59.奈良斑鳩ダンジョン日記⑤
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
ダンジョンに入った智がマジックバッグから配信用の母機を取り出し電源を入れる。母機はふわっと浮き上がり高度100メートルあたりで安定した。ドローンを5機取り出してそれぞれのパーティを追うように設定する。目標が集団だとばらけたときに対応できないので特定の個人を追跡するようにしてある。
智が持っているマジックバッグは特別製で6畳の部屋くらいの物が入るので配信機材は余裕だ。
【桜前線】は18階、【Aチーム】が15階、【リーダーズ】が12階、【ポニー】と【カチューシャ】が11階に行く予定だ。10階までは一緒なので団体で走り抜けた。
地上の美奈子はノートPCの画面にそれぞれの映像が映ったことを確認。画面に『こちら獄楽寺、映像確認した』とコメントが流れていく。寺での確認もとれて一安心だ。
「大丈夫そうね。電源はどうしようかな」
美奈子はカウンターを見た。あそこなら電源があるだろう。カウンターへ向かう。
「すみません、電源をお借りしたいんですけど」
「あー、いいよ。ケーブルが届かないだろうからこっちにおいで」
カウンターのお姉さんが手招きする。今日は三十路っぽい落ち着いた服で、優しい感じがする。
「ありがとうございます!」
断る理由もなしと美奈子はお呼ばれしてカウンターの中に入った。ノートPCをカウンターに置き、電源をつないでお姉さんの横に座る。椅子はお姉さんが用意してくれた。
「それ、すごいわね。アメリカで流行ってる最新の機材でしょ」
お姉さんがノートPCの画面を指さしている。画面は5分割されており、それぞれのパーティの様子が映し出されていた。ちょうど【リーダーズ】がアイアンゴーレムと戦っており、危なげなく倒したところだ。
「うちのクラン長が買ったんですよ、1式で2億位だったかな?」
美奈子はマジックバッグからマグカップと水筒を取り出し、入れておいたアップルティーを注ぐ。
「そ、そんなに高いの!?」
「日本だとまだ獄楽寺しか導入してないって聞いてます」
美奈子はお茶菓子としてのクッキーを取り出し、お姉さんとの間に置く。クッキーは宿の近くのコンビニで買ったものだ。
「お、気が利くねぇ。しっかし、金はあるところにはあるんだねぇ」
お姉さんはクッキーを口にくわえ、腕を組んで唸った。熟れたわがままボディがどしっと腕に乗っかっている。待合場にいる野郎どもの視線を鷲掴みだ。
「うちのギルド長兼クラン長はすごい人ですから。そういえばお姉さんのお名前を聞いてませんでした」
「私は奈良ギルド受付の十津川さ。あんたは最強ルーキーの四街道だろ?」
「ルーキーの中では強い方かもしれませんけど、全然雑魚ですよ」
「その雑魚にブルって因縁も付けられない男どもがあそこにいるけどねぇ」
十津川が待合場に目を向けると、ハンターたちはさっと視線を逸らした。おおかたマシュマロおっぱいを凝視していたのだろう。
「はー、もう10階に着いたんだ。速すぎない?」
画面はフロアボスの2体のゴーレムが倒されて光となって消えるところだ。
『ふぅ、倒せました』
『確かに硬いけど、斬れないほどじゃないね』
倒したのは【リーダーズ】の5人で、強度チェックも兼ねてのことだ。【リーダーズ】で倒せるなら【カチューシャ】もいけるだろう。
「あのゴーレムは少し硬いだけで動きは遅いし、あれなら墓地ダンジョンのワイトの方が手ごわいですよ」
「ワイトって、アンデッドのかい。話にしか聞いたことはないけど、魔法を使ってくるんだろう?」
「厄介な魔法を使ってくるので、その前に倒すのがセオリーですね」
などと雑談をしていた。
寮の食堂のモニターには奈良斑鳩ダンジョンを探索中のクランの面々が映ってて、午前中の家事を終えた俺、涼子さん、瀬奈さんが視聴してる。手元にはキーボードもあってコメントも書けるようにした。俺たち以外にも見ているようで、「おっぱいがいない!」「ゴーレムかこれ」などのコメントが流れていく。
「京子! 危ない! あぁ! もっと落ち着きなさい!」
手に汗握ってる涼子さんが叫んだ。
身長3メートルを超えるゴーレムに対して無防備に突っ込む京子ちゃんが危うく見えるんだけど、どこかの超野菜星人みたいに金ぴかに光ってるから問題ないんだよね。
『あー、葉子に取られたー』
『ヘヘーン。これで2勝2敗の五分ダゼ!』
『くぞー、リードしてたのにー!』
京子ちゃんがゴーレムに到達する直前に葉子ちゃんの矢が頭部に突き刺さって爆発。それで倒しちゃった場面が流れてる。
『はいはい、まだゴーレムは出てくるから油断しないの!』
『『ワカッター』』
『まったくもぅ……』
美奈子ちゃんがPC管理でいないから智がひとりで暴走子犬コンビの面倒を見なきゃいけなくって、ため息をついてた。わかるよその気持ち。大変だよね。
「18階でも余裕に見えるなぁ」
京子ちゃんはすでにレベル20だし、葉子ちゃんもレベル18になってる。スキルも鍛えてるし、あとからのスキルもあるしで余裕なんだろうなぁ。
——このまま踏破しちゃうのか?
——そんなのお父さんが許しません
——だれがお父さんじゃ!
——わしゃおかーさんじゃ!
流れていくコメントも緩んだものばかりだ。
『早く次のゴーレムでてこーい!』
京子ちゃんがムキーって地団駄を踏んでる。ちょっと気が緩みすぎだなぁ。
「気が緩んでるぞー。だから【ベヒモス】ってやつらにマウントされちゃうんだよっと」
キーボードで打ち込む。
『気が緩みすぎって、寺からお叱りが来てるわよ。このままだとお尻ペンペンね』
美奈子ちゃんの声が聞こえる。管理用のPCでしゃべってるんだろう。
『ぞ、増長なんてしてねーぞ!』
『そ、そうダゾ!』
暴走子犬コンビが落ち着きを無くしてる。
——作務衣がなんか言ったのか?
——お尻ペンペンが有効だと!?
——俺にペンペンさせろ!
——お前がされるんだよ!
——【ベヒモス】ってあれだろ、京都の有名寺の不良息子ども
——それな。悪ガキしかいねえってやつな
——小皇帝かよw
「【ベヒモス】ってそんな悪党の集まりなの?」
奈良京都の有名なお寺の裏の評判はお察しの通りで、他の仏閣を下に見がちなんだよ。奈良京都に限らずだけどデカい寺はそうなりがちで、うちみたいな零細寺なんて眼中無しだろうね。
そこの世間を舐め切った子供たちは、千葉の暴走族と同じレベルだろうか。平安のころから寺は武力を持ってやりたい放題だった歴史もあるし。
「面倒なことに巻き込まれないといいなぁ」
それフラグーとか突っ込まれそうだな。




