬草は食べやすいしポーションが苦くならないから、ここの薬草で作ったポーションは不人気なんだよね」
「なんで薬草の味にそこまでこだわるんだ」
「でも従魔は苦くない薬草は好まないんだよ!」
エルも「この苦味が良いのに〜」という反応なので、従魔用に作ったのかもしれない。
「そういえばノンアクティブのモンスターをテイムする時に食べ物をあげるとテイムしやすくなると聞いた気がする。コレか!」
「いくらあっても足りない、それがファストの薬草だよ」
調合の素材にするのがもったいない気がして来た。
調合師をコンプリートすると2次職に調理師があるはずなので、料理に使ってみたい。
「従魔は食べ物アイテムも食べるんだよな?」
「好物が個体によって変わるよ。この子は何が好物だろうね」
「ぴゅい!」
薬草!と言われている気がするが、薬草を使った料理でもきっと喜ぶだろう。
定番の人参より薬草のほうが好きそうだし。
「つまり…いつか買いたい家には薬草を栽培するスペースも必要なのか…栽培スキルも必要だな!」
「スローライフだね」
「そうだな」
たくさんのウサギを飼うなら広い薬草畑が必要そうである。
夢のウサギ屋敷は農家にシフトチェンジし始めていたものだ。
□なんで着ぐるみ集団がいなくなったの?という説明は13話で…




