59.奈良斑鳩ダンジョン日記②
このお話はあくまでフィクションです。現実の寺と似ている部分があってもそれはフィクションです。
1階は森だった。森と言っても林にちょっと木が増えた程度だ。下草もあり、木漏れ日も差し込む明るい森だ。
「5階までは森だって。主な魔物はウッドゴーレムとストーンゴーレムだってさー」
「ランク2ダンジョンだから【日比谷】よりは小さいか?」
「【いわき】よりは見やすそうだな」
各自が感想を述べる。経験したダンジョンの数は多いので比較ができるのがすごいところだ。
「わたしたちはちょっと10階のボスを見てくるわ」
美奈子がそう宣言する。京子も葉子も「ッシャー」と嬉しそうだ。
「僕らは1階でダンジョンの様子を見ます」
「わたしらはカチューシャと合同でゴーレムの強度チェックかな」
「俺らは2階を見てくるぜ」
「あとで情報交換な!」
「おっけー!」
桜前線+京子は10階へ。リーダーズは1階の調査。Aチームは2階の調査。ポニーとカチューシャはゴーレムと戦闘と分業だ。人数が多いのその利点をフル活用である。宿でそれぞれが情報を持ち寄るのだ。
「飛んでくぜ!」
「飛ぶゾ!」
「ちょっと、待ちなさい!」
京子葉子の金髪暴れ子犬コンビが【飛翔】の魔法で飛んで行ってしまい、智がそれを追いかける。
「飛ばれたら追いつけないじゃない!」
智は飛ぶが高所が苦手な美奈子は走るしかない。が、時速60キロで飛ぶふたりに追いつけるわけはなく、智は美奈子を捕まえて【飛翔】の魔法で飛ぶ。
「た、高いとこいやぁぁぁぁ」
「目を閉じてて!」
高所が苦手な美奈子が悲鳴を上げるが無慈悲にも空中を運ばれていく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁししょうたすけてぇぇぇぇ」
空から降ってくる悲鳴は何ぞと見あげられては唖然とされている智と美奈子。
2階への階段はすぐに見つかり、そこに葉子と京子はいた。
「おそいゾー」
「おそいぞー」
「勝手に行くんじゃないわよ!」
「「アイタッ!」」
ふたりの頭に智のゲンコツがさく裂した。なお、美奈子は地面で息も絶え絶えだ。
それからはひたすら走った。途中でエンカしたゴーレムは美奈子が斬り倒したり京子が殴り倒したり葉子がスナイプした。智はひたすら保護者だ。
5階までの魔物など敵ではなく、すべて倒したが緑色の宝石は出ない。小さいが青や赤が出る。
「30体くらい倒したと思うけど、緑色が出ないわね」
「手ごたえがナイー」
「もっと下いこーぜー!」
「あんたたちはもう目的を忘れてんの?」
ペリドット入手が目的である。
6階からは採石場で、岩場の大空間が広がっている。見えている部分に土はなく、すべて岩だ。
「勝浦ダンジョンを思い出すわね」
美奈子が岩場を見渡してそんなことを言う。近場に海があれば似ている景色だった。
「スタンピードカモーン!」
「かもーん」
「フラグ立てないでよ!」
「6階からはクレイゴーレムも出てくるってしストーンゴーレムも複数出てくるって。中堅のハンターくらいまではいい狩場みたいね」
「今日は様子見だから10階に急ぐわよ」
「「イエーイ!」」
4人は砕石場をひた走る。ハンターも多いので邪魔しないように階段までは大回りだ。
出会うゴーレムをなぎ倒しながらなんやかんやで10階につく。天然の採石場で、大きな岩がそこかしこに転がっている。そんな空間のど真ん中に彫刻のような精巧な石の熊と木彫りの狼がいた。
熊は立ち上がった姿で3メートル以上。狼は警戒して体を低くしているが、それでも肩までで1.5メートルはありそうだ。
「あれがストーンベアゴーレムとウッドウルフゴーレムね」
美奈子が刀を構える。たいした圧は感じないが手は抜かない。智も「レッドベアとどっこいかなー」との評価だ。
『グォォォォォ!』
ストーンベアゴーレムが吼えた。空気が震える。
「先手必勝! どりゃぁー!」
京子がすっ飛んでいった。ストーンベアゴーレムの前で【聖拳】を発動、輝く右拳をうならせてストーンゴーレムのどてっぱらに右ストレートをぶち込んだ。
ズドン。
ストーンベアゴーレムの胴部分が消滅し、石造りの熊の頭が地面に落ちて光と消えた。
「ッシャー!」
「じゃあアーシはオオカミ!」
葉子がウッドウルフゴーレムに向いた時、ウッドウルフゴーレムの首が斬り落とされた。下手人は美奈子である。
美奈子が【裁き】を納刀すると同時にウッドウルフゴーレムが光と消える。
「ちょうどよさげなところに狼の首があったから斬っちゃったわ」
「あーーーーミナ、ズルイィィーー!」
フロアボスが瞬殺だった。
「これならだれでも倒せそうね」
美奈子が魔石とドロップの宝石を拾う。大きさは親指の爪ほどもあるが宝石は赤い石なので探し物ではない。京子も拾ったがこちらは黄色だ。ドロップはランダムなのでもう一度倒しても同じとは限らない。
「こいつらが10階以降では普通に出てくるんだから油断は禁物」
「もっと強いゴーレムは出てこないのかしら。腕試ししたいんだけど」
高所が苦手なサムライガールはフラグを立てまくっていた。
それから何回かボスフロアを行ったり来たりで倒したが、お目当てのペリドットらしき薄緑の宝石は見つからなかった。
ダンジョンを出て奈良駅に戻った一行はホテルにチェックインした後にロビーに集合した。ホテルは数百人が宿泊可能な程度には大きく、ロビーも広くとられているので23人が集まっても邪魔にはならずに済んだ。
「夕食前に情報を集約しましょう」
成田が音頭をとる。智が挙手した。
「まず10階のフロアボスだけど、京子と美奈で瞬殺だったわ。骨熊と骨狼くらいの強さだと考えればいいかも」
「なら全員倒せそうだな」
「2体いるから挟まれないように注意が必要ね」
「パーティで当たればいけるべ」
そうなった。思ったほどは強くなさそうなのでみなの顔にも安堵が見える。
次いで湖北が手を挙げる。
「ダンジョン1階だけど、割とゴーレムとエンカしたかな。【いわきダンジョン】と同じくらいだな」
「2階も同じくらいだったぜ。緑の宝石は出なかった」
「わたしらも緑の石はなかったー」
「結構倒さないとゲットできねーかもな」
「奈良まで来て手ぶらじゃ帰れねーよなー」
どのパーティも緑の石はゲットできず。確実にドロップするとはいえ宝石がランダムなので狙いがあるなら数で賄うしかない。
「ゴーレム自体はちょっと硬いくらいで倒すのに苦労はないかな」
「ま、魔法の効き目が良くって、ブレスもよく効いたね」
足立と太田が意見を述べる。
「油断しなければ問題はなさそうですけど、問題は狙いの緑の石が出るかですね」
「「「「それな」」」」
成田のまとめにみんなが同意する。今日は1個も出ていないのだ。
「10階以降でフロアを別にして探すしかないかもなー」
「よーし、アーシは20階にいくゾー!」
「葉子、踏破しちゃだめだからね?」
「うー、じゃあ19階ダ!」
「オレもいくぞー!」
「それならいいかな」
情報のすり合わせが終わった。
「では夕食にしましょう。『かしわのすき焼き』がおいしそうです」
「アーシのスキヤキ?」
「この『かしわ』とは、鶏肉のことらしいですよ」
「葉子をつゆにつけて食うのかと思ったぜ!」
「アーシを食べていいのはスケ兄だけだゾ!」
「なんだよー、もう食われてるのかよー。葉介も食いしん坊だなー」
「そうダゾ! おいしく食べてもらったゾ!」
ロビーには何とも言えない空気が漂う。京子と葉子の思考がすれ違っていることにみんなが気が付いているがセンシティブなので黙っていた。
経験済みと未経験が混ざり合っているのだ。さもあらん。
「なんで鶏肉のスキヤキなの?」
微妙になってしまった空気を壊すために智が声を上げた。
「えっと、農林水産省のHPにはこうありますね。『天神さんの守護神が牛であることから、天満宮の秋祭りのお祝いの席では鶏のすき焼きが食べられてきた。かしわの名前は、鶏の茶褐色の羽色が、柏の葉に似ていることが由来との説がある』だそうです」
成田がささっと調べた。さすが委員長。
「明日は、現地に9時集合にしましょう」
「「おっけー」」
「「「りょーかーい」」」
解散となった。




