59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑯
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
【ベヒモス】一行は、項垂れて歩いていた。行ったことのない階を連れまわされ、自分たちより明らかに強いさまを見せつけられ、心はバッキバキに折れていた。
「ハンター、やめるかな」
誰かがつぶやいた。情けないさまを配信され、今後もハンターをやれるとは思えなかった。
もちろん、今までやらかした事もあり、すさまじいしっぺ返しも予想される。それに耐えきれる自信もなかった。
「どうするか」
「バイトでもするか?」
「肉体系ならいいかもな」
「いままでの貯金は?」
「酒と女に消えたな」
ばくち打ちさながらな生き方だった。
「伏見さんはどうするんすか?」
リーダーたる伏見に振られた。伏見は小さく息を吐いてから答える。
「【ベヒモス】は解散だな。続けても悪評が付きまとうだろ。自業自得と言われりゃ反論もできねえし。各自好きに生きろ」
【ベヒモス】のメンバーはボンボンばかりで、親に縋り付けば生きてはいけるだろう。それをよしとするかは本人の資質だ。
【ベヒモス】のメンバーはみな若いといっても20代半ばが主だ。やり直しは十分可能だが、それができるほどまっすぐ生きてきた者がいない。
「いまさら他でハンターもきついしな」
「配信で顔ばれしてるしよー」
「親のコネで就職でもするか?」
「それしかねーな」
やはりぬるい生き方を模索していた。
「伏見さんはどうするんすか?」
「俺か? 何も決めてねーな」
伏見はそうとぼけた。
伏見はレベル19の熟練度7である。ハンターとしては中堅どころで、トップ層には勝てないがランク2程度のダンジョンなら十分にやっていける強さはあった。
「知らねえ土地に行くのもいいかもな」
【ベヒモス】を作ったのは、自分と同じ境遇で嫌われているやつらの居場所のためでもあった。
権力者の息子というだけで色眼鏡で見られ避けられるのは幼いころから知っていた。
親から離れる。普通なら独り立ちしている年齢。
だからこそ、こんな言葉が出たのだ。
「そんなとこに行っても顔ばれしてるしなー」
耳に入った言葉が胸に刺さる。
後悔先に立たず。
やっちまったのは事実だ。それを受けてなお生きていかねーとならねーのは、贖罪ってやつか?
伏見は心で自嘲した。
帰宅した伏見を待っていたのは、不機嫌極まった顔の父親だった。
「お前のせいで、無関係な寺からも文句を言われた。まったく胸糞悪い」
お帰り、もなくこの言葉だった。ただいま、と言う気も失せる。
「オヤジの指示でいやがらせした結果が招いたことだろが」
伏見自身の罪はさておいて、言い返す。
「お前がうまくやってればこんなことは!」
「何をもって『うまく』なんだ? だったら自分でやればよかったじゃねえか!」
「なんだと! デカいだけでろくな働きもしなかったおまえを育てたのはわしだぞ!」
「クソみてーな教育でねじ曲がった結果だろ!」
「な、なにをー! お前など、もう息子ではない! いますぐ出ていけ!」
「ハッ、言われなくても出ていくぜ!」
言い合いで頭に血が上った伏見は、その日のうちに家を追い出された。
「さて、どこへ行くかな」
京都駅の券売機の前で考え込んでいる伏見がいた。
今までためていた分の金はある。着の身着のままに近いが、必要なものは買えばいい。
「おや、あなたは【ベヒモス】のフシミさんではないですか」
伏見の背後から声がする。伏見が振り向けば、そこには赤い髪を後頭部でひとつにまとめてた白人の優男が立っていた。
「なんだてめぇは」
「oh失敬、私は米陸軍のチャーリーとモウシマス」
「アメリカの軍人が何の用だ?」
「スカウトですよ。わがアメリカ軍は有能なハンターを募集してオリマス。わが軍の調べでフシミさんは有能なハンターであることがわかってマース」
「……アメリカに行けってことか? オヤジの差し金か?」
「イエイエー。我が軍独自の動きデスヨ」
チャーリーはニコリとする。
「まぁ、あなたに選択権はないのデスガネ」
チャーリーがにやりと笑うと伏見が無表情になり腕をだらんと伸ばした。
「同意いただけたようでとてもうれしいデスネ。さて、あちらに仲間がいますので。一緒に行きましょう」
チャーリーが示す先には、【ベヒモス】の仲間が立っていた。
守が来てから数日たち、明日がダンジョン最終日となる日の夜。
「このままだとまずいわね……」
ホテルの部屋で智が腕を組んで唸っていた。ベッドに広げているのはダンジョンでゲットした宝石類だ。大小様々な色の宝石が100個以上あるがペリドットは1個しかない。
これらは智がゲットした宝石だが、美奈子も葉子も京子も似たようなものだ。
ラビットフットを持ってゴーレムを倒しまくっているのだがなかなか黄緑の石が出ない。
希少な赤や青が多く、ブルーダイヤすらもあった。ラビットフットはそっちの方へ恩恵を与えているらしい。
赤はルビーで青はサファイヤが多く、そっちの方が高いのだが欲しいのはペリドットである。うまくいかないものなのだ。
「ペリドットはまだ5個しかないのよねー」
遠征に来ているハンター全員の集計でこれだ。物欲センサーというものを信じたくなってきた。
「トモのスキルを使うしかネー?」
「そうねぇ。ばれると怒られるんだけど」
葉子にそう言われ、それしかないかな、とも思っている。
智の【盗人】スキルでペリドットが出るまでカツアゲすればいいのだが、そのためには魔物を捕まえて触れていなければならない。人間に対して殺意しかない魔物に触るなど言語道断である。
「トモー、フロアボスでやろーゼ」
「みんなで【カース】をかければ動けなくなるだろうけど」
智は気が進まない。札幌でさんざん怒られたのだ。結構、堪えた。
「でもよー、せっかく来て土産が少ないのはなー」
「それはわかるけど、無理するなとも言われてるわよ」
京子がぶー垂れると美奈子が戒める。京子はすっかり【桜前線】の一員になっていた。
「あたし的には、ちょっと無理しても持ち帰りたいのよねー」
魔法に抵抗する性能があるのは貴重だ。身をもって【フィアー】や【サイレス】を食らっている智はそう考える。いずれ行くことになる6階以降でも役に立つはずだ。
それ以外でも、あの怪しいアメリカの商社の魔の手が日本にまで伸びることを考えると、対抗手段は多い方がいい。
「……やるだけやりましょ」
ということになった。




