第 10 話 エンジェリック・パニック4
ギルドで高尾が訓練クエストを受けようとしていると、また新たなプレイヤーが現れた。
コロシアムで上位にランクインしているクランと言われても見覚えのなかった連中ばかりだったが、このプレイヤーは高尾でも知っていた。
個人ランキングのトップ10にいつも入っているランカーだからだ。
見覚えがあるようなないようなお供を連れて登場したので、1部のプレイヤーたちからきゃあっと歓声が上がった。
ギルドの職員たちは「まさかこいつも!?」「信じられない!」という驚きと軽蔑の表情になっていた。
「あ、ギル…ギル…なんだっけ…」
「ギルフォードだろ」
「そうだ、ギルフォード!君もこの騒動を聞いて駆けつけてたんだ!行動が早いね」
相手の名前をド忘れしていたようだが、そのランカーはキラッキラの笑顔で伊達眼鏡に話しかけていた。
高尾のナビゲーションAIのナビが「ちっ」と舌打ちしている。
人気ナンバーワンのプレイヤーだからだろう。アーサーという名前だったはずだ。
「あ、ああ、情報は何にも勝る武器になるからね」
「それなら僕たちは必要なかったかな。もう解決したんだろう」
「もちろんだとも!」
「…何が解決したんだと思う、ナビ?」
「いくつかのクランが、メンバー全員一蓮托生で国外追放処分及びこのタルスティン王国から与えられた勲章や特権が剥奪されることが決定されたから、ライバル消えたぜイエーイって意味だと思うな!」
「もう処分内容が決まったのか?」
「以前から態度が悪くて嫌われてたからね!あんな連中に勲章やら特権やらを与えたなんて、見る目のなさを喧伝しているも同然ではないか!ってお偉いさんたちが怒髪天だよ」
剥奪する機会を窺っていたとしか思えない話をされた。
ギルドの職員たちは目をそらして聞こえない振りをしていたものだ。
ナビが聞こえるように大きな声で言うので、他のプレイヤーたちはぎょっとしていたり、自分のナビゲーションAIに確認したりしていた。
「え、なんの話?エンジェリック・ラビットを新人から取り上げようとしている人たちが押し寄せているって聞いて止めに来ただけなんだけど…」
「それならこの伊達眼鏡…ギルフォードか?こいつも巻き上げに来た1人だぞ」
「従魔が原因だ、トラブルの元だ、手放すことを勧めるよって言ってたね。代わりにもらってやろうってニュアンスだったよ!」
「だ、黙れ!」
ナビは伊達眼鏡に言われて黙りはしたが、もう全て言った後なのである。止めるタイミングすら分からなかったようだ。
「そんな、君まで…」
「ち、違う!誤解なんだ!」
「アーサー、そいつが何を言ったかは知らないが、解決はしたみたいだから帰ろうぜ」
「見たところ、他に大クランのメンバーはいないから大丈夫だよ」
アーサーのお供たちは帰りたそうにしているが、アーサー本人は納得できないらしい。
中途半端な正義感は面倒くさいだけである。
「どうせなら1番の害悪集団を片付けて欲しい…」
「ぴゅいぴゅい!」
もちろん気味の悪い着ぐるみ集団のことである。エルが積極的に同意するくらい存在が不快だった。
とはいえ高尾はいつまでも付き合っている義理はないので、言い合う連中は放って訓練クエストを受けて訓練場に向かった。
訓練場に入るとようやくエルが高尾の上着から出て来る。
休憩中の職員たちのほうに自主的に向かって行って、遊んで遊んで!と甘えていた。
「…天性の人たらしパワーなら負けてない」
「アーサーのこと?あれも天然ものだからね」
実物に会ってみて高尾も思ったのだ。
あ、こいつ中身がアイドル気質だ、と。
わざとらしさを感じさせないキラッキラの笑顔なんて、凡人には浮かべられないものだと思うのだ。
アバターが美形ではなかったとしても、人気は揺るがなかったことだろう。
始まりの街ファスト周辺のモンスター毎の倒し方講座っぽくなって来ている訓練を終えて高尾がギルドのエントランスに戻ると、まだアーサーたちと伊達眼鏡が言い合っていた。
「…誤解だなんだと長ったらしく言い訳してる最中か?」
「今度はキミが従魔を虐待しているって嘘を言い出した所だよ」
「ぴゅいっ!?」
高尾よりエルが怒っている。
さっきまで職員たちに撫でてもらって、お腹を見せるほど気を許してご機嫌だったのに。
そして高尾が怒るまでもなく、職員や受付嬢たちが怒髪天を衝く気配だ。
般若とか夜叉が爆誕しそう。
「それで保護だのなんだの言って巻き上げる気なのか?巻き上げる事を諦める気がないのか?」
「これは攻略情報じゃなくてただのヒントだから言うけど、エンジェリック・ラビットに進化させる方法は存在するんだよ。見つけられていないだけで」
「他のプレイヤーたちも知ってる情報か?」
「もちろんだよ。でも探し回っても見つけられてないんだよ!伊達眼鏡は探しもしてないくせに横取りしようとしてるけどね!」
そのヒントを信じて探しているらしいが、数年かけても見つけられていないらしい。
どんだけ難しい条件なのか。
しかしナビゲーションAIが保証する情報なのに、見つからないからと他人から巻き上げようとしている根性はさらに醜悪に聞こえた。
他に全く入手方法がないというならこの騒ぎも仕方がないと思っていたが、そうなると話が変わって来る。
5年もプレイしていたくせに、見つけられないお前らが悪いんじゃないか。
年齢制限のせいでずっと外から見ている事しか出来ないでいた高尾と違って、最初から遊んでいたくせに。
と、また恨みがましい気持ちが湧いて来てしまった。何かあるたびにぶり返しそうである。
「それはどのくらい進めないと見つからないものなんだ?」
「んー、ヒントヒントって喚かれて他の異邦人に教えた範囲内だから、このくらいは教えられるかな。エンジェリック・ラビット以外の従魔も進化させる方法だからね。かなり序盤でシステムが解禁されるんだよ」
「…つまりアレか。運営の想定では序盤で解禁されて従魔士系統の強化に繋がるシステムとして実装したのに、5年経っても見つかってない、と」
「そういう事になりますなぁ」
どう考えてもそんなデカいシステム解禁のイベントを見逃し続けている間抜けが悪い。
それとも運営が難解にし過ぎたのだろうか。
「あれか。ラビラビ山とやらで本物のエンジェリック・ラビットを見てから探し始めたから、探す範囲を間違っている奴」
「ノーコメント。でも本格的に探し始めたのはその頃だね。図鑑の挿し絵は序盤で見つかってたから、知ってる人は知ってたけど」
高尾も図鑑の挿し絵は見たから分かるが、確かに可愛かったが本物の可愛さを伝えきれていなかった。
絵だけではブレイクしなかっただろう。
「でも野生のエンジェリック・ラビットと従魔はまた別だよ。ネズミを見たでしょ」
「野生のエンジェリック・ラビットは好戦的か…?」
「ノンアクティブのウサギとは違うね」
つまりエルはこの世界で現在、最も可愛いエンジェリック・ラビットだと言い切って構わないということなのか。
高尾は職員たちの机の陰まで行ってエルを上着から出す。プレイヤーたちから見えない位置なのでエルも怒らなかった。
「従魔化して可愛さの増した、この世界で唯一の天使…!」
「ぴゅい?」
「最カワか!」
「最カワだね」
「最カワだと思うぞ」
職員たちが重々しく同意していた。
可愛いウサギは増えて欲しいが、高尾に迷惑をかけて当然という様子の連中は一生手に入らないままで良い気がして来た。
特に着ぐるみ集団には渡したくない可愛さだった。
□可愛い従魔の話はともかく、強力な従魔の入手も中盤以降なので、進化関連に興味が向かう頃合いも似た時期になったもよう




