50.入学式と佐渡島スタンピード⑪
『守君、地下室に職員がいるようです! 上物はさっさとなくしましょう!』
ドローンから京香さんの切迫した声が聞こえた。
「地下室!」
「生存者!?」
「まじか!?」
Aチームの5人も声を上げた。
地下室ってことは、上の建物はオッケーってこと?
平屋で2階はないし。
「よし、一気に収納するから、スライムが出てきたらやっちゃって!」
黒焦げで崩れそうな柱に金剛杖を押し当てる。
建物だけ建物だけ。何度も念じる。
「収納!」
一瞬で目の前にあったギルドの建物が消え、床とそこに這いずるスライムのみとなった。空は悔しいくらいの青空だ。
「あそこからスライムが出てくる!」
「あっちに下に行く階段がある!」
同時に見つけた。あふれてくる方がダンジョンの入り口だ。
「俺はあっちに行くから、下へ行く階段は任せた!」
「「「「「了解!」」」」」
床の邪魔なスライムは吹雪ブレスで吹き飛ばす。それでも飛ばないやつは金剛杖で突きさしながら走る。
人はいない。ならば。
【師走】で加速して跳躍。スライムで埋め尽くされたダンジョンの階段の真上に来た瞬間。
「【ダークネスブレス】!」
階段に向かってぶっ放した。黒い光線がスライムを闇に溶かしながらダンジョンに吸い込まれていき、ドドドドドと地面が揺れる。
階段周辺からスライムが消えた。
「オールクリア! 守いきまーす!」
階段を駆け下りた。
生存者救出へ向かったAチーム5人だが地下へ降りる階段には各種スライムがぎっしりだった。奥に見える鉄の扉からはどんどんと叩く音が聞こえてくる。
近寄るとスライムが何かを吐き出してくるので少し距離をとった。
「どうすっか」
「凍らせるべ」
「いいなそれ」
「向こうの人にドアから離れてもらおう」
「今から吹雪のブレスでスライムを掃除するんで、扉から離れてください!」
聞こえたのか、叩く音が消えた。
言い出しっぺの一宮が前に出た。金剛杖をかざし「【吹雪】」と叫ぶ。
金剛杖の先から猛吹雪が吹き付け、スライムを凍結させていく。色とりどりのスライム氷が出来上がる。
「いくぜー!」
館山がオーガ棍棒を振り上げて叩きつければドガシャンとスライム氷が砕け散る。館山は1匹たりとも逃すまいと棍棒をふるう。
千葉が鉄扉の取っ手をつかんで開けようとしたがびくともしない。
「鍵かかってませんか!」
「かけてない、扉が歪んのだのか、開かないんだ」
鉄扉の向こうから切迫した男性の声が聞こえた。
「大けがしたハンターがいるんだ!」
切実な声に館山が棍棒で鉄扉を殴る。
「クソッ、びくともしねえ」
怪力の館山が棍棒で鉄扉を叩くが凹むだけで開く気配はない。悔しさにこん棒を振り上げるも落としどころがない。
「さすがに硬いな」
「守さんがいればよかったけど」
「ダンジョンに突っ込んでいったからな」
「……なぁ、ちょっとスキルを試していいか?」
千葉が剣を肩に担いで前に出る。
「武史、なにすんだ?」
「【一閃】だ。師匠みたく斬れねえかなって」
「ほー、やってみんべ」
「ともかく手を尽くそう!」
「すいませーん、鉄扉から離れててもらえますかー!」
「承知した!」
千葉の警告に鉄扉の向こうで足音が小さくなっていく。離れたのを確認した千葉が鉄扉の前で剣を正眼に構えた。柄を握る手を緩め、大きく深呼吸をして目を閉じる。
想像するのは鉄扉を斬り裂いた自分。
偶然でもいい。たまたまでもいい。この1回でいいから。
斬れてくれ!
「やれる、やれる、俺ならやれる! うらぁぁぁぁぁぁっぁあ【一閃】ッ!!」
柄を握りしめ、担ぐように振りかざした剣を袈裟に振りきる。一瞬で振られた剣はギィィンと金属同士がこすれる音を立てて鉄扉を斬り裂いた。
斜めに切れた鉄扉の上部がガランと床に落ち、真っ暗な空間に光が差す。
望む者にこそ結果は降ってくる。
「よしっ!」
息を吐き、残った鉄扉の下を蹴り倒した千葉が声を上げる。
「ダンジョン野郎Aチーム、ただいま救援にあがりました!」
千葉にある市立船橋のハンターコースは、今日が入学式だ。普通科はすでに入学式を終えていて、ハンターコース50名のみと少し寂しい。
智美は守の代理として会場の来賓席に座っていた。隣には船橋ギルドの大多喜、勝浦ギルドの足利がいて、智美に話しかけたそうにしている。
「佐倉先輩じゃん」
「なんで制服?」
佐渡の件は当然ニュースにもなっていて、獄楽寺ギルドとして智美がいることに、しかも制服なことに会場もざわついていた。
智美のスマホは音声を消して配信につなぎっぱなしだ。チラチラ見てはため息をついている。
「無事かなぁ」
ため息をついた智美がつぶやく。それは佐渡島にいる守たちと寺にいる瀬奈や美奈子たちのことだ。
自分はここにいて本当にいいのだろうか。寺に残っているべきではなかったか。配信で寺の様子は知ることができない。自問するが答えが出ず、悶々とするだけだ。
「……向こうはどうなんだい?」
大多喜が顔を寄せて小声で聞く。
「配信の通りなんだけど、なんか自衛隊の人と一緒に降りてあとは別行動みたい。スライムは何とかなってるけどギルドの建物が壊れそうで守が中に入れないみたい」
「だいぶ難儀してるようだね」
大多喜の顔も険しい。船橋で起きた場合、もっとひどい有様と想像に難くないからだ。
「うおお、千葉先輩が鉄の扉を斬ったぞ!」
「すげえ!」
「やば!」
在校生の席から興奮した声が聞こえる。
その時、智美のスマホが震えた。葉介からメッセージが届いたようだ。
『ギルド職員とハンターを救出』
智美はスマホの画面を凝視し、すぐに配信画面に切り替えた。Aチームが助けた10人ほどの集団にポーションやきれいな包帯を渡している映像が映る。
血だらけの人がいるが、ポーションを飲んだのか普通に立ち上がっている。
野田からペットボトルの水を渡され飲んだり頭からかけていた。
「あの金髪は野田先輩やん」
「顔が汚れてるけど、カッコいい!」
「みなさま静粛に願います」
ざわつき始めた会場を諫めるようにアナウンスがかかる。が、騒ぐのも無理もない。つい先日卒業した先輩が遠い佐渡に救援に行って無事に生存者を助けたのだ。興奮するなといっても聞けないだろう。
「まもなく時間となります。着席してお待ちください」
浮ついた空気の中、入学式が始まる。
新入生が拍手で迎えられ、校長からの挨拶に移る。
智美も守が気になって落ち着かない。規格外のスキルしかない守なら大丈夫だと思ってはいるが万が一もある。自分が武者幽鬼と遭遇したように。
来賓の祝辞となり、大多喜、足利が終わり智美の番になった。
あたしはやれることをやる。そしてすぐに戻る。
頬をたたき気合を入れる。
「獄楽寺ギルドから祝辞をいただきます」
司会に呼ばれ、智美は壇上に上がった。礼をして深呼吸。
あたしが伝えたいこと。
その言葉を飲み込んで声を出した。
「こんにちは、獄楽寺ギルドの坂場智美です。ご入学おめでとうございます。心より祝福を申し上げます。本来であればギルド長の坂場守が来るはずでしたか、佐渡のスタンピード対応で昨日夕方、現地に向かいました。代わりとして挨拶をさせていただきます」
智美はまた深呼吸して気持ちを落ち着ける。ここまでは台本があったが、これから先はない。
なせばなる。なさねばならぬ。今までも体当たりでなしてきた。やるしかない!
智美は息を吸い込んだ。




