57.墓地ダンジョン6階①
『ごらんください。踏破チャレンジの後のダンジョン周辺ですが、ごみが散乱しています。成功したのでしょうか、ビールの空き缶や日本酒の瓶が転がっています』
『二日前に踏破チャレンジが失敗した現場です。カメラが置き去りにされていますが、これは踏破チャレンジしたハンターの財産であり、撤去することができません』
『ダンジョンを無くしてくれるのはいいんだけど、片付けもしてほしいねぇ』
『ここで人が死んだなんて縁起でもない』
『近隣の住民からはこんな声が上がっています』
ポカポカ陽気な午後の食堂。テレビでニュースが流されていて、響と標に搾乳してあった母乳を哺乳瓶であげながら見てる。俺が響で智が標だ。
瀬奈さんはお休み中。夜中に起きて授乳してるからね。
「なんかさー、ハンターじゃなくて人として終わってるやつらじゃん」
「それねー」
智が口を尖らせたので同意する。ごみは出した人が片づけるのが筋だよ。
「私物については法律の問題なので、原因はハンターだけじゃないんですよ。民法206条で所有権が規定されてます。日本は私権の範囲が大きいんです」
葉介さんからフォローが入る。葉介さんは俺が赤ちゃんの世話をしてると見に来るんだ。賢い葉介さんのことだから将来を見越してのことだろう。
「あのカメラとかはどうなるんだろ」
「遺品なので、とりあえず警察が保管で遺族が引き取りにくれば渡すという流れですかね」
「取りに行くのかなぁ」
亡くなったことすら知らなそうなんだよなぁ。親子関係が希薄な家庭もあるしね。
「こんなことしてちゃハンターが嫌われるばっかりよねーってもうお腹いっぱいかな? よく飲みました!」
智が標の後頭部に手を添えながら縦に抱いて背中を指でトントンする。すぐに「けぷ」って可愛いげっぷが出た。
「標ちゃんはげっぷがうまいねーいいこいいこ」
「響は……寝てるじゃん」
哺乳瓶くわえながら寝てた。
最近の踏破の影響でハンターへの風当たりが強くなってる。うちは地元が理解ある人ばかりだし、クランのみんなも穏やかな子が多いしで問題になってないけど。
「ハンターに逆風が吹いてるところだけど、日本だけじゃなくって世界中でスタンピードが増えてるみたいでハンターの需要はうなぎのぼりね」
「沖縄のダンジョンでもあふれかけたんだっけ」
「宮古島ダンジョンね。自衛隊がギリギリ間に合ったってニュースでやってたわね」
「三条さんたちがすっ飛んでったやつだ」
「うちに来てた人たちでしょ? 大変よね」
智が標のおむつを替えてる。毎日手伝ってるからもう手慣れたもんだ。俺も慣れたよ。
クランのみんなも手伝ってくれるから、うちはおむつ交換免許皆伝ばっかりだぜ。
「墓地ダンジョンも5階から先を調べて知っといた方が良い気がするんだよね」
「そーねー。佐渡みたいにダンジョンボスが上がってきたらあたしたちの知らない魔物が出てくるわけでしょ? 知っとくべきよね」
京子ちゃんという『殴り聖女』も加わって対アンデッドの戦力は増してる今がチャンスといえばチャンスではある。
「零士くんに相談かな」
おやつを食べに来た零士くん師弟を捕まえて相談する。
「……踏破チャレンジについてはランク1のダンジョンしか対象にはなってねえし、放置するしかねえとは思うぞ。うちは若いハンターを鍛えて戦力を蓄えとけばいいだろ」
零士くんがおやつのバームクーヘンをもしゃもしゃ食べて、お茶で流しこんで口を開いた。
「墓地ダンジョンを調べるのは賛成だな。知ってれば対策を練れるかもしれん」
「わたしも行きたい!」
「美奈子はステイだ。俺たちが潜ってる間にスタンピードが起きた場合の戦力も残す必要がある。お前と葉子が主戦力だぞ?」
「むぅ……」
美奈子ちゃんが口をとがらせてわかりやすく不機嫌アピールだ。未知の階の時はいつも留守番ばかりだからね。あとはこの機会に甘えたいとか。多分後者だ。
「メンバーは、俺、守、智、京子か。対アンデッド戦だと聖女スキルが望ましい。普通の攻撃が通用しない場合が考えられる」
「くっ、わたしにも【祈り】スキルがあれば……」
「それだったらお前を弟子にはしてないぞ」
「ッ!! いまのままでいいです!」
うふふって笑顔の美奈子ちゃん。零士くんも扱いがうまくなったな。
ということで調査は決定された。
なお、各自のレベルだけど。
俺が27、智も27、京子ちゃんが20で、レベル20で【聖臨】ってスキルを覚えた。
【聖臨】:体が聖なる輝きに包まれ、身体能力が倍になる。これに【聖拳】ものせられ、死者は近づくだけで砕ける。さらには智のバフスキルも上乗せ可能だった。
どっかの【すごいサイヤ人】じみてきてる。さすがファイターだ。
5月も下旬になるころに、墓地ダンジョンの調査が決定され、その当日朝。調査の様子はあの配信機材でリアルタイムで視聴可能にする。危険だと感じたら即撤退。墓地ダンジョンは狭いので午前中で戻る計画だ。
大人形態の零士さんは、ダボっとした黒いズボンに黒のパーカー+大蛇丸+般若の仮面。
俺は相変わらずの灰色の作務衣に金剛杖。いいじゃん、かっこいいのよ?
智は白いワイシャツ+革のベスト+ニーソ+黒いミニスカート+羅刹。黒いスパッツを履いてるのでご安心。「魔物と直接戦わないしー」と言い訳を吐いていた。
京子ちゃんは高校の時のヤンキー風ブレザーに分厚い手袋。「オレの大事な相棒だぜ」とこちらも気にしない様子。
なお、インナーはスパイダーシルク製の防刃インナーだ。
金属の鎧とかは、魔物の攻撃の運動エネルギーを貫通させちゃったり壊れたりで意味がないから強い人ほど装着しない。すごい鎧とかがあれば選択肢に上がるかもだけど動きにくくなるだけだし。
「食料と水は持った。ポーションは常に入ってる」
墓地ダンジョンの1階で最終確認。横では京香さんが配信機材の母機を浮かび上がらせてる。今回は4機のドローンでそれぞれの動きを追いかける形。その方が得られる情報が多いかなって判断だ。
「母機との通信オーケーです」
『こっちからも見えてるよ』
『ばっちりよー』
俺のドローンから涼子さんと瀬奈さんの声がする。ふたりは食堂のモニターの確認をしてくれてるんだ。
「守君、無理は禁物です」
「もちろん。生きて帰るまでがダンジョンだし」
死ぬなんてとんでもない。
「じゃあいつものだけど、今日は京子ちゃんで」
「オレ!? しょーがねーなー」
京子ちゃんが金髪をかき上げてぶー垂れてるけどテレテレだ。
「いくぜ、増長しない!」
「「「増長しない」」」
「生きて帰る!」
「「「生きて帰る!」」」
「いくぜ!」
「「「おぅ!」」」
4人で腕を突き上げた。




