59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑫
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
奈良駅から電車に揺られること10分くらいで法隆寺駅に着く。この距離なら飛べたかも?
法隆寺駅前には「法隆寺へはバスで」という看板があった。でも俺は歩く。知らない土地を歩くのは楽しいんだ。うちはお金がなくって旅行とかもなかったしさ。
ダンジョン関係であちこち行ったけど、ゆっくり見て回る時間はなかったもんね。
「歩くのはいいなぁ」
法隆寺駅から法隆寺までテクテク歩く。先にギルドに行くんだけどね。駅の看板には徒歩20分って書いてあった。
「畑が多くて、寺の近くみたいだなー」
つまり、田舎ってこと。同じ田舎でも東金とは空気感が違うんだ。東金はほのかに潮の香りがするときもあってね。海が近いって思い出すんだよ。
地図アプリを頼りに奈良斑鳩ギルドへ到着。確かにアクセサリーのお店が連なってて、女の子なら気になっちゃうね。俺が女ならふらふらと吸い寄せられちゃうかも。
朝早くてまだやってないんだけどね。だって現在時刻は7時前だもん。法隆寺の門も開いてない。
「待合場でおにぎりでも食べるか」
駅のコンビニで買ったやつ。朝早すぎて弁当は置いてなかった。残念。
ギルドの入り口をくぐって待合場に。さすがに誰もいない。誰も座ってない椅子が寂しそうだ。
カウンターにも人影はなし。緩めなギルドだね。うちも大概で人のことは言えないけど。
「ちょっとお邪魔して、朝食にしよう」
適当な椅子に座るとカウンターから「あれ、もういる」という声が。受付のお姉さんが出勤したみたいだ。涼子さんよりは若そうだけど30は越えてる感じなキレイ目なお姉さんだ。というか宿直とかいないの?
おっと、先制のあいさつをせねば。先んじたあいさつは戦場を制するのだ
「おはようございまーす」
「ちょ、作務衣!?」
「作務衣? イエス作務衣! イエスイエス!」
作務衣って言われたから反応しちゃったよ。朝食中断。カウンターに向かう。
「うちの子たちがお邪魔してます。あ、これお土産です」
収納から東京ヒヨコと千葉の落花生ときれいな包帯100個とコケケケの肉20セットとランドドラゴンのハム10キロをカウンターに置く。お土産という名の賄賂だ。
「あ、こ、これはどうもご丁寧に……すごい量ねって超高級ハム!! 食べたことない!!」
お姉さんの目がキラキラした。お肉好きで悪い人はいない。この人もいい人に違いない。
「いろいろトラブっちゃっててすみません。確実にうちで解決しますんで」
「あー、あれは向こうが勝手に絡んできただけだし。ギルドに迷惑は掛かってないわよ」
お姉さんが苦笑いした。おっと名乗らねば。
「申し遅れました、獄楽寺ギルド長の坂場です」
ささっと名刺を出す。俺も社会人らしくなったでしょ?
「あ、奈良斑鳩ギルド受付の十津川です。ギルド長の出勤は10時なのでまだ——」
「ギルド長に用事があるわけではなく、うちの子たちの様子を見たついでに法隆寺を拝観しに来たんですよー」
「なる。若くて強いのに謙虚でまじめな子たちだね」
「自慢の子達ですよー」
俺が教育したわけじゃないけど。
「あ、朝食の続きどぞ。私も仕事の用意しないと」
ということで、おにぎりをもしゃもしゃ食べる。お茶は寺からポットで持ってきたやつがある。まだ冷めてない。
食事ついでに待合場を眺めた。ダンジョンの階段とゲートがあって、イスとテーブルも多い。天井も高くて開放感がすごい。平屋だからこそなのかな。
「広い空間がそばにあるといいのがわかるなー」
うちじゃ無理だけど。墓地の端っこだし。
墓地を拡張するには『墓地、埋葬等に関する法律』に従って自治体との打ち合わせと届け出が必要でさ。これがまた面倒なんだよね。檀家さんが増える見通しもないから墓地の拡張の許可は出なさそうだし。
いっそダンジョンの階段横の土地にギルドを建てようかなぁ。土地は買い占めたからあるんだよね。
ギルドも母屋で超零細企業みたいなありさまだし。待遇も良くしないと。うちの財布を握ってる京香さんと相談だ。
なんて徒然なことを考えていたらハンターが来始めた。ただ今の時刻は8時過ぎ。勤勉というか働き者さんだ。取れるのが宝石だからか若い女性の姿も多い。
「……作務衣!?」
「ラスボスが来た!?」
「やべえ、ダンジョンがなくなっちゃうの!?」
なんかひどい言われようだなぁ。そんなことして…………………………きたかも?
「なにもしませんよー」
合掌する。
通じるかわからないけど主張だけはする。言わないと良い様に取られちゃうってのは、色々なことで学んだよ。言わないと損。
「守さん!?」
「なんで奈良に!?」
入り口が騒がしいと思ったら、【Aチーム】の5人がいた。後ろには【リーダーズ】の5人もいる。
みなが速足でやってきた。
「みんなおはよー」
「「「「「っざいます!」」」」」
「けがとか疲れはない? 大丈夫?」
「ないっす」
「大丈夫っす」
「分相応な階でやってるんで」
「それはなにより」
無茶はしないとは信じていてもホッとしたよ。彼らを送り出した責任は俺にあるもの。だからこそ来たんだけどさ。
「で、守さんは何で奈良に?」
「えっとねー、防衛省の偉い人の頼みでねー」
みなまでは言わないよ?
「あーーーー守、やっぱりいるじゃない!!!」
入り口から智の元気な声が聞こえた。小脇に京子ちゃんを抱えているのはwhy?
「来てるなら連絡よこしなさいよ!」
「智、京子ちゃんを抱えて走らない!」
「兄貴ー、智がオレを抱えるんだよー。何とかしてくれよー」
「あんたは確保しとかないとどっかに行っちゃうからでしょが!」
京子ちゃんを抱えたまま智がテーブルに来た。京子ちゃんを腿の上にのせて椅子に座る。ダンと肘がテーブルに乗せられた。取り調べが始まるらしい。
「で、あたしに連絡がなかった理由は?」
「兄貴もダンジョンに入るのか?」
同時に話された。聖徳太子なら聞き取れるんだろうけど、残念ながら俺は足元どころか地面を掘っても及ばない。
「俺は入らないよ。あと企業秘密があってさ」
「あたしもその企業の中の人なんだけど?」
「まぁちょっとお茶でも飲もうよ」
いろいろね、ここじゃ言えないこともあるんだって。
「じゃあ今日はあたしがPC管理するわ」
京子ちゃんをどかしたと同時にテーブルの上にノートPCが置かれた。下手人は美奈子ちゃんだ。昨日も美奈子ちゃんが管理してたしね。
「今日は思う存分狩りができます」
美奈子ちゃんは『超ご機嫌』と額に書いてあるくらいの笑顔だ。PC担当させてごめんね。
「着替えてきます」
京子ちゃんと葉子ちゃんを小脇に抱えた美奈子ちゃんがトテトテ更衣室へ向かった。一緒に来ただろう【カチューシャ】の5人も一緒だ。
「で、京都のあれは何なの? どうやったのよ。直前に配信に出てたじゃない」
「あれはね――」
「やっと着いたぜ、めんどくせーなー」
ちょうど、タバコくわえて中に入ってきた集団がいる。【ベヒモス】のお出ましだ。あの長髪が伏見だな。不遜オブ不遜な奴だななまったく。でもちょうどいいや。
「実際に見せた方が早いね」
カウンターに隠れて【化身】スキルを発動させる。俺そっくりの分身体が現れた。ちゃんと作務衣姿だぞ。
「あ、これかぁ」
智は納得したようだ。これでふたりがかりで攻めてるもんね。夜の大運動会でさ。いろいろ開発したもんね。
「じゃあ分身君よろしく」
お願いすると分身君は合掌してカウンターを出て行った




