50.入学式と佐渡島スタンピード⑬
壇上の智美は意を決して口を開く。
「あたしが3年になったとき得たのは、思っていたような戦えるスキルではありませんでした。授業でダンジョンへ行った時も役立たずで、学校に行くのもつらかった時期がありました。どうしようもなくなったあたしは。船橋ギルドに先輩を尋ねました。その時にその先輩はすでに獄楽寺に移っていて、先輩の代わりに大多喜さんが話を聞いてくれました。獄楽寺はどうだと薦められました。獄楽寺には墓地ダンジョンがあり、自分のスキルが役に立つのでは?と」
智美はそこで一息入れた。又スマホが唸る。静かな会場なので、聞こえてしまったかもしれない。視線だけ向けて確認する。
『踏破完了。ケガなし』
智美の目が大きく開かれた。
よかった! 無事だ!
おっといけない。
安堵で膝が砕けそうになっていた。背筋を伸ばして新入生に向く。やるべきはこっち。
「それからもいろいろあって。でもあたしはこうして元気でいます。あの時、相談しに行ってよかったと思っています。皆さんも入学後にいろいろあるかもしれません。でも、あきらめる前に話を聞かせてほしいな。
もちろん言いにくいこともあると思う。なかなか踏ん切りがつかないと思う。先生にも、友達にも言えないことでも、よく知らないあたしとかなら、言えちゃうかもしれないよ?
自分は、ほんの少し前までは頼る方だったけど、卒業してハンターになったから、もう頼られる方。相談でも、愚痴でもいい。なんだか疲れたなって感じたらうちの寺に遊びに来てください。お茶菓子を用意して待ってます。
これを祝辞とさせていただきます。
あ、今しがたですが、うちのギルド長が佐渡島ダンジョンを踏破したそうです」
智美が礼をすると「おおおおおお!」と会場がどよめいた。
光が晴れると、そこはコンクリートの床が広がるギルド跡だった。春の優しい陽の光が降り注ぐ。
俺の近くに男性が4人倒れている。武器も落ちてるからハンターだろうか。膝をついて首に手を当てる。冷たい。すでにこと切れているようだ。
「……あれも、そうか」
少し離れた場所に、黒く焼けた遺体もある。手を伸ばした姿勢で。助けを求めていたんだろう。
「遅れました。すみません」
うちに話が来た時点ですでに亡くなっていたろう。間に合うはずはないけど、言わずにはいられなかった。
「守君、けがはありませんか?」
京香さんが小走りで来る。妊婦さんなので走らないでいただきたい。
「けがはないけど」
遺体に視線を移す。
「踏破して地上に戻ってきたらいたんだよね。俺と一緒にダンジョンから出てきたのかもしれない」
「……『紅蓮の朱鷺』でしょうか」
「身元は、警察に調べてもらうしかないかな」
俺らじゃわからん。
「守さん!」
「生存者がいました!」
Aチームの5人と、10人ほどの人が歩いてくる。後ろの人らが生存者かな。ハンターとギルドの人だろう。
「こ、これ」
「うっ」
Aチームの5人が目を逸らした。遺体を見るのは初めてだろう。俺は、通夜や葬式の手伝いで何度も見てる。
怖いものでも汚いものでもない。恐れはいらない。
誰しもが無常の果てに到達する地点で、俺もいずれはそっちへ行く。
白装束のご遺体はみな安らかな表情だけど、彼らは苦悶や恐れの顔だ。
収納からスパイダーシルクを取り出す。
「誰か、切ってくれない?」
「お、俺、やります」
俺がスパイダーシルクを広げると、野田君が短剣をカッターのようにして切ってくれた。
遺体にかぶせ、飛ばないようにきちんとくるむ。彼らはハンターとして職員として職務を全うし今世において徳を積んだ。丁重に扱わないと。
「手伝います」
「俺も」
5人は言葉少なに手伝ってくれた。5人の遺体を並べ、手を合わせる。
彼らに安らぎが訪れますように。
「『紅蓮の朱鷺』のメンバーだ。正義感の強い青年たちだったが……職員も犠牲になった。残念だ」
生存者の中で一番年嵩の男性が言葉を絞り出していた。彼のしわが目立つ顔には疲労が見てとれ、大変だったことがうかがえる
「佐渡島ギルド長の阿賀野と申します。救援で来てくださったのは、彼らから聞きました。ありがとうございました」
阿賀野さんはAチームに視線をやった。Aチームの5人は白い布を見つめ、静かにたたずんでる。
本当なら、救助したんだから喜びたいところだけど、遺体を前にそれはできないんだろう。後でたくさん褒めよう。
「いえ、自分にできることをしたまでです」
「彼らの家族へ説明は私がやります」
「よろしくお願いします」
合掌した。
部外者の俺がやるよりは、まだ理解されるだろう。
「ダンジョンボスは倒してダンジョンは無くなったけど、スタンピードは収まったのかな」
「収まったとは思いますが……」
本当にスライムがいなくなったのかは調べていかないとわからないんだろうな。それは警察とかに任せるしかない。寺が気になるから早く帰りたい。
「……踏破したって、どこに知らせればいいんだろ」
「ここに来る前に防衛相あてにメールは送りました。配信もされているので、見ていたとは思います」
「あ、じゃあダンジョン内での戦闘も配信されてた?」
「えぇ、ばっちり。ドローンで私と会話してましたよね?」
してたねぇ。
「あれは、自衛隊のバイクでしょうか」
空港の方からバイクが焼けた畑を突っ切って走ってきた。




