57.墓地ダンジョン6階②
5階までは瞬殺だ。途中オーガ骨の集団がいたけど見敵即成仏だった。急ぎだけどポーションは回収した。
5階のマミーも根絶やしの勢いで蹂躙する。きれいな包帯はきちんと拾うよ?
6階への階段までは20分でついた。ほとんど歩くだけだったからね。
「さて、この先はどうなっているやらだな」
零士さんが肩をゴキゴキ鳴らしている。京子ちゃんは今更ながらラジオ体操だ。俺と智は早朝の掃除で体はほぐれてる。なお京子ちゃんは寝坊したので掃除にはいなかった。
『油断は禁物です』
ドローンから京香さんの戒めが飛んでくる。気を引き締めなおした。
「よし、行くか」
零士さんを先頭に、京子ちゃん、智、俺と続く。なぜか松明が埋め込まれてる螺旋階段を降りていく。
「先が暗いな」
零士さんの声。階段の最後が見えたらしい。
「ほう……」
「うわー墓しかねーぞー」
前衛ふたりの声が聞こえ、俺の視界にも6階が現れた。
「こうきたかー」
墓地ダンジョン6階は地平の果てまで赤い十字架が並ぶ墓地だった。時刻は夜なのか暗く、空には真っ赤な三日月があって、魔女が腰かけてそうなくらい不気味だ。星なんてひとっつも見えない。
汝希望を持つ勿れ、と言われてる気がする。
空気も生暖かく、お化け屋敷にしたらさぞ繁盛するだろうね。
「いままでは狭いダンジョンだったけど、一気に広くなったな」
階段を探すのが大変そうだ。
『不気味ねー』
『京子、大丈夫なのかい?』
『シチュエーション的にはゾンビ映画でしょうか』
ドローンからはそんな声がする。
『広いのは壁が見えないだけの可能性があります』
「確かに」
ランク1ダンジョンは木とかで壁ができてたし、墓地ダンジョンも木の壁で囲われてるしね。
「念のため壁があるか確認しよう」
零士さんが歩こうとしたとき、赤い十字架が盛り上がって地面から腕が生えた。腐りかけなのか骨も見える。
『グールの可能性があります』
京香さんの注意が飛ぶ間も各所で赤い十字架がひっくり返り、腐りかけの人間が地面から這い出てくる。
「あっちはワイトかな」
赤い十字架の上に巨大な骸骨が立ってる。魔法+物理の集団戦か。最初っからワイトがいるから5階よりも質が悪い。
「倒しつつ壁を探すぞ。どうせ50メートルくらいしかねえんだ」
零士さんは歩きながら【闘刃】でグールを斬り捨てていく。1発で光に消えるあたり、マミーよりは弱そうだ。
『グールはランク10の魔物です。噛まれることでゾンビ化するので近寄る前に倒すのが得策です』
おっと、ランクが8のマミーよりも上だった。
グールが歩く速さは人間の早歩きくらいで、見かけに騙されそうだ。ゾンビ系は遅いって思い込みがあるから虚を突かれちゃいそう。
いやらしいなぁ。
「【大いなる祈り】!」
智のスキルで視界にいたグールは消えた。うちの魔王様は容赦ない。
でも次から次から地面からグールが出てくるし、いつの間にかワイトが背後にいたりと油断ならない。
ワイトは収納在庫の【ファイヤーボール】を連発して即倒す。【ファイヤーボール】はともかく【カース】を食らうと非常に厄介だ。
「うらうらうらうらーー!」
京子ちゃんが【聖臨】で体を輝かせながら駆けまくりでグールを光に変えていく。俺も近寄ってきたグールに網をかけては収納しては経験値に変えていく。智も羅刹でぶん殴ってる。へっぴり腰だけどそこがまたかわいいんだ。
でもドロップ品は出てこない。みんなで200体は倒してるはず。
ラビットフットを持ってる京子ちゃんとラビットテールを持ってる智が倒しても出てこないから、ドロップ品無しなんだろう。
『5階よりも厄介な階ですね』
『しかも得るものが魔石だけだもんねー』
『ただ、これだけなら次へ行くのは簡単すぎます。何かありそうな予感がします』
我らがメイドさんがそんなことを言い出した。それフラグー。
でも、これが簡単に見えちゃうのは俺たちが対アンデッドに特化してるパーティだからで、ここにAチームとかポニーとか黄金騎士団とかが来たら大変だと思う。あの5階の後だもん。
それくらい【聖女】がすごいってこと。
「よし、壁はあるな」
零士さんが空中を拳で殴ってる。ガツガツ音がするので間違いない。俺も触った。冷たくて硬い何かがある。
零士さんはその後もいろんな方向に【闘刃】を飛ばして壁の場所を探してる。
「階段から50メートルくらい歩いた。上の階より広がってるっぽいね」
100メートル四方の正方形かと思いきや長方形っぽい。ある方向に飛ばした【闘刃】はまっすぐ飛んで限界距離で消えていった。
「あっちに階段があるんだろうな」
零士くんが長方形の先を見据えてる。
「行ってみるしかないね」
調査だもの。
グールとワイトを倒しつつ壁沿いに墓地を歩いていく。どこまでも同じ風景が続くので方向感覚が狂いそうだ。
「この階のボスかもしれんな」
零士さんが大蛇丸で前方を指し示す。ちょうど階段とは逆方向だ。
「うわーそれっぽいのがいる」
5階からの階段の反対側にあるひときわ大きな十字架の上には顔色の悪い女性が座ってて、その周囲に首のない全身鎧が25体跪いてる。
女性は乱れた金髪でぼろぼろのドレス姿で、全身鎧は西洋とも東洋ともつかない独特なものだ。西洋ほど洗練されておらず、かといって無骨過ぎない滑らかな曲線で完成されたデザインは異文明を感じる。胸の部分が膨らんでいるので女性だろうか。
『バンシー! 脇にいるのはデュラハンです!』
ドローンから京香さんの声が聞こえた。
「バンシーか。確かランク20だったがデュラハンと一緒に出るとは聞いたことがねぇな」
零士さんが大蛇丸を構えた。気が付けば、グールとワイトが消えている。
ありがたいけど、それだけアイツらが強いってことかな。いいんだか悪いんだか。
『バンシーはランク20ですがデュラハンはランク30です! 合計ランク770です、お気を付けを!』
「ほう。相手に不足なしだな」
零士さんが嗤う。
「強さを見ときたいなぁ」
「じゃあ行くよ! 【大いなる祈り】」
智が【大いなる祈り】を使うと一帯が光に包まれる。光が晴れた後、バンシーもデュラハンも消えずに耐えている。ただ、体から煙が出ているので効いてはいるように思える。
「耐えたの!?」
「6階に来ていきなり強くなったな」
バンシーが腕をこっちに向けると黒いガスが飛んできた。金剛杖を当てようとしたけど間に合わず俺の胸から体に入り込んだ。
「グハッ」
胃に激痛と不快感で吐くと血で真っ赤だった。
体に激痛が走りまくって、立てなくて地面に転がった。
「いででで、これ、アラクネの毒並みにキツイ……」
「守! 毒? ————魔法が使えない!」
『守君!』
『守くん!?』
『智、【キュア】は?』
「なんでか使えないの!」
智が悲鳴を上げる。
くそ、あのバンシーが何かしたな!
「守! 死んじゃやだ! やだぁ!」
「【キュア】」
【キュア】を使えば体から激痛がなくなった。口の中が鉄の味でいっぱいだ。さっと起き上がって泣きじゃくる智の頭を撫でる。
バンシーから稲妻が向かってきた。ビニール傘を取り出して広げる。
【収納:サンダー×1】
「あの激痛も魔法攻撃か!?」
とすると、智が魔法を使えなかったのも魔法か?
智を守らないと危ういな。
「守!」
「もう大丈夫。先にあいつを黙らせよう」
口についた血を腕で拭き取った。




