60.3人目①
しとしと梅雨で墓地もしとしとだ。おかげで掃除もできない。濡れたごみは抵抗が増えちゃって箒では掃けないんだよね。それにダンジョンへ行くときも濡れる。
他のダンジョンは基本的にギルドの建物が覆ってて、待合場という大空間を設けてる。
うちは墓地にできちゃって狭いから、いまだにビニールハウスなんだ。いまも自衛隊の人らは傘もささずに歩いてるし。ダンジョンに傘は不要だし、置きっぱなしで魔物に壊されてもねぇ。
「じゃあ通路に屋根を作ればいいのでは?」
「どうした守、智がいなくて気でも触れたか?」
「奈良で会ったばかりですよ。それにもう帰ってくるし」
零士くんに突っ込まれた。智も京子ちゃんもいないし、早朝の掃除がひとりでさみしいのはあるけど。
ということでホームセンターに買い出しだ。鉄パイプやら屋根材やらを買い込む。
固定しちゃうと違法建築になっちゃうから地面に置くだけにするつもり。その代わり突風で飛ばないように重石はつける。
木っぽくした鉄パイプを柱にしてビニールトタンで片流れ屋根にする。ビニールトタンは日光を通すからね。台風とか来たら収納しちゃうし。
「よしやるか」
「夕飯までには終わらせたいなぁ」
昼ごはん後に俺と大人形態の零士さんでガチャガチャ作業してると、京香さんがやって来た。
「破水したようですので、産婦人科へ行きます」
「えぇぇ!!」
大変大変大変!
どうしよどうしよ!
「守君、そう慌てなくっても大丈夫です。すぐには産まれません。入院セットは用意してあるので病院までお願いします」
さすがは京香さん。準備がいい。
「守、こっちは俺がやっとくから早く行け」
「師匠、お願いします」
「任せとけ」
母屋に行けば瀬奈さんが入院セットのカバンを手にスタンバってる。
「先輩、守君をお願いします」
「おっけー。はい【安産のお守り】」
瀬奈さんが【安産のお守り】を京香さんに渡した。
京香さんを軽トラに乗せて病院へ。あわてず急げー。
「生まれてくる子も男の子だよね」
「はい。もう名前も決めてます」
京香さんから候補はいくつか聞いてた。どれも一文字で、俺と父さんに合わせたんだとか。瀬奈さんと一緒だ。
「名前は『湊』にしました。湊は船が集う場所。自分とは違って社交的になって欲しいという願いが入ってます」
そう語る京香さんの顔はどこか寂しそうに見える。
京香さんは社交的だと思うし、そうでなかったらビッチさんとかいままで会った悪党とかと渡り合えてないでしょ。
なんてことを伝えた。
「けっこう頑張って繕ってる部分もあります。ちょっと聞いてもらえますか?」
京香さんが語りだした。
「小湊一家は国家地方問わず優秀な政治家一族です。官僚も多く輩出しています。地方の豪族なイメージですね」
知らなかった、というかあえて聞いてなかった。京香さんが優秀な理由がこれなんだな。
瀬奈さんも智も、特に深く聞きに行くことはしてないんだ。聞いたら話してくれるだろうけど、話をしなかったことは隠したかったことかもしれないし、俺はそんなことを聞きたいとは思ってない。
隠し事や言いたくないことなんて、誰にでもあるでしょ。
「その中で、私は変わり者として白い目で見られていました。求められているのはリーダーシップで、それに興味のない私にとっては閉塞的な檻でしかありませんでした。生きていても面白くなかったです」
「面白くない、かー」
ダンジョンがなかった場合の俺の人生は、はたから見たら面白くはないだろうけど、寺の仕事も幼稚園の仕事も面白いんだぞ。
人との関りを感じられるしさ。
「それで、反抗するかのようにハンターへの道を選びました。まだまだ未開の分野で興味もありましたし。もしかしたら自分には未知の力があるのかも?という期待もありました。残念なことにハンターのスキルは得られませんでしたが、【鑑定】スキルでギルドの職員になることができました」
瀬奈さんの昔話に出てきた『ハンターになれなかった女の子』の原因がこれか。
「直属の上司が大多喜先輩でした。神出鬼没で、だからこそ人をよく見ていたのを感じました。怠ける職員はいつの間にか目立たない事務方へ異動して、ギルドからも姿を消してましたね。能力がありそうな職員は表に出してきた印象があります。現実現場主義な上司でした」
京香さんは就職と同時に受付に投げ込まれてるなら、有能判定されたんだろう。だって有能だし。
「当時は『興味深い上司』でしかなかった大多喜先輩ですが、とある日ハンターが血相を変えてダンジョンから出てきたことがありました。スタンピードが発生しました。いつの間にか、ゲート前に大多喜先輩がいましたね。麩菓子を持ってましたけど」
京香さんがふふっと思い出し笑いをした。いつでもお菓子を持ってるなんて、大多喜さんは変わらないなぁ。
「そこで大多喜先輩は『ここにいるハンターども、よーくお聞き。2階でスタンピードが発生した。規模は大きくないが、油断はしちゃいけない。魔物を一体たりとも表に出すんじゃないよ!』って叫んでダンジョンの階段を駆け下りて行ったんです。それに多数のハンターが続きました。この人ならついてってもいい思うようになりました」
それから大多喜を先輩と呼ぶようになったそう。いつか追いつきたいんだって。
瀬奈さんからは『ママ』で京香さんからは『先輩』。有能な部下に慕われてる。
「大多喜さんはすごいなぁ」
「先輩はすごいです」
京香さんが嬉しそうに笑った。
こんな話をしていればもう病院だ。受付をしてさっそく診察。即分娩室送り。
「子宮口がばっちり開いてるそうです」
京香さんがストレッチャーで運ばれていった。俺は病院のロビーで待つことに。緊急で入院だから部屋の用意もできてないのもある。
ロビーで待っている間に瀬奈さん、智、父さんにメールを入れとく。
そんなことをしていると、見知った顔の看護師さんがとことこ歩いてきた。
「無事に産まれたわよー」
「え、もうですか?」
「超安産ね。赤ちゃんも3500gと大きめよ。背が高くなるかもね」
うん、【安産のお守り】のおかげかな。何事もなくてよかったよ。
みんなに出産のメールを送ったら『もう?』って驚かれた。




