50.入学式と佐渡島スタンピード⑫
佐渡島ダンジョンは洞窟だった。洞窟の直径は10メートルはある。無秩序に設置された松明。オレンジに照らされるのはぬめった茶色の岩肌だ。空気は湿っていてまとわりつく。墓地ダンジョンよりも不快だ。
「わりと直線なんだ」
なんとなく墓地ダンジョンの5階に近いかな。
やや湾曲してるように見えるけど、ずっと先まで松明のオレンジが見える。光に浮かび上がるスライムもね。
「さっさと終わらせよう。【シャイニングブレス】」
光の暴力が洞窟を洗い流していく。俺もその光を追いかける。スライムの影はない。見える範囲はすべて消滅したみたいだ。
『1階はまっすぐに階段があります』
ドローンから京香さんがナビをしてくれる。10階くらいまでは地図があるんだって。洞窟に横道はあってスライムがいるけど数が少ないので放置だ。あれを掃除する時間はない。
【師走】スキルで数分走れば2階への階段に着く。途中にスライムはいたから踏んずけて倒しといた。ブルースライムとグリーンスライムなら【師走】スキルで踏んで倒せた。
『ハンターの遺体はなかったですね』
あって欲しくはないけど、事前情報では食い止めようとしたパーティがいたはずなんだ。スライムに呑まれてしまったかはわからない。見つけたら地上へ運ぶつもりだ。
日比谷ダンジョンを踏破したときにハンターは押し出されたけど遺体はどうなるか予想できない。
「ダンジョンからハンターが逃げられたって聞いたから、深くまではいってないはずなんだよね」
『身体強化系のスキルを持っていれば守君と同程度で走ることは可能ですが、『紅蓮の朱鷺』の情報はそこまでありません』
スキルを秘密にするハンターは多いからね。
「2階にいってみるよ」
『お気をつけて』
2階へ降りたとたんに炎のブレスが襲ってきた。
「こんなこともあろうかと!」
ビニール傘で炎を収納する。ビニール傘を持ってきといて正解だった。傘越しにぶよぶよしたドラゴンが見える。ドラゴスライムだね。まだダンジョンには在庫があるらしい。
「よーいどん!」
右手に金剛杖を持って、壁を走って突撃する。【師走】で壁も走れるようになりました!
壁から天井へ移動して真上から金剛杖でぶっ叩いて収納する。
ひっくり返った視界には、妙に光沢のある灰色のスライムが映った。
「なにあれ?」
『10階ボスのレア個体です! たしか、メタルスライムとか』
レアとな。確保決定。
速攻【鎮魂の鐘】でマヒさせた。金剛杖でつついて収納。後で確認だ。
『10階のボスが2階にいるのであれば、ダンジョンボスも上に来ている可能性があります』
「ダンジョンボスに追い立てられて上に上がってきたってこと?」
『可能性はあります。スタンピードの仕組みはよくわかっていませんので、これは貴重な資料になります!』
「とすると、20階まで行かなくてもダンジョンボスに会えるってことかな? ん?」
洞窟の奥の空間がぐにゃりと動いた気配がする。
「奥が、紫に変わった?」
『いえ違います。スライムで洞窟が満たされてます』
「え”」
それって、洞窟いっぱいにするくらいのスライムがいるってこと?
「ダンジョンボス?」
『ダンジョンボスです!』
「空間を埋め尽くす体で移動したら、そりゃ魔物は上に行くしかないよ」
つか、チャンスだ。あいつを仕留めればいいわけだ。
『来ます!』
「んお、ぉぉぉぉぉぉ!」
紫の空間が急速に迫って来て洞窟の壁に吹き飛ばされた。背中をぶつけて息ができない。
「【フリーズスパイラルブレス】!」
紫の空間に凍えるブレスをぶっ放した。紫がバギバギと凍って白く変わる。凍った部分が砕け散ったけど、紫は健在っぽい。でかすぎて末端しか凍らせられなかったのか。どんだけだよ。
「まぁこうなったらできることなんてひとつだけだけどね」
突撃して収納さ。それしか能がなくてサーセン。
金剛杖を2本持つ。
いくぞと思った瞬間に、大きな紫の塊が飛んできた。金剛杖を突きさして収納する。
【収納:スライムキングの欠片×1】
「ダンジョンボスはスライムキングだってっておっと!」
また紫の塊が飛んでくる。今度はご丁寧に洞窟サイズなので避けるという選択肢がない。
「まさか分裂するとか言わないよね?」
スライムだとありがち。金剛杖で突いて収納するけど次から次からくる。足止めする気か?
「急いでるんで! 【ダークネスブレス!】」
黒い光線が紫を貫通して洞窟を走る。その穴をくぐって奥にいる本体へと駆ける。金剛杖を振り回してスライムキングの欠片はすべて収納する。
30メートルほど進むと一面が紫になった。躊躇なく金剛杖を差し込んで収納する。
「やったぜ!ってんん??」
奥の方にはまだ紫が残ってた。まさか、本体が逃げてる?
収納をチェックすると。
【収納:スライムキングの欠片×433】
すごい数になってるから、これ容積かな。
こんなのどうやって倒すんだよ。
「ってことは全部収納しないと終わらない?」
食べ残しは許しまへんでって事かい!
スライムキングの体がどんどん遠くなる。マジで逃げてるぞ。
「ここまで来て逃がすかよ」
そうとわかれば投網にチェンジ。投網をかぶって【師走】スキル最大出力。洞窟の壁の輪郭が溶けて茶色になる速度だ。
ぐにゃりとした感触に当たる。ひたすら収納して、さらに走る。ゼリーの中を駆け抜けた。
「俺の収納と勝負だ!」
分裂するなら全てをしまい込んでやる。わずかでも残すと復活する予感がするんだ。
【収納:スライムキングの欠片×5276】
まだ本体じゃない。でも紫の空間は目に見えて小さくなった。大型ダンプ位だ。
「うらぁぁ!」
何も考えずに突っ込んだ。ゼリーの粘着を振り切って投網を広げて当たるものみな収納した。
【収納:スライムキングの欠片×14376】
【収納:スライムキング×1】
【→経験値と魔石にしますか?】
よし、経験値にする。
『レベルがあがりました』
【スライムキングの魔石×1】
【化身のスキル書×1】
【無限体力のスキル書×1】
【佐渡島ダンジョンマスターのスキル書×1】
何だかわからないスキル書が出たぞ?
ダンジョンが大きく揺れ始めた。日比谷と同じだ。ドローンに顔を向ける。
「踏破完了、地上へ戻ります」
足元に幾何学模様の円盤が浮かび上がり、激しく光った。




