54.赤ちゃんのいる日々①
瀬奈さんが寺に帰ってきた翌日。涼子ママによるおむつ替え講習が行われた。
受講生は希望者だったけど、結局全員が参加した。葉介さんも参加したし、もちろん父さんもだ。2時間おきに孫の顔を見にくるくらいに溺愛中だ。
双子は目元にほくろがあって、右にあるのが響で左にあるのが標。一卵性双生児なので成長するとそっくりになってしまうからこれが見分けるポイントだ。
「こうやってやるんだ」
と講師の涼子さんがぱぱっとおむつを交換する。寝てる標のおむつ交換で熟練の技が炸裂した。標も起きない。
「「「「おー!」」」」
「大したことじゃないさ。やってりゃ慣れでできちゃうもんさ」
涼子ママが照れてる。
「やってみたい人いるかい?」
「うっす」
野田君が挙手した。珍しい。
「じゃあ」
とさささっとおむつを交換しちゃった。すごく手馴れてる感じだ。
「へー、うまいじゃないか」
涼子さんが感心している。母親が褒めているのが気に入らないのか京子ちゃんがむむと口を曲げた。
「野田は隠し子でもいんのかー!?」
「いねえし、それ以前に彼女もいねえよ!」
「ホントカー?」
「柏ものっかんな!」
京子葉子野田の金髪組がわちゃわちゃしてる。仲がいいなぁ。
「俺には10歳離れた弟がいるからよ、小学生のころから弟のおむつ替えをしてっから手が覚えてるんだよ」
「野田はもう職人だな!」
「おむつ職人ダ!」
「そんな職人はいねぇ!」
うんうん、静かにしようね。大きい声を出すと標が泣いちゃうから。
ポニーの4人がこしょこしょ話をしてる。
「おちんちんも小さいね」
「誰と比べてんだよ」
「一般的な意見だって」
「これに負ける彼氏は残念だぞ」
「そ、そんなことないもんね」
「まーな」
「くっ、しれっと彼氏持ちマウントされてる」
足立ちゃんががっくりしてる。ドンマイ。そのうち彼氏ができるよ、きっと。
出産して体がなまったと感じた瀬奈はダンジョンでリハビリを開始した。無理はせず墓地ダンジョンの1階でゴブ骨相手に自分の動きの確認だ。
ランニングウェアのような体の線が出まくりの薄い服にミニスカート。体を冷やさないために足首までのレギンスは履いている。産後で胸が大きくなっていることもあり、ドカン・キュ・ボンである。
ダンジョンに絶対はないので美奈子が付き添っている。こちらも刀2本を持ってのフル装備である。万が一など絶対に認めない勢いだ。
なんならすぐ近くに日比谷ダンジョンもあり、ツンドラもスタンバイしていた。
「とりあえずー」
瀬奈は近くにいたゴブリンスケルトン1体に照準を当て、軽い感じで近寄る。ゴブ骨の直前で膝を曲げて沈み込み、右足で軽く足払い。ゴブ骨が浮き上がったところを、逆立ちする勢いで足裏アッパーカット。ゴブ骨は光と消えた。
倒立状態から腕をばねにして足で着地。ふぅと息を吐く。
「キレがないわねー」
首をコキリと言わせた。
「そうですか? きれいでした!」
美奈子はにっこりで拍手までしている。確かに依然と比べれば美しさが足りないが久しぶりの推しの演武なのだ、許されよう。
「リハビリは必須ねー」
褒められたが納得のいかない瀬奈はその辺にいる3体のゴブ骨に目をやる。
「守くんからも1階なら良いって言われてるからねー」
瀬奈は地面を蹴り、墓石を飛び越えて3体のゴブ骨にショートカットした。
右足の蹴りから始まり、軸足を変えての左足での裏回し蹴り、前転しながらのかかと落としで3体を撃破。
約3秒。
腕がなまったとはいえレベル20のハンター。ダンジョンで一番の雑魚相手ではこんなものだ。
「妊娠前に比べると体重も増えちゃってるからー、ダイエットも兼ねて鍛錬しないとねー」
瀬奈は楽しげな笑顔を浮かべた。
夕食を終えて分家で響と標はすやすや寝てるまったりした時間。授乳が2時間おきにあって瀬奈さんはあまり寝られてないからこんな時間は貴重だし、話し合いもこの時しかできない。
なお、搾乳機で母乳を保管しておいて夜中の授乳はそれを温めてあげてる。そうすると瀬奈さん寝られるんだ。俺は昼間に少し昼寝ができればいいしさ。
話がずれた。
分家のリビングで俺、瀬奈さん、京香さん、智の4人でまったりしてる。ここでギルドの方針を決めることが多い。葉介さんと北国分さんがいるけどギルドの方向性を決めるのは俺たちだからね。
「産婦人科の先生が瀬奈さんの回復を見て、出産時のそんなのがあればなーってつぶやいてた」
年間で30人ほどが出産が原因で亡くなってるらしい。たった30人。されど30人。その家族は母親ないし妻を失うわけだ。
決して軽くない。
「出産時に【ヒール】を覚えているハンターを立会させるとかー?」
「そうですね。【自己治癒】スキルが出産にも有効なのは先輩の事例ではっきりしましたが、すべての妊婦に覚えさせるのはナンセンスです」
「ヒールを覚えてもらう人も選別しないといけないしねー」
「悪用されても困りますし」
闇ヒーラーじゃないけど、反社社会で法外な治療費を要求するようなことをされると手に負えない。そもそも産婦人科の数に対してどれだけの人数を揃えなきゃって問題もある。
「各地の日赤にだけ派遣するとかー?」
「深夜の出産に対応させるとなると倍の人数は必要です」
「帝王切開でも傷を完全に治すのであればスケジュール管理できそうだけどー」
「突発的な出産以外は対応できそうですね」
「自然分娩を希望する人にはどうするかねー」
「そっちがありましたね」
結論は出ない。まぁ当然だ。医療のことなんてさっぱりな人間が考えてることだし。
「大きく考えると進まないからさ、まずは身近な人たちをサポートできればって考えるのがいいんじゃないかな」
ハンタークラスの子たちと同じだ。いっぺんになんてできないし、すべての人に当てはまるわけでもないし。ただ、実現すれば悲しみが減る。
できる範囲でできることをやる。それでいいんじゃないかな。




