59.奈良斑鳩ダンジョン日記④
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
智らが奈良に出かけて三日経った。特に連絡はないから問題なしだと思う。
今日は寮の食堂で瀬奈さんと京香さんとで打ち合わせだ。
先日撤去した檀家のおじいさんの家に出現したダンジョンは雪原ダンジョンだった。智が卒業課題で訪れた札幌ダンジョンのランク1バージョンだね。
「浦河姉弟も見慣れたダンジョンだって言ってた」
ちなみにふたりはビッチさんのおひざ元の【つくばダンジョン】へ遠征に行ってる。羅さんが、太田ちゃんがいなくてつまらなさそうにしてる臼さんを連れだしてた。
「ラビットフットもゲットできるわねー」
雪ウサギがかわいいらしい。寒いのでさすがのコケケケも引っ越しはしないだろう。もしかしたら凍ってしまうかも。
「一般に販売するのは危険ですが、うちの子たちには持たせたいですね」
「小さいから服のポケットにでも入れておけば盗まれる心配もないしねー」
ということで昨日から乱獲してる俺がいるわけで。ドロップは20羽に1個くらいの割合だった。俺ですらこれなんだ、かなりの低確率だね。
「これで寺にあるダンジョンは6個になりますね」
「増えたわねー」
備後(獣系)、神西(ゴブリン系)、日比谷(ドラゴン系)、佐渡島(スライム系)、取手(獣系)、東金(寒冷地)だ。このうち備後と取手が獣系ダンジョンなので備後ダンジョンを日比谷に移す予定だ。いわきダンジョンと備後ダンジョンは並べて設置するつもり。
「その件で日比谷から増員要請が入ってるわねー」
「元日比谷ギルドの職員のようですね」
ちょっと前から増員ほしいって話はビッチさん経由で聞いてた。ダンジョンが増えるタイミングでちょうどよかったんだろう。
「じゃあ良いんじゃないかな」
ふたり増やす予定で、ひとりは元ハンターの30歳男性だそうだ。日比谷ダンジョンの常連で面識もあるので職員の護衛としても良いかなって。もうひとりは元日比谷ギルドの職員で経理に強い人。ほかのギルドへ行ったけど増員の話を餌に引っこ抜いたらしい。これで日比谷も6人体制か。
あれ、寺と変わりない感じ?
うちがおかしいだけか。
「それと、明日から自衛隊の訓練部隊が来る予定です」
「船橋の特殊部隊だっけ?」
「特戦群と第一空挺団の混成部隊ですね。三条司令ほか数名が経験者としてくるそうです」
「三条さんが?」
新潟から来るの?
「先日、防衛省へ【飛翔】の魔法書の第一弾の納入をしましたので、さっそく習熟訓練だそうです」
「あー、それで経験者を呼んだのか」
実際に魔物があふれる中を降りたからね。ちなみに【飛翔】の魔法書150個で7億5千万円なり。やっぱり1900個欲しいんだって。欲張りさんだなぁ。
その頃、奈良にいる若鳥たちだがトラブルに巻き込まれていた。
「なんだぁその地味な剣は。数打の剣じゃねえか」
「棍棒とか。笑うしかねーじゃん」
「笑っちゃ失礼だぞ。俺たち【ベヒモス】と違って貧乏クランなんだからそんなもんだって」
「どうよ俺の剣は! 特別製で100万もするんだぞ!」
「俺様の剣だって80万もしたんだぞ!」
朝のギルドの待合場で着替えを待っていた【Aチーム】の5人はクラン【ベヒモス】の若手ハンター5人に絡まれていた。ピアスやネックレスなどをこれでもかと身に着けている、成金のお手本のような若者だ。自分らの武器を自慢げに見せびらかしている。
炎の意匠を刻んだ片手剣。奈良斑鳩ダンジョン産だろう宝石を埋め込んだ華やかな剣。
対する【Aチーム】は棍棒に大剣に片手剣に短剣に槍と武器は様々だがそれぞれがあえて地味に錬金されてあるものだ。
片手剣、短剣、槍は300万で大剣は500万円である。これでもお安くしてあるのだ。
館山の棍棒などは、【オーガの棍棒】を基材として【サーベルタイガーの牙】に【俊足の玉】をぶち込んで錬金した特別仕様で、【Aチーム】のメインアタッカー館山の圧倒的怪力に素早さをプラスしたスペシャルとなっている。
【オーガの棍棒】がタダ同然ではあるが【俊足の玉】がレアドロップ品であり、かつ錬金にランク20の魔石を3つ要求されたので(デュラハン3体分)1本1000万円となっていた。
要するに、相手よりもお高いのだ。
よってそんな武器を見せられても(俺らの方が高いんだけどな)としか思えないのだ。【Aチーム】の顔は虚無に近い。
「はっはっは! どうやらぐぅのねも出ないようだな」
「所詮はポッと出のクランだしな」
「宝石ハンターの俺たち金持ちと比較したら可哀そうか」
相手のハンターらが嘲り笑う。
「武器とハンターの強さはイコールじゃねーし」
「守さんって、いつもこんなのを相手にしてたのか」
「大変さがわかるな」
「なんか怒りとかじゃなくて哀れだなって感情しか出てこねー」
「それな」
【Aチーム】は小声で言い合う。そもそも金持ち度でいえば獄楽寺が圧勝だ。
「おまたせー」
「やー、更衣室が混んでてさー」
獄楽寺の面々が集まってくると【ベヒモス】の5人はそそくさと逃げていった。
葉子と京子が「ナンダアレ?」と彼らの背中を見ている。
「武器チェックー」
智の掛け声で皆が武器を触ってチェックする。
太田と葉子はクロスボウのチェックで、太田はホルダーからモデルガンも取り出す。
モデルガンが出てきたので待合場がざわつく。
「あんなおもちゃで魔物と戦うのかよ」
モデルガンは近接用の逃げるための武器だ。あれで倒せる魔物ならクロスボウで殴れば済む。
「なんか怪しい空気ね」
美奈子が視線だけで待機場を見渡す。こちらを見ている男どもを見つけた。
「武志ー、あいつらなに?」
「なんかクラン【ベヒモス】ってーのが絡んできてよ」
品川に問われた千葉が説明すると一同の顔が呆れに変わっていく。
「持ってる武器がなんだというのでしょうか。それとハンターとしての実力は別でしょうに」
「地味にしてるのは俺らが絡まれないように気遣ってくれた結果なんだけど、まさか地味さでマウントとってくるとは思わなかったぜ」
成田が肩を落とせば千葉が続く。
「怖いなぁ」
「大宮を思い出しちゃう」
【カチューシャ】の5人がフルっと体を震わせた。彼女らにはトラウマだ。
「コワーイ」
「柏が言っても信ぴょう性がねーな」
「ム―」
足立が突っ込むと葉子が口をとがらせる。何となく空気が緩んできた。
「今日は配信しながらにしようか。絡まれた場合の証拠としてね」
「じゃあわたしが地上でPC管理してるわ」
智の発案に美奈子が手を上げた。ここの魔物では大した鍛錬にならないのもあるが、自分がいなければ「【飛翔】の魔法でぶっ飛んでいくでしょ」という皮算用もある。
智はマジックバッグに入れてあったノートPCを美奈子に渡す。
「じゃあ準備しようか。ダンジョンに行くよ」
いつもの掛け声をして美奈子を除く一行は階段を降りて行った。
「さて、先輩に連絡しなきゃ」
美奈子はスマホを取り出して瀬奈に電話をかける。スマホを床に置きながらノートPCのセットも忘れない。
「電源電源っと。カウンターで借りようかな」
ノートPCを手にカウンターに歩く途中で瀬奈とつながった。
『美奈子どうしたのー?』
「実はですねー」
美奈子は歩きながら説明する。カウンターに着くころには、瀬奈のあきれのため息が聞こえていた。
『配信はしといた方が良いわねー。こっちでもチェックしとくわー』
「お願いします」
『もめるようならうちのコワーイクラン長がそっちに乗り込むって言ってるわよー。すぐそこで話を聞いてるからー』
「はーい」
日比谷の二の舞にならないといーなーと美奈子は思うのであった。




