59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑧
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
トレイン行為をされたその日の20時ちょっと過ぎ。ホテルのロビーに集合した智らの顔はむすっととしていた。夕方までダンジョンで宝石集めをしていたのだが【ベヒモス】に何度も邪魔されたのだ。
集まっているのは全員ではなく、一番被害受けた【カチューシャ】の5人と【桜前線】の智と美奈子に【Aチーム】から千葉が、【ポニー】からは足立が、【リーダーズ】からは成田が参加だ。
全員が集まる必要もないので被害者たる【カチューシャ】と各パーティーから1名がロビーにいる。智は裏番長なので。
「トレイン行為だけじゃなくって付きまといとか、信じらんない」
「ダンジョンを出てもついてきたしね」
「ほんと、ストーカーだよね」
【カチューシャ】の青梅、三鷹が吠えると智がなだめる様に同意する。最初のトレイン行為からしばらくしてストーカー行為もしてきた。注意しても「たまたま同じ方向に行ってるだけだ」と取り付く島もない。
恐怖もあるが気持ち悪さが勝っている。
「寺で何か動いてるとは思うけどって……寺から着信だ」
智がそう言うと同時にスマホにメールの着信がある。瀬奈からだ。
「今から配信するわよー、だって」
「ちょっと用意するわね」
美奈子がささっとタブレットを取り出してテーブルに乗せた。素早くスマホとつなぎポチポチと操作すれば画面には瀬奈が映る。
『はーい、獄楽寺の瀬奈でーす』
『寺のメイドこと京香です』
『ただ今の時刻が、20時25分でーす』
『ライブ配信を始めたいと思います』
タブレットの画面に瀬奈と京香が出た。脇には守の姿もある。映っている背景からすると食堂のようだ。ちょうど授乳時間だからか瀬奈と京香は赤ちゃんを抱えている。守は哺乳瓶をしゃかしゃか振って混ぜていた。
『いまー、うちのクランの子たちが奈良斑鳩ダンジョンへ行ってるんだけどー、そこで【ベヒモス】ってクランにいやがらせを受けててー』
『配信中にトレイン行為もありました。その後もストーキングを繰り返していました』
画面の半分にその時の映像が映される。ドローンからの俯瞰視点で【カチューシャ】に対して【ベヒモス】の男たちが走ってきている。
『おら危ねえぞ!』
『邪魔だ邪魔だ!』
ハンターらが駆けていき、そのあとにゴーレムの姿が見えた。
——うわ、まじでトレインじゃん
——あいつらが【ベヒモス】?
——画像だけだと何ともだな
——トレイン行為に間違いはないけどな
——あかちゃんがおる!
——【ベヒモス】ってなんだ?
——寺のボンボンの集まり
——使えないから放り出されたバカ息子ってやつか
コメントも流れる。
その後には【リーダーズ】【カチューシャ】の後をつけるハンターらの姿も映されていた。
『あのハンターたちが誰なのかは、奈良ダンジョンの入場記録をたどればわかります。【ベヒモス】の名簿と顔写真がありますので比較しましょう』
画面に男たちの顔写真とストーキングしている人物の顔のアップが映される。確かに似ている。
『この事実を持って苦情を入れた直後に京都で有名な寺からクレームのような迷惑電話がかかってきました。これです』
京香さんの言葉が終わると音声が流れる。
『千葉の田舎の寺が生意気だ』
『映像を加工しただけで証拠にならん』
『弱小寺は黙っておれ』
『金の無心か?』
男の声でだがそれぞれ違う声だ。
『名前は伏せますが、京都では有名で修学旅行でも必ず訪れる寺からの言葉です。かけてきた電話番号でわかりますので』
『お坊さんの言葉なのかしらー? うちの住職さんと比べると、品位がなさすぎねー』
『なお、当クランもギルドも寺もお金には困っておりませんのであしからず。貴寺に寄進しましょうか?』
京香と瀬奈が眉を下げて困った顔になる。
——マジかよ
——京都の寺って傲慢だしな
——北陸新幹線にも反対してるしよ
——京都じゃなくなるとか何様だって
——署名も全然足りないらしいぜ
——ざまぁ
——金持ちは喧嘩しないをリアルで見たぞ
コメントも辛めだ。
『今後もいやがらせが続くようならこちらも何か考えないといけませんね』
『ほんとよねー』
『念のために総務省と防衛省へは通告しました。当寺が動きますよ、と』
『やってきたのは向こうだしねー』
京香と瀬奈の言葉に守が黙って頷いている。
『仏さまがお怒りになられなければいーわねー』
『今日はクラン【ベヒモス】とトラブルになっている報告でした』
『『またねー』』
瀬奈、京香、守が手を振って配信は終わった。時刻は20時30分だ。ものの5分程度で配信が終わってしまった。
「……守が何もしゃべってなかったわね」
智が口をとがらせている。
守だったら、寺が品位を落とすようなことをしているなら真っ先に怒りそうなのに。なんかおかしい
そうは思うが口には出さない。みなが不安がるかもしれない。
「クランとしてはすでに動いてて、一歩も引く気がないのがわかったので一安心です」
「まー、寺に金の話されてもなんとも思わないだろうぜ」
成田と千葉がこぼす。実際に問題にすらされていない。
「貧乏で何が悪いってんだ!」
京子が立ち上がって憤慨する。ついでにスキルも発動さえてしまったらしく超野菜成人のごとく金ぴかだ。
「金持ってても腐った人間になったら金がかわいそうだぜ!」
「ソレナ」
京子の主張に葉子が同調する。この子もお金がなかった子だ。
アイツらは自分たちよりもずっと恵まれている。金があるなら片親でもないだろう。金があれば楽だったろうが、そうではなかった。物心ついたときにはそうだったのだ。
だが、自分たちは耐えた。もちろん支えてくれた人もいるし、自分自身が強くあれと頑張った。
だからこそ許せない。
「「ザケンナ!」」
ふたりのうっぷんが噴火した。
「葉子も京子も落ち着きなさいよ。おにーさんがそんなのを許すと思ってる?」
「ねーな」
「ネーナ」
即答するふたり。京子と葉子は座った。
「あの人たちが動いてるなら、わたしたちは予定通り動くだけ。勝手に動いたらかえって邪魔になり兼ねないわよ」
「そうですね。僕たちより、よほど頭がよくって怖い人たちですし」
美奈子がまとめ成田が同意した。
「じゃー明日も時間通り集合ね!」
智の〆で解散となった。有無を言わさぬパワープレイだ。
『『またねー』』
スマホの画面の中で瀬奈さんと京香さんと俺が手を振ってる。ふっと画面が暗くなり、クラン【獄楽寺】のマークが映し出された。配信の待機画面だ。
「うまく動いてよかったよ」
ハイ、守です。現在の時刻は20時30分。俺は京都駅の北にある京都御所あたりの空にいる。もう暗い上にどんよりしてるから地上から俺なんて見えないだろうね。念のために黒い服を着てるけども。
眼下には大学があって、小さな寺がたくさんあるエリアだ。
で、いろいろ調べたらこの近くにあるとあるデカい寺が【ベヒモス】のリーダーの親が偉い住職やってる寺なんだと。巨大で歴史があって権威もあるから、腐敗もしやすいんだろうなぁ。
まぁまぁ親がそうなら子もそうなのかって感じ。
「さーてやりますかねー」
ふよふよと北に移動して目標確認。
「ちちんぷいぷいのぷい」
うんうんできた。ミッション完了。作戦時間わずか5分。
「ということで撤収ー」
ふわふわ浮かびながら京都駅近くの暗がりで着地。さーて、千葉に帰ろうっと。




