59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑰
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
翌朝。智は少し不安げな顔で奈良斑鳩ギルドにいた。仲間に話はしてある。
「まぁ佐倉だし、大丈夫っしょ」
反応は軽いものであった。
「ヤルゼー!」
「やるぜー!」
智の不安な心など知らない金髪コンビは元気いっぱいだ。今日は配信無しにしたので美奈子も一緒にダンジョンへ行く。
万全の体制ではある。
「ほら智、行くわよ」
背中を押されてゲートを通過した。
ダンジョンに入った智は「うーん」と背伸びし両手で頬をパンと叩いた。一緒に入った仲間の視線が集中するほどだ。
「よし、やるぞ」
ダンジョンに入ればそこはもう危険地帯だ。たとえ1階であろうとも。
無事に帰るのが獄楽寺のハンターの矜持。その代表格でもある自分があんな顔をしていては示しにならない。
「行くぞ!」
「「「オー!」」」
気を取り直した智は爆走する。空を飛んでは魔物を倒せないので地上を走る。
魔物はすべて葉子が遠距離でスナイプ。走り抜けざまに魔石と宝石を拾っていく。10階に着くまで30分かからなかった。
待ち構えているのはストーンベアゴーレムとウッドウルフゴーレム。はっきり言ってしまえば、もはや雑魚である。
だが、今回の遠征の成否はこいつらにかかっているのだ。
「よし、やるわよ」
「「「【カース】」」」
智が突撃すると同時に3人がストーンベアゴーレムとウッドウルフゴーレムに【カース】をぶつける。動きが緩慢になりバランスを崩したところでウッドウルフゴーレムを放り投げてストーンベアゴーレムの横に並べる。
智はその2体に手を当て【盗人】スキルを発動させた。
お願いだから黄緑の宝石! 高価な宝石はいらないから!
今日の智はラビットフットを持っていない。あれがあると高価な宝石が多く出るのだ。普通に考えればもったいないが、欲しいのは高くない宝石なのだ。
「お願いだからペリドット出して!」
智がえいえいえいえいと何度も【盗人】スキルを発動させる。そのたびに地面に宝石が転がっていく。
【盗品:アメジスト×1】
【盗品:サファイヤ×1】
【盗品:オパール×1】
【盗品:琥珀×1】
【盗品:ルビー×1】
【盗品:アクアマリン×1】
【盗品:トパーズ×1】
【盗品:オパール×1】
【盗品:ガーネット×1】
【盗品:アイオライト×1】
【盗品:サファイヤ×1】
【盗品:ルビー×1】
「もぅ、何で出ないのよー!」
もう半泣きである。希少な宝石は出るのに望んだものが出ない。物欲センサーめー、と恨み節を吐きそうになった時。
【盗品:ペリドット×1】
【盗品:アクアマリン×1】
【盗品:アメジスト×1】
「出た! よーし、なせば成る!」
出ると分かれば気持ちも軽くなる。
うりゃりゃりゃとスキルを暴走させ、地面に宝石を転がしていく。
「いまいくつ?」
「ペリドットは5個ね」
「宝石は数え切れねーぞ」
「300までは数えたゼ」
「行けるところまで行くわよ!」
もうやけくそである。
【カース】が切れそうになったらまたかけてを繰り返し、そろそろお腹が苦情を申し始めたころ。
「ペリドットが10個になったわよ」
「じゃあもういいかな」
スキルで盗んだ宝石はそれぞれのマジックバッグに突っ込んでいるが、すでに700個は超えている。これをカウンターに出して鑑定を頼んだらギルドからつまみ出されそうだ。
「えいっ!」
智がジャンプしてフロアボス2体から離れると、京子が拳で熊のどてっぱらに穴をあけ、美奈子が狼の首を斬り落とした。同時に光と消えた。
魔物なので人ではないが、人権はなかった。
「はー、これで終わったー。みんなと合流ねー」
みなに計画を話はしてあるので、昼は待合場に戻って報告する予定だ。
「ハラヘッター」
「はら減ったぜ」
「午後は切り上げて何か食べに行ってもいいかもね」
「「ソレダ!」」
「そうしたら観光の時間も長く取れそうね」
「「イエーィ!!」」
4人は足取りも軽く、1階まで戻った。
階段を上がって待機場に入れば、みなは揃っていた。時刻は13時を回っている。遅刻だ。
4人で集団が固まっているあたりに向かうと渋谷が声をかけてきた。
「ずいぶん遅かったじゃん」
「なかなかでなくてさー」
智は眉尻を下げて答える。苦労したのだ。
「ってことは、出たってことか」
「最低限はね」
いくつ欲しいという話はなかったので、そのへんは智の感覚ではある。
「だから午後は自由時間でいいかなって」
「お、いーねー。一日じゃ行きたいところを回り切れないしさ」
「できれば京都も見たいし?」
「大阪も行けるぜ」
「俺、琵琶湖って見たことなくってさー」
「ひこにゃん!」
気が抜けてオフになったからか、男子含めて姦しい。オンオフが切り替えできるのはよいことだ。
暴走しなければだが。
「成田、まとめよろしく」
智がいまだ委員長の成田にぶん投げた。
「みなさん、目的は達成したようで、ひと安心です。これで胸を張って寺に帰れます。なので、今後は自由時間にしましょう。一応寺へ帰るのは明後日とはなっていますが、守さんがこっちに来たのもありますし、それも各自で決めてください」
「宝石はどうするー?」
「あたしがまとめて持って帰るよ。自分のにしたいやつ以外は預かるよー。名前書いた紙と宝石をまとめてくれればマジックバッグに入れるから」
智が手を挙げる。智は間違いなく寺に帰るが、ほかは実家に帰ったりとばらばらになるからだ。
「特にほしい宝石とかねーんだけど?」
「俺が欲しいのはもう加工済みだ」
「とりまAチームでまとめとくか?」
「急いで売る必要もねーし、もしかしたら錬金で使えるかもしれねーしな」
「それだったらうれしいな」
【Aチーム】はこうなった。【リーダーズ】も似たようなものだが、女子は違う。各自の宝石を見せ合ってあーだこーだと始まっている。
「このくらいの大きさなら加工してピアスにできんじゃん?」
「イヤリングもありだな」
「小さい宝石を粉にしたらラメにならん?」
「さすがにもったいないだろ」
「その青い石、いいなー」
「そこなルビーとなら交換可能じゃぞ」
「そ、そのトパーズ、交換できる?」
「あによ太田、臼さんとペアにでもすんの?」
「そそそそーゆーわけ。でもあるけど」
話は尽きないようだった。
「じゃあ今日はこれで解散だな」
「よっしゃー観光だぜ!」
「どこ行く?」
「近くの法隆寺からだろ?」
「鹿!」
「前方後円墳もみてーな」
「守さんが、寺に行ったらパンフレット持って帰ってって言ってた」
「魔法で飛んだら怒られるかな。飛ぶと早いんだよ」
「それな」
すでに食事を終えたパーティは立ち上がって更衣室へ向かう。智らはゲットした宝石の中から黄緑だけ手に取る。
「十津川お姉ーさん視てー」
「すげーダロ!」
「頑張ったぞ!」
「ほら走らないの!」
4人はカウンターの十津川お姉さんへと向かった。
東京駅からバスに乗って大網駅へ。そこからはタクシーで寺に帰った。
あいにくの雨。もう梅雨だな
「守おかえり」
「ただいま、父さん」
ちょうど本堂から出てきた父さんと会った。袈裟を着てるから祈祷をしてたのかも。
「守、奈良はどうだった?」
「なんとか収まったかな。高野山とか有名なお寺から擁護してもらったのはびっくりしたけどありがたかったね」
「それはなによりだ」
父さんが顎をさする。
「有名な寺まで、トラブルをなんで知ってるんだろ。うちみたいな零細寺なんて知るすべもないだろうに」
「ふむ、父さんが若いころに一緒に行脚した仲間がおってな。ちょっと愚痴をこぼしたんじゃが、まぁ話が大きくなったのぅ」
「は!? 父さんの知り合いなの!?」
「みな。偉くなったのぅ……」
父さんが「ほっほっほ」と笑いながら母屋へ歩いて行った。




