59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑮
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
「はい、きびきび歩く」
ダンジョン19階で伏見たちならず者6人を護送中。一応武器は持たせたままだ。彼らの実力だと逃げても死ぬだけだからね。
「う、うるせぇ、こんなところで落ちついて歩けっかよ!」
「うわあアイアンゴーレムの集団だ!」
「助けてくれぇ!」
のこのこ歩いてれば魔物と遭遇するわけで。アイアンゴーレム6体と『こんにちは』した。
ならず者らは慌てふためくだけで対処できないでいる。伏見は、及び腰っぽいけど剣を構えてるな。割と根性あるな。
「魔法禁止!」
「6体だから俺が2体な!」
「今度こそ俺だって!」
「速いもん勝ちだろ?」
「あー! 【闘刃】はきたねえ!」
あれ、【Aチーム】が蛮族になってる? あっという間にアイアンゴーレムの姿が無くなった。
「お、黄緑の石だぜ!」
「赤くてきれいなのはルビーか?」
「緑だけど色が濃いから違うな」
さっと魔石と宝石を拾ってた。たくましい。
「な、なんだこいつら……」
「あっという間に片付けやがった」
「きちんと強いでしょ、うちの子たちは。自慢の子たちだよ?」
ならず者らが驚いてる。
ふふーん、どや顔してやれ。
その後も何回かゴーレムとエンカしたけど「ひゃっはー即デストロイ!」って感じだった。
19階から離れて18階を歩いていると、背後から地響きと振動が襲ってきた。振り返れば、ゴーレムレックスが走ってきてるじゃん。迫力がすごい。
「【説法】が切れちゃったか。さすがダンジョンボス」
ダンジョンボスは、やっぱり普通の魔物とは違う気がする。特殊スキルを持ってたり、俺のスキルを破ったり、ともかく凄いって思える。
「迎え撃つしかないかなぁ」
俺たちをスルーして上へ行かれても困る。スライムダンジョンのボスも表に出てこようとしてたし。
でも下手に倒しちゃうとダンジョンが無くなっちゃって、ペリドットもゲットできなくなっちゃう。
ここで稼いでるハンターも管理してるギルドも困っちゃう。特に悪いことはしてない感じのギルドだったし、うまくやってるダンジョンだから残さないと。
「収納してダンジョンマスターになるしかないかな」
ハンターが、たぶんうちの子たちも入り込んでるからダンジョンを収納できないし。ダンジョンを収納したことでうちの子たちが死んでしまったらと考えたら、絶対にできない。自分が許せなくなる。
「……よし、やるか」
覚悟を決めてダンジョンボスを収納することに。
『ギィィヤァァァァァァ』
ゴーレムレックスが鉄の塊のブレスを吐いてくるけど金剛杖を当てて全部収納していく。レベルのおかげで、これくらい俺でもできちゃうんだ。
「それは効かないんだよ。ごめんね」
ゆっくり近づいてもゴーレムレックスは後ずさることもない。逃げる気はないようだ。
「ごめんね」
謝りながら金剛杖で触れて収納した。即経験値にしてしまえば、地面が輝きだす。
【ゴーレムレックスの魔石×1】
【ゴーレムレックスの鋼×10トン】
【鋼の心のスキル書×1】
【鋼のブレスのスキル書×1】
【奈良斑鳩ダンジョンマスターのスキル書×1】
「一時的に踏破しちゃうから」
叫んでみなに伝える。光が消えたら、そこは待合場だった。周囲にはハンターらとうちの子たちが立ちすくんでる。ただ、踏破だってのはわかってそうな顔だ。
「ごめんね!」
間髪入れずに【奈良斑鳩ダンジョンマスター】のスキル書を使用。ダンジョンマスター権限で元の位置にダンジョンを出現させる。
これでヨシ!
「わー、びっくりしたー(棒)」
「びっくりしたじゃないわよ!」
「ぐぇぇぇぇ」
智のドロップキックを食らった。
姿勢を正して正座の俺。俺の前には仁王像のような智。にじみ出る圧がコワイ。阿修羅さまよりも怖いんじゃ?
はい、お説教の時間です。
「で、申し開きは?」
「ダンジョンボスが表に出ようとしていたのでやむなく収納したのちにダンジョンを再出現させた次第です。ダンジョンは今までと同じです」
「おねーちゃんたちと一緒か」
「イエスマム」
ちなみに、ダンジョンボスは『きんつば』と名付けた。灰色のこいつを見てたら思い出したんだよ。かわいいやろがい。
ちなみに取手ダンジョンも俺がマスターになっちゃてるので、あっちのダンジョンボスだったオルトロスは『ふがし』と名付けた。こっちも不評だった。解せん。
「作務衣が正座させられてるぞ」
「尻に敷かれてんじゃん」
あちこちからそんな声が聞こえる。スマホも向けられてるけど、それを気にしてられない。いまも配信はされてるんだ。
知ってるか? 旦那が尻に敷かれてるくらいが夫婦円満なんだぞ?
奥さんが3人いるから多数決では勝てないしさ。
「ダンジョンボスもいるし踏破もできるし。ドロップする宝石も変わらないよ?」
生殺与奪の権利は俺は握っちゃってるけど。俺の意思でダンジョンを無くせちゃうのは内緒で、智もそれはわかってるから触れないようにしてるのがわかる。
「ダンジョンボスが倒されちゃったらどうするのよ」
「そもそもダンジョンボスが倒されたら踏破とみなされてダンジョンは消滅するんだから同じことでしょ?」
踏破する=ダンジョンを無くすつもりなんだし。
その場合でも俺の手元にダンジョンが戻ってくるんだけどね。
あれ、そうしたら、何も奈良で集めなくっても……って。それは踏破されたらの場合だった。いま無くしちゃったらダメね。ここが困っちゃう。
調べてもらったけど不正とかの話もないし、外にアクセサリーの工房もあって、小さいながらも経済圏ができてるんだ。
それを壊してまでダンジョンを持ち帰るつもりはない。
「むー」
智がかわいいあひる口になってる。
まぁ、こうなっちゃったらどうしようもないんだけどさ。
「あたしも一緒に行くけど、ギルドに説明しなさいよ?」
赦された。
なお、ならず者たちは這う這うの体で帰った。というか追い出した。
そしてカウンターに戻って、重役出勤してきたギルド長とお話し合いをした。
そもそもダンジョンマスターなるものが初耳で信じるに足らないのでけんもほろろな対応されたけど、それは仕方がない。悪いのは俺だ。
でも『変わりなし』ということになったから、結果オーライである。
「じゃあ俺は帰るけど、無理しないでいいからね」
それだけ言って千葉へ帰った。




