54.赤ちゃんのいる日々②
夜のまったり時間。お茶を飲みながら「明日は黄金騎士団の奥様方が、明後日はビッチさんが赤ちゃんを見に来る」「船橋からポニーに引率ハンターの依頼が来てる」などと情報交換してるなかで。
「防衛省からの依頼の件ですが」
京香さんが切り出してきた。
「【飛翔】の魔法書だね。大量に欲しいってアレ」
あの無理難題である。情報共有でギルドの主要なメンバーは知ってる。
「さすがに1900個は厳しいですが、一度にではなく毎月これだけという形で取引できたらとは思ってます」
「これもビッチさんを通す感じ?」
「打診したところ、防衛省と随意契約となるためにいろいろ面倒そうだからパスと言われてしまいました」
京香さんがげんなりしてる。国が絡んでるからさぞかし面倒なんだろうなぁ。
随意契約ってのは「お前んとこしかできないから入札無しで契約な!」というやつだ。
相手が国なので見積書とか契約書は当たり前だけど、獄楽寺ギルドが零細企業の割には売り上げが多い関係で財務状況の証明書類だとかすさまじい数の資料を作らないとなんだって。
原価は人件費くらいしかかかってないのに魔法書が500万とかで売れちゃうから利益率がおかしいことになってて監査する人が「お前んとこは本当に実在するのか?」って電話が来たんだよね。
失敬な。
「1個500万円で売れば1900個で95億円という4人で毎年世界1周旅行をしても死ぬまでに使い切れない額になるのでやるしかないのですが問題はその方法です」
ドロップする魔物はわかってる。けど、倒せば必ずゲットできるもんでもない。しかも空を飛ぶし。難易度は高め。
「試しに私がラビットテールを持った状態でスラキンちゃんにダンジョン最奥から入り口まで来てもらった時で【飛翔】の魔法書は5個でした」
「あっさり5個入手できちゃうのはすごいけどね」
「そうですが、1日1回が限度ですね」
ダンジョンに誰かいると巻き込んで酷いことになるので誰もいない夜のみしかやれない。
1回で5個入手できた。毎日やっても月150個。1900の半分の950を目標にしても半年かかる。
あれ、1年くらいで1900個も集まっちゃう?
俺の感覚も壊れてきたなぁ。
「ツンドラちゃんだとワイバーンは逃げちゃうみたいだからー、誰かが倒さないとダメねー」
日比谷には誰かが入らないといけない。時間はかかるけど間違いない方法で行くのもいいんだけど、それによってギルドの運営に影響するのは避けたい。小さなダンジョン回収とかは京香さん抜きだと厳しい。
情けなくてサーセン。
「みんなに依頼すればー? 戦えないあたしはともかく美奈と葉子と京子は喜んでやりそうだけど」
今まで黙って話を聞いていた智が意見を出してきた。戦えないと主張してるけど智は空も飛べるし行けるよね?
でもいいぞいいぞ、もっと参加して!
一緒にやってるって実感がわくもん。
「Aチームも【飛翔】の魔法を覚えてるから戦えそうなんだよね」
レベルは十分だと思うし、彼らはドラゴスライムとも戦って飛ぶ魔物との経験もある。ラビットフット持っていけば、ゲットして帰ってくると思う。
「いっそ足立たちにも渡しちゃう? 全員が持っててもいいんじゃん」
「あの子たちは悪さはしないと思うけどー」
「悪さをした場合の罰はどうしましょうか」
罰を無くすと歯止めが利かなくなるんだよね。人間ってそんなもんだから。
「悪さしたら俺がお尻ペンペンの刑で」
「守君が女の子を脱がすのは承服できません。それは私たちの役目です」
「そうよ! 女の尻を見るならあたしたちだけにしなさいよ!」
「お尻見るついでに悪さもしちゃうのかしらー?」
奥様方は俺に手厳しい。愛情と受け取っておこう。
「一度みんなを集めて説明しようか」
ということになった。
翌日、寺にいる人だでけでも集めて説明する。食堂に集合で、零士くんも出席だ。
お出かけで欠席が、千葉君品川ちゃんペア、市原君と野田君と太田ちゃんが家に帰ってる。行動に制限はしないのでこれでいいのだ。
「集まってくれてありがとう。ちょっとみんなに協力をお願いしたいんだ。京香さんから話があります」
「はいみんなのメイドさんの京香です」
メイドさんがパワーアップしたようだ。
「先般、佐渡島へ行った際に自衛隊に【飛翔】の魔法書を渡したところ、その有用性から空挺部隊全員に欲しいから売ってくれと依頼が来ています」
「自衛隊?」「空挺部隊ってなに?」と ざわつく。
「あー、佐渡の陸自の人も欲しがってたな」
「じゃんけんで負けた人ががっくり来てたし」
「三条さんが自慢しまくってブーイング受けてた」
そこ、暴露しないの。
「要望は1900個ですが、とりあえず半分の950個を目標にします」
「1900!?」
「950個でも多い!」
驚くのは当然だ。
「皆さん知っているかと思いますが、現在ハンター界隈では踏破が流行っています。踏破されたダンジョンは消えるのではなく引っ越しするだけです。踏破されたダンジョンが各地に出現しており、それが無人島でも発見されています。所轄が総務省から防衛省へ移管されるにあたって、物資を運搬しなくてもダンジョンへたどり着ける方法として求められています。まぁ数が数なので諸島防衛が本命でしょうが」
「はいはいはーい」と京子ちゃんが手を上げる。
「兄貴が踏破したダンジョンってーのは、誰かがダンジョンマスターになっちゃう踏破なのかー?」
京子ちゃんが瀬奈さんと京香さんを見る。
「そんなとこ。うちで預かる感じだから、俺が踏破する分には問題ないんだけど」
増えすぎるとダンジョンの中が大変になるけどね。
「いっそ守さんに踏破しまくってもらったら安全なんじゃね?」
「踏破っつったらロマンだしなー」
「それな」
「ハンターの目標でもあるし。無くされるときっついかも」
なるほど、ロマンか。それも動機だね。
「話を戻しますが、【飛翔】の魔法書はワイバーンとドラゴスライムからドロップするのがわかっていますので、そのふたつを狩ることになります」
「はいはいはい! ワイバーン倒したイ!」
「葉子がやるならオレもやっぞ!」
葉子ちゃんと京子ちゃんが立ち上がる。
「飛翔の魔法が得意な葉子なら大丈夫でしょうけど、油断はなりませんよ」
「わかってるゼ!」
「わかってんぜ!」
ふたり同時に返事する。返事も似てる。
「よーし、アーシと競争ダ!」
「まけねーからな!」
金髪コンビがダラッシャーと腕を突き上げた。
「たまにさ、柏がふたりいるように見えるんだよね」
「足立もそう思うか」
「よく似てるよね」
足立ちゃんと館山君のごにょごにょ話にみんな黙って頷いた。
「Aチームにもポニーにもチャレンジして欲しいかなって。師匠はどう思う?」
俺が零士くんにキラーパスを送ると、零士くんに視線が集中する。どらやきをぱくついてた零士くんが急いでもぐもぐしてお茶で流し込んだ。
待たせる時間を最小限にするところが師匠っぽくて、そんなところが懐かれるんだろうなぁ。
「強さ的には問題ない。あいつらは空を飛ぶが素早くは動けない。矢で頭を撃ち抜いてもいいし、【闘刃】で叩き落してもいいし、魔法で飛んでるときはブレスを避けるために挟み撃ちすりゃ簡単に倒せるだろ」
お墨付きが出ました。
「慣れるまでは俺が一緒に行こう」
「俺やります!」
「俺も行きます!」
「わたしも!」
「わたしでも大丈夫なら、やっちゃおうかな」
師匠の言葉で皆がやる気になった。ちなみに美奈子ちゃんは最初っからやる気だ。智はバフ要員で行くらしい。
「決まりだね。じゃあちょっと計画立てるから、決まったら連絡するね」
全員がいっぺんに行く必要はないからね。
「なぁあれ、成田じゃね?」
食堂のテレビを見てる渋谷ちゃんがつぶやいた。




